第16話【空中での決闘】


《バシル視点》


 なんだか面倒なことになったねぇ。

 役人のお姉さんが事情をわかってるか聞いてくるから正直に答えたら、色男の団長さんが勝手にキレて決闘だなんて言い出すんだからたまらないよなぁ。


「なんで偉い人って正しいこと言ったら怒り出すんだろう。な、キビラ?」


 愛竜のキビラの首筋を叩いてやるとキビラはでかい鼻息で答えた。

 目の前にはクランの団員が使う演習場が広がっている。


 ここにワイバーンの厩舎もつくって訓練もするっていうけど、正直せまい。

 ワイバーン対策の訓練するならこの三倍の敷地をくれ。

 決闘でたたきのめした後、演習場の真ん中でまってるあのお飾り団長に言っとかないとな。


「なぁキビラ、この仕事やべぇかもしれねぇ。だってあの団長『竜使いならワイバーンに乗って決闘しろ』とか言うんだぜ? 血ぃのぼってんのか素でアホなのか、狩人でもあるまいし、一人でワイバーンに勝てるわけねぇだろ。マジ現実見えてねぇ」


 ショーンとオルミナにはわりぃけど、終わったら逃げ出すか。

 ため息をつきつつキビラを前に進ませて開始線につく。

 仕切りは役人のお姉さんだ。


「では、これよりクラン【白狼の聖域】団長のザートと竜使いバシルの決闘を行う。命は奪うこと無く、禍根を残す事無く終わらせよ。特例としてワイバーンに随伴兵はつけないものとする」


 さすがに随伴兵もつけろと言われたらこの話は断ってたわ。

 ワイバーンに勝てる可能性なんて魔法で攻撃するか、飛び立つ前に身体強化で一気に竜使いを倒すかしかない。

 ま、俺にはそれも通じないんだけどな。


「はじめ!」


『ヒュプレシード!』


 開始の合図と同時に球状に暴風が吹く風魔法を放つ。

 火球のように爆発する俺独自の風魔法でキビラを羽ばたかせることなく離陸させる。

 

「じゃ、キビラ、軽めの火球を……」


 って団長がいねぇな。

 死角に入られたか。

 キビラを旋回させるけど、演習場全体にいない。

 

 違和感で首元の血がぎゅっとなる。

 あの細い団長が、もし、俺の知らない現実を知っていたら。

 もし俺の予想を超えた実力を持っていて、その上で決闘を挑んでいたなら。


「キビラ! 備えろ! 『ヒュプレシード!』」


 翼をたたんだキビラの右脇下で風魔法を発動させると、一瞬前までいた場所をウォーターボールが飛んでいった。


「へぇ、さっきの離陸といい、その魔法はすごいな」

 

 素早くキビラの体勢を立て直し、顔を上げた先には空中に立つ団長がいた。

 こちらを見下ろす顔は別人のように冷酷。

 なるほど、人は殺してるか。


「マジかよ……法具使いか」


 

 あんな魔法は今の世界に存在しない。

 法具を使ってなけりゃ説明がつかない。

 俺みたいに独自の魔法を組んでスキル化した可能性もあるけど、限りなく低い。


「もしお前がクランに入ったら教えてやる」


 ずいぶん突き放してくれるじゃないの。

 この人としての温度が感じられない遠さ。

 ティランジアの王にはめられた時の事を思い出すぜ。

 

「あいにく、俺は自由でいたいのよ!」


 団長の足に向けてキビラの火球を放ったけど、岩の壁に阻まれた。

 同時に次の手を打つために離脱した。


「って、ついてくんのかよ! 団長、それはキモいぜ!」


 団長がキビラの後ろを、まるで空を走るように足を動かして迫っている。

 空を駆けて迫ってくる人間なんて悪夢でしかない。


『ヒュプレシード!』


 恐怖を感じながら魔法を連発すると団長が吹き飛んだ。

 ダメージは与えられない魔法だけど、なんとかなったか。

 後は反転してストーンウォールを崩せるくらいの火球を撃てば……



「ふうん、魔素で極圧縮させた空気の粒を飛ばし、魔素が尽きたら爆発するしくみなのか」



 吹き飛ばしたはずの団長が後ろで俺の魔法の秘密をつきつけてくる。

 やべぇ。

 後ろふりむけねぇ。

 もう首に腕回されてナイフの刃があたってる。


「あーもう、降参、こうさんしまーす。お飾りなんて言って悪かったです。ちゃんと従います」


 後ろにいるのって本当にさっきの団長だよな? 振りかえったら魔人がいたとかじゃねぇよな?


「愛人とか無神経な言葉もつつしめ。まだそういう関係じゃないし、彼女は繊細だから」


 あ、やっぱり団長か。

 愛を育み中なのは否定しないのね、痛ってぇ! 耳きれたんじゃねぇの今!


「つつしみます。繊細な事情には首つっこみません!」


「よし。ああ。まだクランに入るか聞いてないけど、これからもう一幕やるから、見ていってくれ」


 後ろからやわらかい口調の声がしたので安心しかけたけど、すぐに自分の甘さを後悔した。

 こういうときが一番ヤバいって常識なのに。


「なんすか、あれ……」


 二十ジィくらい向こうの空中に、なにかうっすらと青く光る巨大な板ができた。


「これからリヴァイアサンのブレスを射出するから見ておいて欲しい」


「は?」


 いやいやいや、可能なのか? 可能でもその後どうすんだ? ここが森でも地面に落ちれば大問題だろ?


「ガチっすか?」


「ほら、あれ」


 前を向くと、板の真ん中から白い何かがでてきた。

 あれがブレス?


「あれは速いからまばたきしないように。いくぞ」


 白い何かは斜め上に向かって、まっすぐに飛び、止まった。


 よく見るとさっきの青い板に似た、雷が走る青い板の前でだんだん消えていっている。


 ブレスが完全に消えると青い板も消えた。

 はったりじゃねぇ、マジモンのブレスだ。

 まるで重さのある雷の様な轟音と存在感だった。

 

「リヴァイアサンの吐いてきたあれは今みたいに僕が防いで、リヴァイアサン本体は殿下が倒した」


「倒すのもブレスを受け止めるのもとんでもないっすね……なんでこんなものみせたんすか」


 首にあったナイフがいつの間にか無くなったのに気づいて振りかえると真面目な顔の団長がいた。


「おどすつもりはないけど、王国の”学府”かバルド教の”ハイ・エルフ”にはこれくらいの攻撃をしてくる奴らがいる、と思って欲しい。それを理解してもらうために今ブレスを見せた」


 もちろん勝つつもりだし、そのための準備もしているけどな。と笑う団長。

 こっちは笑えねぇよ……


「そういや、他の団員、ショーン達はこの光景みてるんすか?」


 俺にだけみせたってわけでもねぇだろうし、今だって街から見ようと思えば見える。

 これを見てるならなんであいつらは逃げねぇんだ?

 軍人はそれが仕事だから仕方ねぇとしても、あいつらはただの冒険者だろ。


「見てる。というか、アルバトロスとはその時一緒に戦った。詳しく聞きたいなら本人達にきくといい」


 なるほど、戦友って奴か……あんな攻撃をする相手に、あいつらよく戦ったな。

 さすが異界門事変の生き残りってところか。


 俺はあの時、なにしてたんだったかな……

 割に合わない、とかいってなあなあで済むティランジアの小競り合いで忙しいふりしてたんだったか。


 思い出すと、逃げだそうと考えていた自分が無性にくやしくなってきた。

 子供のあいつらに飛び方を教えたのは俺だ。

 なのになんで俺はまた逃げようとしているんだ?

 

「なんだ? 急にだまって」


「俺を、クランにいれてくれ!」


 気づけば、俺は向き直って入団を願い出ていた。


「誘ったのはこっちだけど、なんで決めたんだ? ショーンが心配だとか?」


 団長がけげんな顔をしている。


「俺なんか、あいつらを心配できる立場じゃねぇ。一緒に、同じ立場で戦いたいと思ったんだ」


「……そうか。それなら、下に降りて直接言ってやればいい。入団は認める」


 勝負はついたので、演習場に戻った。

 みんなに頭を下げたりして、決闘の始末をつけていたら、今度は団長が役人のお姉さんに叱られていた。

 やっぱ街の近くでやっちゃダメなやつだよなぁ。


 しきりに頭を下げる団長おかしくて他の団員達と笑っていたけど、団長の年齢としが十六かそこらだと聞いてためいきがでた。

 あの団長はやっぱりどこかおかしい。

 



    ――◆ 後書き ◆――



いつもお読みいただき、ありがとうございます。



空中で走るのってドラゴンボー●の舞空術と違って地味にキモい

という見方もある、と思います。


あとリュオネについて、どさくさに紛れてなにを言っているんでしょうね。



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