第20話【地図作成隊からの報告】

 

「アルバトロス戻りました!」


 リュオネの風邪が治ったら、どこで休暇を取ろうか考えていると、団長室にショーンの声が響いた。

 まるでこれからラバ島に向かうかのような明るさだ。いま秋だぞ。

 確か今日は、バーベン領での地図作成を終えたハンナ達から最終報告を受け取る日だったな。


「重騎・斥候兵隊によるバーベン領地図作成が終了しました。ポール斥候兵長より最終成果物を預かっておりますのでご確認ください」


 やけに芝居がかったセリフとともに、ショーンが背負っていた筒から大型の羊皮紙を”二枚”取り出した。

 ははあ、うかれてたのはこれのせいか。



「これがバーベン領の詳細な地図か。でかしたぞ」


「はい、一枚目はバーベン伯に納品すべき品、そしてもう一枚は、ポール兵長が探り出した例のブツを記したものにございます」


「「クックックッ……」」


「二人でなに遊んでんのよ」



 ショーンの芝居にのって悪い顔で笑っていると、オルミナさんから筒が飛んで来た。


「いや、だってよ。これをバーベン伯に届けたら白金貨三十枚もらえるんだぜ? そりゃ浮かれたって罰は当たらねぇだろ」


 ショーンの正当な抗議に、オルミナさんも持っていた筒を肩にあてながら同意する。


「まあ気持ちは私もおなじよ。何しろ八十人が動いたとはいえ、二週間足らずの労働で白金貨三十枚が得られるなんてケタが違うわ」


 確かに、こんな仕事はギルドでは得られない。

 募集しても地図をつくれる組織がいないからだ。

 その点【白狼の聖域】は違う。

 空から領地を描いた地図を持ち、地形調査ができる四十組の騎馬と斥候の小規模パーティを動かせる。

 こんなクランは他にはない。



「で、俺達には特別報酬がでるんだよな?」


 こっちが本命とばかりにショーンが身を乗り出してくる。

 その確認三度はしたよね?


「当然だよ。はいこれ。ハンナ達がこれだけはやく地図を仕上げられたのはデニスが地道に書いた空図があったからだ。アルバトロスには感謝してる。難民保護や拠点整備、新装備開発など出費が激しい今、この仕事ができて本当に良かった。今日はゆっくり休んで欲しい」


 報酬の入った革袋とともに精一杯ねぎらわせてもらうと、アルバトロスの面々は照れつつ良い笑顔をして出て行った。



「報酬を先払い手渡しとは気前が良いですね」


 入れ替わりにはいってきたゾフィーさんとスズさんがこちらを呆れたような目で見てくる。


「二人には事前に言っていたから良いだろ? それより地図に問題が無いか確認するのをてつだってくれ」


広いテーブルの上に地図を二枚広げて比較していく。



「やはりクローリス発案の製図法を採用して正解でしたね」


 ゾフィーさんが感心しているのは等高線という線で高さを表現した方法だ。

 異世界の方法らしいけど、この書き方なら山の有無という二択ではなく、道の険しさや行き止まりなど、地形を細かく確認できる。


「ああ、これなら道の造りやすさだけじゃなく……防衛施設も計画的につくれる」


 そういって僕らが保管する方の地図に、土魔法のクレイでつくった砦を置いた。


   ――◆◇◆――


 五台の軍用馬車に分乗した整備工兵が、馬車後部から土魔法を使い道を整えていく。

 定期的に交代することでほぼ一般の馬車の速さで道路の整備ができている。

 これも四十人の土魔法使いという集団だからこそできることだ。

 僕とコリーは常緑のアイヒが立つ丘の中腹からその様子を眺めていた。


「このペースだと……一週間くらいでつくれるんじゃないか?」


「いやいや団長、砦とか陣地の構築とかあるから、二週間は見てもらわないと。ってか今俺らやってるのがまさにそれでしょ?」


 後ろで削った斜面の補強をしていたコリーが若干息を上げながら答えてくれる。

 今僕らは道に沿う丘の中腹で、道にそうように長い溝を掘っている。

 下からは目立たないこの陣地は、万が一バーベン領に敵が入り込んだときに、地形的に有利に戦える。


「そうか、これがあったか。ポールが指定していた目印はいくつだったかな……」


「五十七。ポールは心配性だからソレっぽい場所に全部目印つけるんだよ。実際はその半分くらい作ればいいよな?」


 コリーがだるそうにため息をつきながらきいてくる。

 人も物も有限だし、バーベンまで攻め込まれていたら、ほぼグランベイかコズウェイ港に向かう撤退戦になるだろう。


「逃げるのを意識して、陣地は半分といわず最低限。砦は形だけにして、代わりに撤退時に道を潰す仕掛けをつくる、というのはできるか?」


 逃げる、という言葉でコリーは反射的に顔をしかめた。

 やっぱり軍人としては認めがたいかな。


「コリー、僕らのクランはティルク人保護のために活動している。独立戦争には利害が一致するから協力するだけで、軍事的な責任はブラディア王と貴族にあるんだ。今はそれでいいんだ。皇国から軍人としての命令が来たら、そちらを優先してかまわないから」


 ムツ大使と本国が同じ考えならば、ブラディアが負ければ次は自分の所、と考え、ブラディアを支援する。

 最悪負けても、皇国が確保したシーレーンでブラディア軍と僕達はティランジアに逃げられるはずだ。

 戦いで負けたとしても皇国軍にもブラディア軍にも次がある。

 玉砕する必要はない。






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今回はミリタリーテイストですね。

あくまでテイストですが。



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