第40話【戦いの準備、現況】



 第一次ロター沖海戦が終わってから数日がたった。

 船上砲で刃が立たなかった特殊戦艦を僕が一発で沈めた事はすでにコズウェイ伯爵により報告されていたようで、港に到着した時にはすごい勢いで出迎えられた。


 この戦果でもくろみ通り、ロジーナさんを初めとする皇国艦隊の軍人が僕を見る目は変わり、クラン団員との連携も上手くいっている。

 皇国艦隊の操船技術も操船レベルが予想以上に高く、全艦で飽和攻撃をすれば例の特殊戦艦も一隻なら沈める事ができるだろう。


「けど、一隻じゃだめなんだよなぁ……」


 ブラディア軍の意志決定機関である統合軍令部がある新ブラディア城の会議室でガンナー伯軍の一部の幹部が集まり、皆それぞれに唸っている。


「お疲れ様でーす、ミンシェンつれてきましたよー」


 ドアからクローリスとミンシェンが入ってきた。

 海戦という予想外の形でブラディア独立戦争がはじまってから、皆軍装を常時着るようになっている。

 内勤の時は自作の服を好き勝手に着ていたクローリスが軍装を着るようになってすこし寂しい。ような気がしないでもない。


「来たか。今日は異世界の戦術について確認をしていくからよろしく」


「そういうのはおうちの仕事関係でミンシェンが詳しいです。彼女メインで聞いてください」


「ちょっ、クローリス! 勝手にハードルを上げないでくれる⁉」


 クローリスがミンシェンを座らせて肩をしっかりと押さえる。


「ミンシェン大丈夫だ。言ってくれればクローリスの装備開発の負担を増やす」


「なにそれひどい!」


 クローリスが抗議するのを受け流していると、スズさんが手を叩いて場をおさめた。


「ガンナー様、会議を始めて下さい」


「はい……」


 いつも以上に切れ味のするどいスズさんに気圧されながら会議を始める。


「今日の議題の前に、現状の報告をしてくれ。まずスズさん、陸側、ブラディア要塞の準備は整ってますか?」


「はい。冒険者を吸収した王国軍、領軍を主力として魔鉱銃の訓練を進めています。それに”民兵”が加わっています」


 民兵は、引退後ブラディアに残った元冒険者達だ。

 彼らは魔素の多くあるブラディアの奥地には行けなくなっただけで、エンツォさんのように戦う力は現役時代のままという人も多い。

 彼らが志願兵になる事でブラディア軍は何倍にも膨れ上がっている。


「我々はそこに兵種別に参加しています。ポール小隊は斥候・哨戒に参加していますが、指示通りシルトも加えています」


 一旦言葉を切るスズさんにうなずく。

 人間同士の戦争はまず投石、矢、魔法の打ち合いをして互いの隊列を乱してから白兵戦になる。

 同様に、少数精鋭が敵陣に突っ込みかく乱するという、いわゆる一騎駆けというのもリスクはあるけれどよく使われる戦法だ。


「なるほど、要塞側での戦いでは特に一騎駆けに注意しなくてはならない。だからポール達斥候が学府のような精鋭を見つけ、要塞に知らせるのが重要になる。そしてその場合斥候側が全滅しては意味が無い。だからシルトを最前線に置く、というわけだね?」


 隣の席には昇格の際、王国軍参謀本部に入ったギルベルトさんがいる。

 王国軍との連携のために正式にガンナー伯付きの将校となった。


「シルトは単独ではおそらく僕に次ぐ戦力です。だから学府とも遭遇戦であれば互角以上に渡り合えると踏んで偵察隊に配しました」


 通常の戦闘技術に加え、リッカ=レプリカにはない吸収した魔素による規格外の身体強化機能をもつ六花の具足を使えるのがシルトの強みだ。

 斥候の救援にも迅速に対応できるはずだ。


「続いて、全員にリッカ=レプリカを支給したオットー小隊は前線の各門を守っています。他領の銃兵を守る盾として動けるように連携する訓練を積んでいます」


 リッカレプリカは竜骨級の血殻が必要になるため、量産はせず、リソースを魔弾製造に回した。

 オットー隊はその例外だ。彼らが長城上での戦いの最前線を支える。


「双子の塔の砲台は?」


「各階には各領軍の砲手達が控え、最上階の長距離砲及び対竜砲にはジャンヌが隊の中で特に腕の良い弓兵を残してくれたので彼らがついています」


 良かった。急な事で確認が出来ていなかったけど、ジャンヌが気を利かせてくれたみたいだ。

 魔鉱銃を当てる腕は弓兵が一番良い。そのため近距離はともかく、遠距離砲撃や狙撃は弓兵が最適なのだ。

 対竜砲についてはまだ開発中だけど、砲台を守るためには必須のものだとミンシェンからきいている。


「じゃあ次、海側の築城についてコリー、説明をたのむ」


 指名されたコリーが資料を片手に頭をかきながら立ち上がった。


「まずシリウス・ノヴァの経験を生かして俺の小隊がロター港を荒く要塞化して、仕上げを王国軍の工兵部隊に依頼。それからグランベイの北岬砦の屋上を砲台化したよ」


 グランベイの北岬砦は海軍軍令部だ。

 陸のブラディア要塞にある陸軍軍令部、女王が指揮する新ブラディアの統合軍令部と共に指揮系統が常駐する。

 そのため、竜使いによる攻撃が予想されるので、コリーに長城の法具をつかって、魔鉱銃を前提にした海上要塞化を頼んだ。

 ロター港も同様だ。



「コリーありがとう。ここまでが現況だ。説明の通り、陸側の備えはだいぶできあがっている。けれど、海側に課題がある」


 一度見回すと、皆の視線が集まる。皆課題はもうわかってるみたいだな。


「前回の海戦でアルドヴィンは多数の新種のワイバーン——イエローワイバーンに守らせた重装艦による強襲揚陸を仕掛けてきた。あれを撃退する方法は今のところ僕の法具を除けば、ワイバーンによる早期発見からの軍艦による力押ししかない。この集まりで、新しい方法を見つけたいと思う」


 あの重装艦が五隻以上造られているかもしれないのだ。

 ブラディア勢のほとんどが陸戦にそなえざるをえない今、海上の防備は僕たち【白狼の聖域】にかかっている。




     ――◆ 後書き ◆――


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