第41話【イエローワイバーン鹵獲作戦】
バフォス海峡にアルドヴィンの黄色いワイバーン、イエローワイバーンが現れたという急報を受け、ロターの長城壁を拡張して造られた広場から次々とワイバーンが飛び立った。
空中で合流したワイバーンの数は六体。
ガンナー伯軍の竜騎兵隊三体と王国軍の三体だ。
それぞれが編隊を組みバフォス海峡へと向かう。
「ようやく実戦か……」
「ああ、訓練の成果をここで見せてくれ」
ボリジオのつぶやきに後から声をかける。
今日の僕は戦闘には参加しない。
僕がいない戦場というものを見ておく必要があると考えたからだ。
バシルのキビラではなく、あえてボリジオのマコラに乗せてもらい、そこから幹部らしくワイバーン部隊の訓練成果を確認させてもらう。
第一次ロター沖海戦では伝令役として戦闘に参加しなかったボルジオだったけど、バシルからイエローワイバーンの能力についてきかされてから俄然闘志を燃やし、その後考案された戦術の訓練にも一際熱心に取り組んでいた。
アルドヴィンの重装艦対策には二つのアプローチがあった。
一つは重装艦の直接撃破。
戦艦が一つの重装艦に攻撃を集中させて敵の障壁を削りきる。
アルドヴィンとブラディアの船上砲の射程を考えれば不可能ではなかった。
実際最前線で戦ったコズウェイ伯軍からは各個撃破をするべしという声が大きかった。
けれど先に対策すべきなのはイエローワイバーンだ。
これまでの戦場でのワイバーンの運用は素早く敵陣深くに切り込んでブレスで攻撃するという、いってみれば騎馬隊の延長上にあった。
けれど、魔鉱銃をはじめとする銃砲が、空から直接攻撃する事を可能にした。
空から攻撃するのはなにも銃身がなくてはならない事は無い。
巨大な魔弾を落とせば良い。上級以上の魔法が発現すれば戦艦の破壊も可能だ。
うちでも技術部のミンシェン達はもう爆弾という巨大魔弾の開発に着手している。
それを向こうが考えつかないことがあるだろうか?
特にブラディア勢はワイバーンの数で劣る。
数体でも爆弾を抱えたワイバーンを取り逃がしてしまえば艦隊が大被害を被るのだ。
この問題を解決するには、ブラディアのワイバーンの数を増やすしかない。
「前方、敵ワイバーン編隊発見、まだ散開してないよー!」
立って警戒していた随伴兵のアマンダが遠見の魔道具をのぞいたまま警戒を促す。
バシル、カレン達も気付いたみたいだ。
バシルの号令で互いの間隔を開けていく。
王国軍の部隊も同様だ。
「いよいよか。さんざん訓練したとはいえ、緊張するなぁ」
もう一人の随伴兵のカーネルが随伴兵専用の魔鉱砲を確かめる。
「大丈夫だって、気楽にいこうよぅ」
「アマンダ、よそ見するな。バシル組が準備しろって言ってきてるぞ」
「え、マジで?」
慌てた声をあげたアマンダだったが、言葉とは裏腹に手際よく三ジィもの長さを持つ長大な魔鉱狙撃銃をボルジオの頭越しにかまえた。
アマンダの軽口は慢心からでたものではなく、散々訓練したからでた余裕なんだろう。
ボリジオ隊の訓練は陸上でしか見ていなかったけど、純粋な竜騎兵としての練度はショーン達アルバトロス以上かもしれないな。
全員の準備が整ってしばらくたち、敵影がかなり鮮明になってきた。
前回は乱戦になったけれど、まだ敵影が動く気配はない。
普通の魔鉱銃なら射程外だからだ。
しかもワイバーンは翼幕を狙われるならともかく、正面からなら魔鉱銃による魔法の一発二発ではひるまない。
敵からすれば散る理由が無いからだ。
でもそこが狙いだ。
——パァン
「百ジィ高位”水弾”発射!」
バシル組から風魔法による合図がされた直後、アマンダの銃から、そして他の五体のワイバーンの随伴兵の魔鉱狙撃銃からいっせいに魔弾が放たれた。
たった六発の銃弾が自分達の倍以上いるイエローワイバーンの群れへと飛んでいく。
次の瞬間、眼前のイエローワイバーンの編隊が白い塊に包まれた。
「ウォーター・バースト命中!」
アマンダが銃をしまい、流れるように遠見の魔道具を見た。
飛行するワイバーン上の特製の狙撃銃から射出された魔弾は弾道を変える事なくイエローワイバーンの直上まで飛び、全てを巻き込む滝を生み出した。
「イエローワイバーン失墜!」
イエローワイバーンはその身軽さもあだとなり一気に失速し海へと堕ちていく。
けれどこれで終わりではない。
アマンダの歓声を背中に受けながらボリジオはマコラの首をしたに向け下降する。
その先には落下する水より早く飛んで水の壁を脱し、再び空に上がるために海面ではばたいていたイエローワイバーンがいた。
「沈んじまえ!」
彼らに向かってカーネルがダメ押しの魔鉱砲を発射する。
二度のウォーター・バーストにより今度こそ全てのワイバーンが海に飲み込まれた。
「よし、ここからが本番だ」
ボリジオは他のブラディアのワイバーンと共にマコラを海面上でホバリングさせる。
海面にアルドヴィン王国のワイバーンが数体浮かびあがってきた。
どの竜の背にも竜使い達の姿はないけど、水面に泳いで上がれた以上、翼幕の損傷はなく、飛ぶことはできるだろう。
敵意はなく、息も絶え絶えにこちらの様子をうかがっている。
「アマンダ、カーネル、注意するんだぞ」
「「了解」」
カーネルが魔鉱砲を向ける中、アマンダが綱を伝ってほとんど身動きせずに海面に浮いているイエローワイバーンに乗り移り、竜を拘束するための魔道具を操作する。
「やった! これで私も竜使いだね!」
随伴兵は竜使い見習いだ。
手綱さばきの技術はもっているので、いざという時代わりに竜を駆ることもできる。
そしてこのように竜を得る機会があればこぞって竜に飛び乗り自分のものにする、というのが慣習らしい。
海上でアマンダの持つ手綱に従いイエローワイバーンが羽ばたきはじめる。
周りを見回すと、まるで海から立った今生まれてきたかのように小型の黄色いワイバーンが羽ばたいている。
「お疲れ様です。団長には余計かもしれないですけど、どぞ」
今回は鹵獲活動に回らなかったカーネルが暖かい飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
冬の竜騎兵の戦闘では必須だという、ボリジオ隊オリジナルの薬草茶はやたらねっとりして辛かった。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
なんだか鹵獲ばっかりしてますね。
けれど、実際の戦争では利用するだけではなく敵戦力分析のために盛んに鹵獲していたそうなので、ブラディアが特殊というわけではないのです。
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