第27話【竜の骨に対する竜の反応】
「んー、血殻なぁ」
ショーンが一言つぶやき、アローフィッシュのフリットとサワーラディッシュをロティで包んでかじる。
港に到着した僕らは、少し遅い昼食を食べている。
のどかな冬の日差しに照らされた波止場が見える二階の席だと、船乗りの潮焼けした声も気持ち柔らかめに聞こえる。
念のため、シルトが持ってきた竜の凝血骨の重さも確認したけれど、目標には届かなかった。
そもそも、魔素を限界まで貯めている寿命で死ぬような竜の骨をアルバの神像に入れても意味が無い。
まだ残っているという竜の骨は回収する必要があるけど、ブランクの血殻は何らかの別な手段で手に入れる必要があるのだ。
「……ねぇザート、竜の墓場の事、アルバトロスに話してないよね」
店から去り際、リュオネが遠慮がちに耳打ちしてきた。
「そうだった。ただしここではまずいからビーコの所にいったら話そう」
たしかに、長らく謎だとされてきた竜の墓場が見つかったということをアルバトロスに黙っているわけにはいかない。
街から離れた岩陰でオルミナさんがパートナーを呼ぶための竜笛を吹くと、ビーコが音も無くやってきて着地した。
「ちょっと良いかな、アルバトロスの皆に伝える事があるんだ」
シルトがティランジアの近辺で竜の墓場を見つけたらしいと伝えると、三人はしばらくまともな話が出来ないほど驚いた。
「伝説がマジだったってのかよ……で、場所はどこなんだ?」
「イェルドの街でスイの原石を取ってくる依頼をうけた。その時に偶然迷い込んだんだ。墓場に流れ込んだ水は滝になって落ちているようだった」
「イェルドの近くの滝っていったら、”サーペントフォール”か」
デニスがひげを押さえながらつぶやく。
そこに先ほどまでの興奮した様子は見られない。
サーペントフォールが流れ込む海域は名前の通りサーペントを初めとした海棲魔獣の巣窟らしい。
「後、竜の墓場は魔素の濃度が異常だ。ちょっとこれを見て欲しい」
シルトが少し距離をとってから棍棒ほどのワイバーンの骨をとりだすと、アルバトロスの面々が一歩さがった。
「魔素がたちのぼってやがる」
「シルト君平気なの?」
目をみはり息を呑む三人に対しシルトは苦笑すると、骨を岩の上においてもどってきた。
「この骨がある竜の墓場は普通の人間なら五分とたたず魔人になるくらいヤバい場所だった。俺は魔素を吸収する六花の具足をつけていたから平気だったけど、ザートみたいに自力で魔素を血殻に移せる奴じゃないかぎりあの場にいったらだめだ」
シルトが説明した後、回収する竜の墓場の骨はどれくらいかなど話し合うため、取り出した骨から目を離した時それは起こった。
「ビーコ?」
それまでオルミナさんの後ろにすわっていたビーコがスッと立ち上がったかと思うと、凝血骨まで一瞬で移動して骨を強大な顎でかみ割り、あっというまにのみこんでしまったのだ。
「ビーコなに食べてるの! それ仲間の骨なのよ⁉ ぺっ、しなさい!」
普段はおとなしくオルミナさんの言うことをきくビーコが口を動かしながら胸をそらしてオルミナさんの手から逃れようとしている。
これは、バシルが言っていた共食いか。
「俺もはじめてみるけどよ、竜種ってのは死んだ仲間の身体を好んで食うらしいんだ。ビーコにもその本能があったんだな」
理由は知らないらしいけど、ショーンも同じ結論みたいだ。
「ショーン、多分大丈夫ですからオルミナさんを一度連れてきて下さい」
半泣きになっているオルミナさんが連れてこられたので話を始める。
「オルミナさん、法具で確認しましたけど、ビーコは無事ですよ。それどころか体内魔力があきらかに上がっています」
一部始終をとっさに浄眼でみていたけど、骨はビーコの腹に収まった時に消え、変わりにビーコの骨格からでる体内魔力の光が強くなっていた。
「多分ですけど、竜種は濃密な凝血石じゃないと強くなるほど魔素を吸収できないんだと思います。濃密な凝血石を持っているのは同じ竜種ですから、ビーコは強くなるために仲間の骨を食べたんでしょう」
ビーコの方を改めてみると満足そうに座り込んでいた。
「ビーコ……うん、急でびっくりしちゃったけど、本能なら仕方ないし、強くなりたいんだよね。ビーコの新しい一面がみれてよかった!」
そういうとオルミナさんは足取り軽くビーコのもとに向かっていった。
またいつものように首元にぼふんと収まったりして至福の表情を浮かべている。
「ショーン、オルミナさんて、結局ビーコがやることだったらなんでも許しそうですよね」
「許しそうなんじゃねぇ。許すんだよ。そして俺もそんなオルミナを許してる」
オルミナとビーコを限りない愛のまなざしで見つめるショーンさん。
このパーティにストッパーはいないのか。
そんな気持ちでデニスをみるけれど、露骨に目をそらされた。
本当に大丈夫なのこのパーティ?
――◆ 後書き ◆――
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