第22話【灰色の大型犬】


「はい、ゴブリンの凝血石とリカバリ草四束で二万ディナです」


 昨日マーサさんを連行していった羊獣人の受付嬢が小銀貨二十枚をトレイに乗せて差し出してくる。


「確かに。じゃあリオン、半分の十枚だ」


 新人研修期間を除けば冒険者としての初収入になるわけだから二人とも思わずにっこりしてしまう。


「あら、あなたたちパーティ組んだの? ソロ志望じゃなかったかしら?」


 そこに書類をもったリズさんが通りかかった。


「そうですけど、昨日こいつに強引に誘われたんですよ、一回だけお試しってうるさいから」


「いいじゃない、色々試せたんだから。それより今日は帰ったらちょっと良い物でも食べよう」


 いやちょっとまて、こいつの中では俺が子鹿亭を常宿にするって確定なのか?


「いや、今日は外で食べよう。せっかくの記念日なんだし」


「それもそうか。よし、じゃあ昨日ビビに聞いた店に……」


 外で店に行く時に宿を確保しとこう。

 もうアウェイは嫌だ。かわいい看板娘がエールを特大ジョッキでもってくるような男くさい宿に泊まるんだ!


「……アリね」


「ですよね! 全然アリですよねー」


 カウンターの向こうでリズと受付嬢がこっちを見ながらうなずいていた。なにが?

 

「とにかく、パーティは組まないからな!」


 そう宣言すると、リオンが叱られた大型犬みたいにしょげてしまった。

 そういう顔しないでくれるかな。お前一回だけ、お試しっていったじゃん!


「……まあ、たまにならいい、けど」


 僕だって一人じゃなきゃ死ぬってわけじゃない。

 法具を活用して効率よく強くなる時間を確保したいだけだ。

 ヘタれた耳と尻尾の幻が見えてくる。こいつ犬獣人じゃなかったよな?


「月一とか……」


 ちょっと情にほだされて妥協してみる。

 はぁ、まだ耳が寝たままだよこの大型犬。ああもう!


「月二とか! ……お互いの予定が合えばいこうか」


 ぱぁぁと明るくなったリオンの表情は散歩の前の犬みたいだ。

 昔飼っていた犬もこういう表情してたな。

 あいつには振り回されてばっかりだったなぁ。


「なんだかたまらないわね……」


「ムズムズしますね」


 だからなにが!?


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