第07話【コトガネ様、リオンの師匠になる】
「おぬしか」
コトガネ様を引き上げたのは自分だと名乗り出ると、スケルトンのコトガネ様は骨を鳴らせてうなずいた。
「まずは礼をいうぞ。船が沈む際、八十の老骨は惜しくはなくとも、主上より
八十とは驚いた。
リオンと戦っていた時は気づかなかったけど、コトガネ様は生前だいぶ高齢だったらしい。
骨だけじゃ年齢なんてわからないからな……
「お礼をいうのはこちらです。コトガネ様がビンを流していなければ引き上げることはできませんでした」
「あれか。
ビンをロターの砂浜で拾っていなければ、クローリスがビンを安全に解除しなければ、僕が鞘とコトガネ様を引き上げるジョアンの書庫という手段を持っていなければ、今の結果には至っていない。
たしかに不思議ではある。
でもそういった出会いの妙は後回しだ。
僕は一呼吸置き、コトガネ様の眼窩にある灯火をみてたずねた。
「不思議と言えば、今、この状況で一番不思議なことがありますよね」
「そうじゃな。わしもたずねたいことがあるのう」
やっぱり本人も確認したいのだろう。
二人でうなずき合う。
周囲もそれと察したのか、空気が変わり静けさが増した。
「「なぜ死者から”起き上がった”のに意識があるのか」」
二人から発せられた疑問の言葉が重なる。
”起き上がった”骨や死体が生前と同じように振る舞うなんて聞いたことが無い。
「意識はいつからありました?」
そもそも、海で見つけたときにバラバラになっていなかった時点でおかしかったのだ。
「身体こそ動かせなんだが、意識は甲板に投げ出された前からあったのう」
前、というと書庫に入っていた時からか。
「何も見えない所じゃったが、身体を括り付けていたイカリの感触で、現実だと理解できた。絶えず自分の中に何かが流れ込んでくる感覚が続き、そろそろあふれるかと思ったとき、甲板に投げ出されたんじゃ」
何かが流れ込む……もしかして、魔素か?
書庫には凝血石や魔砂といった血殻に入った魔素が多くある。
大楯でリヴァイアサンの砲弾を収納したりして魔素の出し入れをしていたから、もしかしたらそれがコトガネ様に入ったのかもしれない。
「ちょっと失礼してもよろしいですか?」
僕はコトガネ様に近づき、腕の骨を手にとった。
六花の具足にしたように、魔素をコトガネ様から抜いて、再び入れる事を繰り返す。
「流れ込んできたのはこれですか?」
「うむ、これじゃな。わしが入っておったのはもしや、おぬしのマジックボックスか」
「はい。急に気分が悪くなったため、失礼ながら外に出させていただきました。マジックボックスは魔獣を含めた生物を入れる事が出来ないため、外に出すように身体が反応したんだと思います」
細かい理屈はわからないけど、どうやらコトガネ様が起き上がったのは魔素が理由らしい。
だとしたらちょっと面倒だな……
「ふむ……今出し入れしたのは魔素じゃろう?」
こちらの心を読んだかのようなコトガネ様の言葉に一瞬言葉がつまる。
「やはりか。牙持ちを狩りつづけたわしが死して牙持ちのたぐいとしてよみがえるとは、因果よの」
牙持ち、つまりこちらでいう魔人は魔素を人間に注入して同族にする。
あえて言わないでいたけど、魔素が注がれた結果目を覚ましたのなら、確定ではないけど、コトガネ様は魔人の可能性があるのだ。
冒険者としては魔人は倒すべき対象だ。
本来ならクランリーダーとして、倒せと皆に言うべきかもしれない。
とはいえ、人としての意識があるコトガネ様が魔人だとは思えない。
僕がためらっていると、周囲のざわめきが唐突に静まった。
静めたのはリオンのようだ。
こちらに歩いてきたリオンがめくばせをして僕の隣に並ぶ。
「コトガネ様、私は逆鉾の術をつかい、マガエシも使えるようになりましたが、牙狩りとしての教えを正式には受けてはおりません。なにとぞ、師となっていただけないでしょうか」
僕も助命の理由を考えていたけど、リオンの方が先に考えてくれた。
リオンが更に強くなるには師匠が必要というのなら、名目もたつ。
頭を下げるリオンにしばらく目を向けていたコトガネ様だったけれど、一つため息をつき、こちらに顔を向けてきた。
「ザート殿。わしの様な事例は前代未聞じゃ。いつ死ぬか、いつ本物の牙持ちや魔人となるかわからぬ。だが、しばらくはユミガネの娘に牙狩りの修行をつけたい。ついては、わしの中の魔素を今の半分くらいにしてはくれぬか。減らせば増やし、増えれば減らす。さすれば消える事もなく、いざという時にも狩りやすかろう」
「……わかりました。そのようにいたしましょう。私もギルドに頼み、狩人におなじような例がなかったか確認します」
幸い、クランの幹部である僕とリオンの決定にみんなから反対はでなかった。
相談の結果、コトガネ様にはバスコ隊とともに、一足先にジョージさんが用意してくれた第三十字街の拠点に向かってもらうことになった。
「帰るわよー」
書庫から出した食料や武器を持たせたバスコ隊の背中をみていると、いつの間にか、僕以外はビーコの背の上に乗っていた。
僕はクローリスをしばるための革紐を取り出しつつ歩き始める。
—— おぬしのその書庫には、わし以外の”なにか”が潜んでおったぞ ——
魔力を半分吸い出している最中、コトガネ様が皆に聞こえないように教えてくれた事が、しばらく頭から離れなかった。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回はけっこう大事めな伏線をはりました。
伏線はほかにもありますが、最後に皆さんにご納得いただけるような形にすべく頑張ります!
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