第06話【牙狩りの骨】

 新しい拠点を掃除し、入居祝いをした次の朝、ガリガリと耳障りな音で目がさめた。

 音はベッドサイドに放ってある僕のベルトポーチからしている。

 ああ、前にクローリスに作ってもらった異世界の通信用魔道具か。

 一呼吸して頭を起こしてから魔道具を取り出して話かけた。


「おはようございます、こちらザート」


『ザートさん! プラントハンターだけで良いんで、すぐヤトマリまで降りてきてください!』


 スズさんがめずらしくあわてている。

 昨日、皇国の小隊——バスコ隊には昼にギルド前に来るように言って解散させていたんだけど……なにかあったんだろうか?

 とにかく女性陣を起こして下に降りよう。


    ――◆ ◇ ◆――


「コトガネ様の遺骨が起き上がってしまったんです」


 今僕らはビーコに乗り、ヤトマリでスズさんを拾った僕らは言われるがまま、バスコ隊がいるという皇国軍人の墓に向かっている。


 バスコ隊が墓に行った理由は聞くまでもなく第二大隊の墓参りだろう。

 第二大隊の狩人——コトガネの遺体はバスコ隊に預けていた。

 スズさんから聞いて同じ場所に埋葬しようとしたんだろう。


 分からないのは、なぜこのタイミングで起き上がったのか、だ。


「ザート、あそこに人が集まっているけどそのまま降りていいの?」


「はい、少し離れた場所でおりてください。皆、戦闘準備」


 スケルトンと大柄の狼獣人がにらみ合い、それを小隊の人達が囲んでいる。

 スズさんから、コトガネはリオンとの話を望んでいると聞いたけど、上から見た限り誰かから奪ったらしいホウライ刀を握っている。

 とても友好的な状態とは言えない。


「コトガネ様。リュオネ様をお連れいたしました」

 

 ビーコから降り、集団にスズが呼びかけると、人垣がわれてバスコ隊長とスケルトンが見えた。


——?


 スケルトンがあいさつでもするかのように、おもむろに右手に持っていたホウライ刀を空にかかげた。

 と思った瞬間、スケルトンが崩れたのか思うほど地面にうずくまっていた。


「来るぞ!」


 沈み込んだ骨の身体がこちらに向けて一直線に飛んできたかと思うと、白骨の両手から繰り出されたとは思えないほど重いホウライ刀の一撃がリオンのもつロングソードの柄で受け流されていた。


 一瞬の静寂の後、両者による斬り合いが始まった。

 最初の一撃を逆手にもったロングソードの柄で受け流したリオンは、勢いを利用してスケルトンの顎に切っ先を振り込んだ。


 スケルトンはそれを余裕を持ってかわし、左逆袈裟にホウライ刀を切り上げた。

 左肘をねらわれたリオンは右後ろに下がり、踏み込みつつ右手で柄を押し下げ、変則的な右逆袈裟で応じる。


「ふむ……確かに、逆鉾の術じゃな」


 スケルトンは後ろに大きく下がり、構えを解いた。

 どうやら本気で戦うつもりはなかったようだ。


「エンデのコトガネ様とお見受けしますが、試されたのならお人が悪い」


 今の奇襲でリオンはだいぶピリピリしている。

 リオンがいつでも抜けるようにロングソードの切っ先を皮の鞘にかけていた。

 


「許せ。ケワイの髪飾りのように外見を変える道具がこちらにもあるやもしれぬと疑った。いかにも、わしはエンデが家の牙狩り、コトガネじゃ」


 こんな姿にはなったがな、と豪快にわらうスケルトン。

 その様子に、周囲の剣呑な空気もしだいにおさまっていった。

 リオンもため息を一つつき、殺気をしずめた。


「お初にお目にかかります。私はミツハのユミガネが娘リュオネと申します。外の地での生まれにて、至らぬ点がありましょうがご寛恕かんじょ下さいませ」


「おお、やはりユミガネ殿の娘か。皇国でも音には聞いていたぞ。たいそう美しい娘と聞いて楽しみしておったが、真であったな」


 コトガネ……様と言うべきだろうか? 偉いんだろうし。 

 コトガネ様は楽しげに刀を放り出して手近な岩にどかりと腰を下ろした。

 ちょっと、それあなたの同胞の墓石なんですけど。


「して、わしや同胞を陸に引き上げたのはどの者じゃ? おそらくはそこなる三人のいずれかであろう?」


 こちらに顔を向けるスケルトンの眼窩がんかの奥には凝血石と同じ色の光が宿っていた。



    ――◆ 後書き ◆――


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