第08話【植物採取:グランベイ】
「おう、お疲れ! 何してたかしらねーけど」
バスコ隊を見送り、昼過ぎに南岬の拠点、竜の巣に戻るとなぜかショーンとデニスがキッチンからでてきた。
聞けば、僕らを待っていてももどってこないので、洞窟の横穴を広げた人間用の山道を降りてギルドまで行ってみたそうだ。
僕らの行き先をきいていたらアンジェラさんに呼び出され、位階が上がった事を告げられたとの事。
「皇国戦艦を守った功績が認められたんだってよ。ずっと位階が上がるのに無縁だったのに、一気に銅級一位になったからうれしくてなぁ! 今日は昼から飲もうぜ!」
そういうわけでショーン達は様々な料理を買い込んで僕らを待っていたらしい。
ショーンは気取ってワインのグラスを磨いては天井の光にかざしている。
これだけ嬉しそうなのに水を差すなんて出来ない。
クラン結成祝いはバスコ隊と第三十字街の拠点でするつもりだったけど、昇級祝いなら今日してもいいか。
なにより料理がもったいないし。
「水回りも、年期がはいっとるが高級な魔道具を使っているから使いやすかったぞ」
洞窟を整えて部屋を作ったせいなのか、シンクやコンロが中央に集まっているキッチンで、たしかに使いやすそうだ。
感心してキッチンを見て回っていると、ショーンとデニスがいつのまにかいなくなっていた。
ウッドデッキにいるかと思ったけどいない。
「オルミナさん、二人がどこに行ったかわかります?」
クローリスが隣のオルミナさんにきくけれど、アルバトロスの竜使いは意味深げに笑うだけだ。
む、この顔は知っているな。そして僕達で考えろというわけだ。
確かにクランのパーティが相互理解をするには良い機会かもしれない。
ウッドデッキから北岬を眺めながら考える。
まずアルバトロスは竜使いのオルミナさんを中心とするパーティだ。
通常の魔獣ではない竜種を使役できる竜使いは強力だけど、ソロで活動することはないといっていい。
それは竜が一番攻撃を受ける離着陸の時、拠点を維持するメンバーが必要になるからだ。
重戦士のデニスは拠点防衛に特化しているし、槍使いのショーンは広い範囲の敵を掃討できる。
彼らは遊ぶ事が好きで、パーティの仲がいい。
あとオルミナさんはビーコを溺愛している。
そこまで考えて、単純な結論にいきついた。
「……なるほど、ビーコの所ですね」
「せいかーい」
ビーコだってパーティの一員なのだ。
いつもではなくても、今日のように大事なお祝いなら仲間はずれにはしないはずだ。
それに竜を大事にするのはこの場所をつかってきた代々の竜使いも同じだったはず。
だから竜と食事ができる設備だってあるはずだ。
空から入る縦穴に着き、岩に生えた灌木の向こうを見ると、岩をくりぬいた廊下のような空間があった。
そして思った通り、その場所で料理を並べているショーンとデニスの姿があった。
――◆◇◆――
「ビーコー、真竜になったらりりしくなっちゃったけど、それでもアンタはかわいーねぇー」
酔いの回ったオルミナさんはさっきからビーコの首回りのふわふわに顔を埋めてご満悦だ。
ビーコの近くで酒を飲む時はだいたいこうなるらしい。
それを教えてくれたデニスもかなり酔って、テーブルの上で船をこいでいる。ショーンにいたっては地面で完全に酔い潰れていた。
うちの方は相変わらずだ。
クローリスはケタケタと笑いっぱなしで飲み食いし、今はオルミナさんの横でふわふわに埋もれて眠っている。
リオンは顔が多少赤いけれど、言動はしらふのままだ。
最初は酔っていないのかと思っていたけれど、本人曰く酔ってはいるらしい。
もっと飲ませてみたい欲求に駆られるけれど、やっぱり無理に飲ませるのは良くないし、立場上、言動に支障がでる呑み方は決してしないだろう。
代わりといってはなんだけど、僕の酔い覚ましのため、エントランスの散歩に付き合ってもらっている。
この縦穴はドラゴンが離着陸できるくらいなのでかなり広い。
ちょっとした中庭になっていて、岩の隙間に少しずつ植物が生えている。
「山道側に排水路があるから水はけはいいけど、やっぱり岩ばかりだから木や草よりも苔やシダ類が多いね」
となりではリオンがはじめて庭にでる子犬のように立ち止まってはしゃがむのを繰り返している。
魔法の光の下、こうして改めてみると、本当に種類が多い。
すでに二十種類近く植物の株を書庫にしまっている。
これまでこの場所をつかってきた竜達の歴史がつまっているようで興味深い。
「ねえ、ザート」
タブレットから顔を上げると、リオンがなにかあせったような表情で、二三本群生している膝上くらいの小さな若木を指さしていた。
「ん? あれがどうかした?」
「ちょっと、実を鑑定してみて」
めずらしく要領をえないリオンの言葉を不思議に思いつつも、どこか見覚えのある実をジョアンの書庫に放り込んだ。
==
【竜の種】
・取り込んだものは竜になる。
・共食いにより複数の種を取り込んだ竜は複数の属性を持つように身体が変化する。
==
リヴァイアサンから回収したのと全く同じ情報が現れた。
「……竜の種って、本当にタネだったんだな……」
タブレットを一緒に見ていたリオンとともに小さくため息をついた。
一体どうしてこんな場所で芽吹いたのか。
「どうしようザート、こんな貴重なもの、ここに生やしっぱなしでいいのかな」
リオンが心配することはわかる。
世の中にこの種の事が知られれば、近い将来、竜が空を覆い尽くすような事態になるかもしれない。
あるいはこの種でほとんどの人間が竜になってしまうかも知れない。
それだけ、世界をかえる可能性がこの植物にはある。
「……世界の運命とは言わないけれど、少なくとも、この植物が起こすことを僕らがどうこうできるものじゃないと思うよ」
「そう、だね。この植物は世界のどこかにまだあるんだろうからね」
そう考えなければ責任の重みでつぶされてしまいそうだ。
僕とリオンは竜の種をつけた木、”竜樹”を一株だけそっとほりだして書庫に収めた。
――◆ 後書き ◆――
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