第09話【宴会前に騒ぐのはフライングだと思う】 


 今僕らはビーコにのり、第三長城の真上を飛んでいる。

 長城を挟んで右は、色とりどりの丘陵地帯が広がるグランベイ領、左は一面緑の放牧地が広がるロター領だ。

 内陸に行くに従って風が夏の潮風から、かすかに秋を感じさせる軽い涼風に変わっていく。


「真竜ってなすげぇな。七人が乗っても全然余裕だぜ?」


 翼を広げた長さは二回りほど小さくなったけれど、ビーコの体型は鳥形から尻尾を持つ四足獣型になったので、身体の長さがかなり長くなっている。


「かわりに大飯ぐらいになったがな。定期的にグランベイで食いだめしなきゃならん」


「俺たちはその間竜の巣で昼酒でも飲むか!」


 なにか後ろでよからぬ企みが進んでいる。


「うちのクランはティルク人保護が目的だから、招集に応じてもらう以外は基本自由だけど、報告書はあげてもらうからな」


「冗談だ、心配すんな。これからガンガン活躍して銀級の階段を駆け上がってやるぜ」


 ショーンが今までのどこかヘラヘラした笑いから、芯が入ったかのようなたのもしい快活な笑い声をあげて宣言した。

 今までのアルバトロスにはビーコが本来の力を発揮できないため、上昇欲があまりなかった。

 ビーコが回復どころか真竜になり、竜使いのパーティとして本格的に活動できるようになった事はやはり嬉しいのだろう。


「第三十字街が見えて来たわよ」


 先頭でビーコを操るオルミナさんから弾んだ声がする。

 プラントハンターは十字街は初めてだ。

 倉庫街、というイメージしかないけど、どんな所なんだろう。


   ――◆◇◆――


 オルミナさんは十字街から少し離れた所にビーコを下ろした。

 地上からだと野生の竜と竜使いの竜は見分けがつかないので、きづかいというものらしい。

 十字街真下の獣舎にビーコを入れるというのでアルバトロスとは一時別れ、僕らは先にジョージさんに用意してもらったクランの拠点に向かうことにした。


 倉庫街というだけあって、普通の街のように道が入り組んではいない。

 敷地は十字に伸びる長城が対角線になるようにひし形につくられている。

 整然と伸びた道路の両隣に倉庫がならび、その一階には運送業者のための店が入っていたりする。


「この赤いレンガで作られた建物がどうやら私達の拠点らしいですね」


 ギルドなどの施設にほど近い、長城十字路に面した建物を見上げてクローリスが弾んだ声をあげた。

 大きさだけなら領都の大規模ギルドの邸宅に引けを取らない。

 一階部はすぐに出入りできるようにするためか、折りたたみ式のサッシが連なっている。


「ザート、なんだか中が騒がしくない?」


 どこの倉庫が騒いでいるんだと思ってたら目の前の自分達の倉庫だった。

 サッシの窓をのぞくと、確かに中にいるのはバスコ隊の連中だ。

 もしや僕達が到着するのが我慢できなくて勝手に宴会を始めたのか?


 これはさっそく、僕のクランリーダーとしての資質が試される時がきたようだ。

 

「二人とも、中に入るぞ。とにかく話をきかなきゃな」


 頭ごなしというのもよくない。

 ここは一発冗談からはいってみるか。

 僕は喉の調子を確かめてからドアノブに手をかけた。


「おまえら! 宴会を始めるにはまだ早いぞ!」


 一階に響き渡る僕の声でバスコ隊の面々が耳を寝かせてこちらをみた。


「やっぺ、クランリーダーだ!」


 それまで騒いでいたメンバーが一斉に壁際に整列した。

 そのおかげで彼らの中心にいた何かが僕らの目に飛び込んできた。


「え、マスター!?」


 割れた人垣の向こうには、グランドルでお世話になったコロウ亭のエンツォさんが大小二刀のホウライ刀を掲げ、バスコ小隊長が壁際でよろめきつつ両端に刃をつけた短槍を構え直そうとしていた。




    ――◆ 後書き ◆――


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