第50話【旧世代の戦い】
「エルサ!」
フリージアさんの前から消えたラーシュが霧散しようとしている法具の障壁の中にいるコトガネ様にむかって叫びながら右手の剣を振るった。
現れたのは赤熱する三日月型の刃。
片手剣からは想像出来ない重厚な物体が砂浜に激突した。
一瞬の砂塵に紛れ、ジョアン叔父に支えられてこちらに逃れてきたコトガネ様の具足は赤黒く変色している。
「とんでもない魔素量じゃのう。ほれ、シリンダーを一本使ってしもうた」
豪快に笑いながらコトガネ様が黒くなったシリンダーを投げてきたのを慌てて受けとめる。
これ危険物だからやめてほしいんだけど⁉
「色が戻ってる……やっぱり六花の具足のレプリカは改良されているようね」
溶けて赤く光る地面を前にしたエルサが苦々しそうににらみつける。
「最上位火魔法のホウラクを撃ち出す魔法剣か。俺がいねぇ間にまた新しい法具を手に入れたみてぇだなラーシュ?」
切っ先が二つに分かれて拡がっている処刑人の剣と神像の右眼を手にもつジョアン叔父がエルサをかばうようにして立つラーシュに問いかける。
「お前に手持ちの法具の大半を砕かれたおかげでな。だがお陰で手に入ったこの破格の双剣を手に入れた。エルサの八天蓋と同じく神器級の宝剣だ」
「まだ盗賊稼業から足を洗えてねぇなんて救えねぇなお前ら。だがラーシュ、もうこれ以上地方回りはさせられねぇぜ。その八天蓋も今度こそ砕く」
ラーシュだけじゃなく叔父にも思う所があるのだろう。
処刑人の剣を盾剣の上にのせた叔父から殺気があふれてくる。
応じるようにラーシュも素早く左右の構えを反転させた。
それだけで周囲に陽炎がうまれる。
両刃の双剣の剣風は早い。どうするか……
(ザート君、要塞にスズ達が向かったから追いかけて欲しい)
僕の後ろにいたフリージアさんが無表情にボソリとつぶやく。
(戦い始めたら全力で長城の上を走ってくれ)
「いくぜ!」
僕の口を塞ぐかのようにジョン叔父の大声と共に三人がラーシュ達へと殺到するのを横目に、僕は頼りない身体強化で長城壁上に駆け上がった。
「……ん?」
さっきまでロター要塞の長城大門に殺到していたアルド兵達が逆に出てくる、どうなってるんだ?
「スズさん、スズさっ……」
疑問に思いつつもロター要塞の露天部にたどり着くと、そこは荒れてはいてもすでに最前線ではなく、コリーの小隊が敵戦艦の砲兵を掃討戦のごとく沈黙させていっている所だった。
「あ、団長、そっちは敵倒してきたのか?」
近くで待っていたらしいコリーが駆け寄ってきいてくる。
けれど、その様子はどこか投げ槍というか、まるで戦いがおわっているかのようだ。
「敵にはジョンさん達とコトガネ様が当たっている。問題ない。僕は重装艦を止めた所で……いやそれより、敵が外に逃げだしているみたいだけど、どこか増援が来たのか?」
「あ、それな。増援、きたんだよ」
微妙な顔をするコリーに並んで作戦室に入るとシャスカとサティが所在なげに座っていた。
「ザート! 生きておったか」
ぱぁっと顔を明るくして近づいてきたシャスカだったけど、指輪が無いのに気付いたのか下からにらみつけてきた。
「お主、神像の右眼はどうしたのじゃ? よもや戦闘で敵にとられたのではなあるまいな?」
「今は僕が使えないからジョンさんに戦いで使ってもらってるんだよ。重装艦を破壊したせいで僕の体内の経路がおかしくなったみたいだ」
事情を話すとシャスカはあっさり納得したみたいだ。
「ああ、ジョンも昔なっておった奴か。まあ数日経てば治るやつじゃな」
ええ……、こっちは戦力が一気に落ちて焦ってるのにその平常心はなんなの?
「それよりシャスカ、スズさんは戦っているだろうけど、リザさんはどうしたんだ? こっちに来ているんだろ?」
こちらが訊ねた途端、シャスカもコリーと全く同じ表情になった。
無表情に若干の面白さを張り付けたような表情のまま、作戦室の外に出るように促してくる。
「まあ、見るがいい。見れば理解できよう」
仕方ないから四人で連れ立って地上部に向かって階段を下りていく。
なんなんだ二人とも。
「なんなんだあの人ら……」
地上部のホールでアルド兵を押し返しているのは新ブラディアに残してきた【白狼の聖域】の団員達と、彼らを率いている、僕もよく見知った人達だった。
「軽い、軽いなぁ!」
密集して銃のメリットを生かせないアルド兵の集団に食い込む矩形。その突端にいるのは、いつか見た赤い斧を嬉々として振るうドワーフだった。
「マーサどいて、一度散らすわ!」
ホールに響くのは今はもう旧王城の謁見の大広間に響いた女王の声だ。
各属性の魔法を使い分け、敵を怯ませ、大門の外に誘導していく。
陛下、なんで戦ってるんですか?
「フィオ、右翼をかき乱して、エンツォ、サポート!」
風魔法を併用しているのか、二倍の加速をした僕と同じくらいの素早さでフィオさんが敵の中を駆け回る。
彼女を捕らえようとする、戦意のあるアルド兵もエンツォさんの双刀で瞬時に刈り取られていく。
「俺らちょっと邪魔じゃね? ってなって上で援護してたんだよ」
コリーの視線の先には声高らかに指揮しているエリザベス一世女王陛下の隣にたつスズさんがいた。
とても居づらそうに挙動不審にしている。
そうだよね、ここにきて戦闘に参加するとなんかアウェイ感あるものね。
ここが戦場であるにも関わらず、あまりに一方的な展開を見て、僕は戦意とともに表情をなくしてしまった。
ああ、生き生きしてるなぁ元【クレードル】達。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
【クレードル】はエンツォ達旧世代が組んでいたパーティ名です。
ちなみに旧世代の銀級は現世代の金級に相当します。
冒険者の層が厚かったせいですね。
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