第19話【法具回収部隊の襲撃】
建国式典とその後の晩餐会の後、僕をふくむ直接叙爵された七爵とリュオネたち来賓はリザさんに促されるまま、双子の塔の途中にあるバルコニーにあがっていた。
「陛下、敵におとされるならまだしも、王城を御自らの手で破壊するとは……」
手すりを握りしめたコズウェイ伯が大きくため息をついた。
「これは必要な事です。近衛兵から街の古着屋まで、王都の住民にはすでに知らせています。大きな混乱はおきないでしょう」
黒鳥竜の羽毛でできたしなやかなマントを肩にかけたリザさんはすでに女王としての風格を漂わせている。
リザさんの決心がゆらがないとわかりコズウェイ伯が目をつぶる。その肩に節くれ立った無骨な手が乗せられた。
「コズウェイ卿、お主もわかっておろう。大森林からの魔獣に対抗する形でつくられたブラディア城はアルドヴィン側から攻められると弱い。それだけではなく、あそこを敵に取られると、第一長城攻略のあしがかりとされてしまう。この塔を唯一の防衛拠点にするためにも王城は跡形もなく崩してしまう他はないのだ」
南方軍でも活躍したニコラウス伯の言葉にコズウェイ伯もため息を一つつき納得したようにうなずいた。
「しかし、王城を破壊するのであれば、陛下はどこを拠点にされるのでしょうか」
ロター伯がおずおずと尋ねる。
順当にかんがえれば、主が今いないグランベイに入城するのが自然だ。
あそこなら海と陸の両方の戦況をすばやく知る事ができる。
けれど、リザさんは微笑みをうかべたまま何も答えなかった。
「……む?」
階下から何か慌ただしい甲冑の音が聞こえてくる。
「何かあったのかな?」
リュオネの呟きの直後、息の上がった伝令兵が階段を上がってきた。
「っ申し上げます! 王城を崩す作業を行っていた王国軍工兵隊が敵襲をうけております!」
「なんだと!」
周囲の動揺を素早くおさめたヘルツ大臣が詳細を問いただすと、どうやらこちらの警備をかいくぐり潜入した少数の敵が攻撃をしているらしい。
法具にからむなら、おそらく魔法考古学研究所の法具回収部隊だろう。
リザさんが輝く黒いマントをひるがえしてこちらに向き直った。
「ガンナー伯、事態は一刻を争います。最速で王城にたどり着き、手練れの魔術士と渡り合えるのは貴方でしょう」
即座に女王の意向を理解した僕は片膝をつき命ぜられるのを待った。
「敵が少数であるならおそらく狙いは長城の法具です。選抜した者に後を追わせますので、先行して兵と法具を守って下さい」
「承りました、では一足先に行って参ります!」
バルコニーの手すりを跳び越え、足元の大楯から出した岩を踏みしめ、王城へと急いだ。
長城の法具は防衛戦の要となる。
敵の手に落ちればこちらの長城を溶かされてしまう。
絶対に奪われるわけにはいかない。
崩壊しかけている王城の近くまで近づいた後に長城に降り立ち、神像の右眼から一般兵が持つ量産品の盾とミンシェンの打ったホウライ刀を取り出した。
神像の右眼はみせない。
敵にさらす情報は少ないほど良い。
装備をととのえながら長城を駆けていくと、先ほど後にしたばかりの王城が見えてきた。
すでに屋根はなく、側塔なども崩れている。
長城と大階段でつながっている王城の中庭に、見覚えのある四輪の法具が停まっているのが見えた。
円陣を組んで法具を守っているブラディア兵は二十名程度しか残っていない。
浄眼で確認した所、生き残っているのは彼らだけみたいだ。
いや、奥でまだ一人戦っている。
「ギルベルト⁉」
僕が長城から一気に中庭に飛び降りたのと、敵と切り結んでいたギルベルトさんが石畳に組み伏せられたのは同時だった。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
伯爵の初仕事が敵の迎撃ってどうなの?
という考えもありますが、ブラディアの貴族は世襲ですが、だいたい戦えます。
戦えないのはロター伯とグランベイ男爵(故人)くらいです。
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