第48話【魔素枯渇、からの逆転】
《ザート視点》
リオンを射出した直後、水煙の中からリヴァイアサンが首をもたげてこちらをにらんでいた。
今までの砲撃の間隔はブラフだったか。
向こうだってバカじゃない、敵が近づいてくれば罠くらいはるということだ。
食いしばった歯の間から熱い息を漏らす。
こっちの手札が少なかった、なんて泣き言を言っても始まらない。
ここからまた最善を尽くすだけだ。
『落城の岩!』
これも”飛び石”と同じくリオンに名前をつけられた奴だ。
ネーミングセンスについては、何も言わないでおこう。
僕の速度に落下速度を上乗せして、古城のがれきがリヴァイアサンに向かっていく。
これでリヴァイアサンは岩をかわすか攻撃するはず。
ただ問題なのは、僕にもう大楯を展開する魔力が残っていないということだ。
敵がさっきまでと同じ砲弾による攻撃をしていた場合、僕が収納することはできない。
収納することができない以上、射線から外れるのが取るべき行動だ。
でも僕の後ろにはクローリス達が乗る戦艦がある。
砲撃が当たれば、戦艦は破壊されるだろう。
それこそ、海底の残骸と同じく、原型をとどめないほど粉みじんに。
そんな攻撃を受けて、クローリス、アルバトロスの皆、大使、皇国軍部隊で誰が生き残れるのか。
戦いに犠牲はつきものといって、生き残った人は多分僕を許すだろう。
味方の誰がしくじって、誰がそのわりをくったかなんて、言い出せばきりが無い。
他人に許されるのは当たり前だと頭ではわかっている。
……
……
……
——戦いにおいて、人が死ぬ原因は、結局のところ迷いだ。
異界門事変で部下を切り捨て生き残ったという学院の教官は言い切った。
「攻撃か防御か。進軍か撤退か。……味方と心中するか見捨てるか。選べず迷うものはなにも得ることができない。なぜなら土壇場で迷うという事は自分が欲しているものがわかっていないからだ。そして”迷い死”していく」
迷い死にという言葉はこの教官がよくつかっていた言葉だった。
「迷った者はたとえ偶然勝ちを拾っても、何が欲しいか分かっていないため、喜びにひたれず、一生喪失感を抱えて暮らすことになる。何かわからないけど、何か失ったかもしれない。そういう不安にさいなまれて暮らすことになる」
けれど教官は切り捨てたはずの部下への罪悪感からか、教官の職さえ辞した。
まるで自らを罰するように、古い異教の修道僧となったという。
他人は許しても、自分が許さなかった。
彼みたいに切り捨てたものに一生しばられるなら、それも”迷い死”じゃないのか。
切り捨てようが切り捨てまいが死ぬのなら、僕は最初から選ばない。
傲慢でも、その先が途切れていようとも、全員が生き残る道を選ぶ!
瞬時の走馬灯から目覚めた僕は首元のエアバレルを身体強化した指で破壊した。
——今回贅沢な道を選べるのは、勝ちが見えている手段があるからだ。
飛び出した六個の圧縮凝血石を収納してバックラーのチャンバーに転移装填。
——この先勝ち筋がみえない場面がでてくるかもしれない。
——それでも僕は選ばない、切り捨てない道を選ぶ。
『大楯!』
まるでコトダマのように全力を願いながら書庫の取り込み口の名を叫ぶ。
大楯がかつて無い厚さになったせいで、見上げても先は見通せない。
ブルーモーメント色の空を見上げている錯覚を覚えていると、リヴァイアサンの銃口の奥が、暁の明星の様に光るのが見えた。
——来いよ、飲み込んで、お前の同族にぶちこんでやる!
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