第57話【アルバの使徒として】
異界門はアルバ神であるシャスカによって完全な形で封印された。
居合わせた人のほとんどは互いに喜び合っているけれど、笑っていない人が一人いる。ギルベルトさんだ。
シャスカは異界門を封印はしたけれど、まだブラディアに協力するとは言っていない。
これからその交渉をしなければいけないのは僕だ。
僕はギルベルトさんに一つうなずいた。
「シャスカ、ジョンさん。異界門を封印してくれてありがとう。二人に今後の事について話があるんだ」
僕は二人に改めてブラディア王国がアルドヴィンから独立した事、王国から封印の鍵の確保という依頼を受けているという事を伝えた。
「ふむ、ブラディア王国に協力してほしい、か。それは我が決める事ではないのう」
取引が必要ということか。
先ほどとは打って変わって冷徹な
「神は信徒あってこそ神になる。我が求めるのは完全に独立したウジャト教団の復活じゃ。ブラディア王国が国内でウジャト教団の布教を認めるなら協力しよう」
そこまで言うとシャスカの口元がつり上がり、それと、と続けた。
「我は人を一人所望する」
人を所望? もしかして生け贄が必要なのか?
警戒しているとジョアン叔父がシャスカの頭を軽くはたいた。
「シャスカ、脅かすんじゃねぇよ。要はザート、お前にウジャト教団の使徒になって欲しいんだ」
言いたいことはわかったけど、それ神様の頭だよね?
そんなに気軽にたたいていいものだっけ?
「使徒ってなにすればいいんですか?」
「我の信徒になってもらう以外は今まで通り、これらを使って育ててくれればいい」
そういってシャスカが小さな手の平にのせた二つの指輪を見せてきた。
さっき封印の時につかった指輪だ。
「言っておらんかったが、お主が神像の右眼をここまで育てておらねば我も異界門の封印は出来ずにいた。我が神として成長するにはお主の協力が必要ということじゃ」
そういう事なら是非も無い。
シャスカがブラディアに協力する上で僕という存在が必須になるという状況はブラディア国での僕の価値が高まるということだからな。
あ、でも一つ確認しなきゃな。
「ジョンさん、ちょっと」
ジョアン叔父をちょっと離れた所まで引っ張っていく。
「……ウジャトの教義に異教徒との結婚禁止とか無いよね?」
こんなこと本当はジョアン叔父にもききたくない。
でもあの場じゃなくてもシャスカにきくのはだめだ。
訊ねた瞬間に周りにばらされる確信がある。
思った通りジョアン叔父は顔をにやけさせきいてきた。
「ほーう? 堅い奴に育ったと思ってたが、もうそんな約束する相手がいるなんてやるじゃねぇか。で、誰だよ、あの中に結婚を約束した娘がいんのか?」
振り向きそうになる叔父の顔を強引に引き戻す。
「あとでそのうち教えるよ。で、あるの、ないの?」
「異教徒との婚姻禁止なんてねぇよ。アルバ教はあんまり教義が緩すぎてシャスカの三代前に他の神に出し抜かれて文明が滅びたぐれぇだ。シャスカはもう少し厳しくするって言ってたけどあいつの性格からしてたいしてかわらねぇだろう」
無精ひげをなでながらジョアン叔父がにやつきながら答えてくる。
人の弱みを握ったような顔をして、自分こそ大切な人をさんざん待たせていたくせに……
それを思い出した途端、体内の奥深くで何かが拍動した気がした。
そうだった。
国からの依頼を達成しても、ジョアン叔父を本気で助けようと思った原因を解決しないと、この回生作戦は本当の意味で終わった事にはならない。
これからフリージアさんを回生させてジョアン叔父に会わせる。
すべて終えてからライ山を後にしよう。
「ジョンさん、皆の所に戻るよ。やることを思い出した」
こちらの真剣さを理解してくれたのか、ジョアン叔父はにやけていた表情を引き締め、黙ってついてきてくれた。
「急にいなくなりおって、一体何の話をしておったのじゃ?」
「ごめん、気にしないでほしい。今までと変わらないのなら問題ないので使徒になるよ」
「それは何よりじゃが……どうした? そんな顔をして」
怪訝な顔をするシャスカに対して、リュオネ達は僕がしようとしている事を理解したのか、真剣な顔をしていた。
「ええ、これからもう一つやらなきゃならない事があります。リュオネ、行こう」
不思議そうな顔をするシャスカ達と他の皆を残して、僕とリュオネはワイバーン達の後ろに場所を移す。
「ジョンさんにはこれからする事を伝えなかったの?」
「万が一があるからな。期待させておいて落胆させたくない。でももちろん失敗するつもりはないよ、絶対に成功させる」
改めて気合いを入れ直し、魔人となったフリージアさんと、彼女が横たわっていた棺桶を別々に取り出す。
「それじゃ、リュオネ頼んだ」
「うん、絶対成功させるよ」
魔人を神像の右眼の中で人間にもどすには一度魔人の魄——血殻を破壊しなければならない。
それが出来るのはリュオネの三刃の鞘だ。
これまでで一番といえるくらい集中したリュオネが静かに天魔反戈と唱える。
そして、おとぎ話の姫のように眠り続けるフリージアさんの心臓に逆鉾を突き立てた。
刀身の周囲を回る血殻が翠色の光を強めると同時に、黒い影が浮かぶ。
フリージアさんの肉体はまだ残っている。
大丈夫、魔人としての魄が破壊されていれば肉体が残っていても問題ない。
リュオネが逆鉾から手を離したタイミングで、僕は大楯をつかい、逆鉾とともにフリージアさんの全てを法具の中に収納した。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
ザート、ナチュラルにリュオネとの結婚を視野に入れています。
そのあたりは次章で書きます(予告)
ご期待下さい!
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