第24話【クローリス、一人祝勝会(1/2)】


《クローリス視点》


 北岬砦から坂道を下る途中、夜の色にかわりつつある空をながめると、いくつか星が見えます。

 冬が近づいて日が落ちるのが早くなりましたねー。

 手に息を吐きかけてから幹部用の白銀のマントを裏返します。

 街に降りるのにそのままじゃ目立って仕方ないですから。


 変色の魔道具を調整して……、ふふ、今日の気分は山吹色です。


 なぜなら、お金がはいってくるから! 

 ついさっきグランベイの領主、ファストプレーン男爵と地図作成の契約を結んだから!


「グランベイ攻略、やりました!」


 ここまでくればもう北岬砦に声は聞こえません。

 存分に吠えてやります。


「どんだけこっすいねーん!」


 本当、ストレスのたまる交渉でした。

 バーベンのおじいちゃんとのわきあいあいとした話し合いが恋しいですよ。


「ほんとに、おつかれさまでした」


 隣を歩くゾフィーさんがため息をついたので、持ってもらっていた荷物をいただきます。


「王都までの直線街道を作る、って条件に最後までしがみついて! 最後まで納得してませんでしたよねアレ!」


「長城を作る魔道具はブラディア王しか持っていないですし、そもそも交通を長城に限定するメリットを理解していないのでしょう。あるいは分かっていても、領内から得る税金を増やしたかったのでしょう」


 私のグチに淡々と応じるゾフィーさん。

 いつもの構図です。

 

「今日は呑みましょう! パッと祝勝会しましょうよー」


 ストレス溜めるの良くない!

 私は何事もその日のうちに解消したい派なのです。

 久しぶりのグランベイ、なにを食べましょうか。

 ですがゾフィーさんの反応がかんばしくありません。


「……今日は遠慮します。市場ですぐ食べられるものを買って、拠点でゆっくりさせてもらいます」


 そういって肩をもむゾフィーさん。

 むぅ、本気のお疲れですか。そういわれては仕方ありませんね。

 竜の巣も下手なレストランより快適ですし。



 市場で暖かいマルドワインに加えて、ウルソ茸と帽子ウサギのシチューや味をつけたオイスシェルなどを買い込んで、ゾフィーさんは南岬の拠点に続く坂を登っていきました。

 足取りが軽いのはやっぱり楽しみだからでしょう。

 わかります。竜の巣の暖炉って暖かいですよね!


「でも、今日の私の気分はオイスシェル鍋なのです!」


   ――◆◇◆――


「「「ぇらっさいっせーっ!」」」


 私がのれんをくぐったのは夏にも来たお寿司屋さん、トヨアシハラです。

 あいかわらず威勢が良いですね。


「あらクロちゃんおひさしぶり」


「あ、おミキさんご無沙汰してます、それとクロちゃんはやめて?」


 若女将のミキさんは偶然にもハギの模様をした山吹色の着物をきてました。

 このやりとりも久しぶりですね。

 初めてお店に来たときに酔っ払ってリュオネの秘密を暴くという大失態を犯した私はその後もちょこちょことお店に通って”殿下がいるって内緒ね”とお客さんにふれてまわりました。

 それくらいしか私にできることはありませんでしたし……


「今日のお目当ては?」


「ホウライ酒ぬる燗とオイスシェル鍋で!」


 突き出しのお皿を置きながら聞いてくるので元気よく注文すると、ミキさんははいはいと笑いながら去っていきました。


 まわりをみるとみんな暖かい鍋や焼き物を頼んでいる人達ばかりです。

 そして家族やカップルばかり。

 この季節は人恋しいですからね。私は寂しくなんてないですけど。


 このお店に通ったせいでお一人様でご飯を食べるのにも慣れました。

 ええ、寂しくなんてありません。


 そんな事を考えつつ待っていると、厨房の若い衆が箱にシャコ貝のように大きな貝を乗せて運んできました。


「はいオイスシェルおまち! 熱いよ!」


 殻をささえる石もあついので、熱気がむわっと来て、すこし速いですけど、これぞ冬という感じです。

 ぶつ切りにしたオイスシェルの白い身がぐつぐつぷるぷるとして……はやくたべたい!


「はいぬる燗お待ち!」


 続いてミキさんがお酒を持ってきてくれたので、一人祝勝会を始めたいと思います!

 おなかは突き出しの山芋で準備万端。

 悪酔いすることもありません。

 冬は熱燗、というおじちゃんは多いですけど、私にはまだちょっとはやいかな。

 ほどよくあったまったお酒はほんわりとやさしく身体を温めてくれます。


「そして、本命〜」


 小鉢にとっておいたぶつ切りの貝の身と、冬なのに鮮やかな緑のガランマムを一緒に食べると……うは! プリプリです!

 ゆずの香りのガランマムと味噌味のオイスシェルが、先におなかに入っていたお酒をかっとあたためてくれて、うん、たまりません!


 追いかけるようにお酒を一口、するとさっき食べたオイスシェルの旨みが戻ってきて、あ、これは無限ループの予感……

 いやいや、ここは控えなければ、二度もやらかしたら出禁になってしまいます。


 おつゆも飲んで……あぁ、しみるぅー。

 これはたまりませんねぇ!




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


久しぶりのでっちあげ料理回です。

クローリスがリポーターになってますけど、彼女はザートとは違う方向で器用貧乏です。

戦闘しない無自覚無双というやつでしょうか。ちがうか。





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