第09話【ティランジアの魔物——メドゥーサヘッド】


 ビザーニャから北西に海岸線沿いに進むと、ティランジアから西に突き出した高さ二十ジィほどの岩でできた半島に突き当たる。

 北部は急峻な崖になっているけど、半島の南部は白い砂浜が綺麗な弧を描いていて、ビザーニャにもう少し近ければラバ島のように観光地になっていただろう。


 【白狼の聖域】の海外拠点となるシリウス・ノヴァ建設は工兵、斥候、魔法戦士から選抜した混成小隊が建設することになった。

 まず僕やコリーが先行して長城壁で土台をつくり、後発の混成小隊が細部を作っていく方針だ。


「じゃあリュオネ、こっちはまかせたよ」


「うん、いってらっしゃい!」


 半島での測量調査と作業計画の作成は斥候のポールと工兵のコリーが担当する。

 リュオネが率いる衛士隊と竜騎兵は彼らの護衛兼サポート役だ。

 皆を半島の砂浜に残し、僕は一人飛び石でその場を後にした。



 『蛇神の祭壇』が長城壁を作り出すには、凝血石にくわえて岩や砂礫されきが必要になる。

 半島の上部や砂浜の砂も使うけど、それだけでは全然足りないので僕が近くの岩山から取ってくることにしたのだ。


 半島が見渡せるほど高く駆け上がり、地形を把握しながら移動していく。

 半島の根元をすぎ、ティランジア本土に入ると、小型の岩山と灌木が混じる草原が続いていた。

 岩と砂の砂漠ばかりのティランジアでは珍しい光景だ。

 多分海からの霧や湿った空気が岩山に当たって草を育てているんだろう。

 岩石をとってあまり地形を変えるとせっかくの草原が狩れるかもしれないな。


「よし、このあたりなら大丈夫だろう」


 岩山群の奥に丁度良い岩盤があったのでそこに降り立つ。

 岩を持ち運ぶにはある程度くずしておかなきゃな。


「チャージ・オロクシウス!」


 レナトゥスの刃を取り出して一振りして震動する巨大な鉄杭を撃ち出した。

 空気を震わせる鉄杭を高速で岩盤に突き立て、大小の岩を弾き飛ばしながら岩を砕き掘り進めていく。

 岩を収納すると、あっというまに十ジィ程度の縦穴が現れた。

 よし、ここからは横に岩を砕いていこう。


 一時間もたつと、二百ジィ四方ほどの穴ができあがっていた。


「……ちょっとやり過ぎたか」


 途中から楽しくなってきて、予定以上に掘り進めてしまった。


「これだけの穴だから、何かに使えないだろうか」


 水があればため池とか考えられるんだけど、この辺りじゃ期待できないよな。

 あ、そうだ、せっかくだから異界で倒した魔獣の死骸を出しておくか。

 どうせ処分に困っていたものだ。実験がてらここに放置しておこう。


 しばらく待つと、魔物の気配が近づいてきた。

 

「よし、やっぱりきた」


 後ろを振りかえると、崖の上から見た事の無い魔物が下りてくる所だった

 オーガくらいの肉体に蛇の頭がついている。

 まさかとは思うけどこの蛇頭、未知の獣人じゃないだろうな?


「%$&(」


「’()&’%!」


 こちらに近づくなり、槍を構えだした。

 言葉は汎用語ではないな。まるでわからない。

 槍の材質は鉄ではないみたいだけど、細かい彫刻がしてある。技術レベルが低いわけではないのだろう。


 横に移動すると、蛇頭達は一直線に魔獣の死骸へと群がった。

 彼らの正体が気になるけど、調査は今度にしよう。


「!#”#$%!%!!」


 この場を去ろうとしたところで、蛇頭の一体がこちらに槍をつきだしながら進んできた。

 こちらは敵意を見せていないのに向かってくる攻撃的な生物なら見過ごせない。

 半島の部隊の安全を確保するためにもこいつらの強さを確認する必要があるか。


「’)#!」


 槍を突き出した蛇頭をレナトゥスの刃で袈裟切りにする。

 本来刃のないレナトゥスの刃だけど、収納している刀剣の一部を出しておけば実質刃があるのとおなじだ。

 

 ホウライ刀の刃で両断された蛇頭の身体が崩れ落ち、黒い泥にかわった。

 どうやら蛇頭は獣人ではなく魔物らしい。

 槍を繰り出す動きは素朴だけど、元々の身体能力が高いのか、穂先はかなり素早い。武器をもったオーガといったくらいか。

 凝血石の大きさもオーガくらいだ。

 拠点の近くに来られると厄介かもしれない。


 一匹が倒されたことでこちらを脅威とみたのか、死骸にむらがっていた蛇頭が次々にこちらに向かってきた。


「ファイアボルト・デクリア!」


 十連のファイアボルトを蛇頭の群れにたたき込んだ。

 多少ひるむけれど倒れた個体はいない。

 せまりくる二本の槍を切り落として距離をとって他の属性魔法も試す事にした。



「基本四属性に耐性あり、って厄介だな」


 無傷ではないものの、どの中位魔法でも五、六発たたき込まないと倒れてくれなかった。


「(’&%%%”#$!!」


 それでもほとんどの個体は倒した。

 残ったのは一回り大きい、群れのリーダーだ。

 大きな石鎚のついたウォーハンマーを振り回してこちらの退路を断とうとしてくる。


 縦振りを横にさけ、追いかけてきたハンマーのくちばしをレナトゥスの刃からとりだした鉄盾ですり上げる。

 空中を泳いだ一瞬をとらえ、リーダーの両手首をレナトゥスの刃で跳ね飛ばし、ウォーハンマーが落ちる前に踏み込んで蛇頭の心臓を貫いた。


「これで全部か」


 黒い泥に変わるリーダーを一瞥し、周囲を見渡す。

 そこかしこに蛇頭の凝血石と槍など持ち物が落ちている。


==

メドゥーサヘッドの槍

ラオ・メドゥーサヘッドの戦槌

:凋落したイルヤの民が使う武器

==


 収納し鑑定するとこのような結果がでた。

 魔物の名前はメドゥーサヘッドというらしい。

 ここに死骸を置いておけばメドゥーサヘッドや魔獣が溜まっていくだろう。

 呼び寄せられた彼らが穴に溜まってくれれば周囲の魔獣は減る。

 この辺り一帯の危険性も小さくなるだろう。


 さて、じゃあ岩石を建設予定地まで持っていくか。 




     ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます


ティランジアの開拓が始まりました。

パイルバンカーで自然破壊をガンガンしていくスタイルですが、メドゥーサヘッドは善良な先住民というわけではありません。ご安心ください。


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