第08話【新しい拠点の作り方】


「ブラディアの独立戦争が始まる前に、ブラディア以外に拠点をつくるべきだと思うんだけど、どうかな?」


 視察を終えた僕とリュオネは幹部会議を開き、さっそく議題を口にした。

 ピンとくる者こない者、幹部の中でも反応は様々だ。


「開戦は迫っているけれど、僕たちは冒険者だ。クランの半数以上を占める一般の冒険者はもちろんとして、僕たちの母体である皇軍組も名目上は冒険者だ。ブラディア、ティランジア、バーゼル帝国を冒険者として渡り歩いた最近入ったシルトが典型例だけど、冒険者は国家に縛られない」


 つまり、僕らはブラディアに縛られない。簡単な三段論法だ。

 僕の言わんとする事が伝わったようで、皆のざわめきが次第に大きくなっていく。


「団長……幹部会議の内容は口外厳禁と決まっていますが、良いのですか? ここにはウルヴァストン子爵の友人や部下もいるんですよ?」


「いや、俺たちの事なら気にするな。友人というならザートだって友人だ。それにザートは俺がジョージの奴に告げ口をしても構わないって目をしてるしな」


 心配するスズさんにエンツォさんが手を振る。

 ブラディアの敗戦が濃くなったら逃げる準備をしている事がブラディア王に伝われば、皇国の心象が悪くなるのは間違いないだろう。他の冒険者の士気がさがるからだ。

 ギルベルトさんが内々に進んでいると教えてくれた叙爵の話も無くなる可能性だってある。

 それでもエンツォさんの言うとおり、僕は幹部会議でこの提案をする。


「ブラディアと皇国が正式に同盟を結んでも、ブラディアの外に難民の受け入れ先を作っておく事は矛盾しない。”ティルク人の安全保護”を考えるなら、国外に拠点を作っておくことは有効だからだ」


 皇国組の幹部はもとより、新しく入ったマーサさんを含めたブラディアの冒険者幹部も真剣に話を聞いている。

 彼らの方を向いてリュオネが言葉をつぐ。


「それに、私達は【白狼の聖域】の団員の命にも責任を持っている。戦況が覆せないほど悪化した場合に皆を玉砕させるつもりはないよ。ティルクの一般人を逃がした後、団員は全員ブラディアを脱出し、皇国軍人は反撃の態勢を整える。そのためにも拠点は必要なんだ」


 会議室は緊張を孕み、沈黙する。

 しばらくその時間が続いた後、コリーが手を挙げた。


「今から国外に拠点を作るって、団長に具体案はあるのか? 場所、資材、労力、時間、考える事はたくさんあるぜ?」


「船はどうするんだ? ブラディアが用意してくれるわけじゃねぇだろう。それにティランジアの沿岸都市国家はどこも中立で軍に港を開いてねぇ。港も必要だろう」


「反転攻勢を考えるのであれば拠点の守備は最低限にできなければならない。難民を引き連れて戦争するわけにはいかない」


 コリー、バスコ、ジャンヌがそれぞれの兵種の立場から課題を指摘する。

 さらにハンナやポールも手を挙げようとしている。

 彼らの指摘もコリー達同様的を射ていると思うけど、これ以上指摘が続くと皆の気持ちが反対に傾きかねないな。


「皆、言いたいことも多いだろうけど、まずこれを見て欲しい」


 僕は神像の右眼から一つの固まりを皆が座る円卓の真ん中に取り出した。

 緩衝材としてはさんだ木の板がミシミシと悲鳴を上げる。


 「団長、なんらかの法具に見えますが、これはなんですか?」


 一足先に我に返ったスズさんが訊ねてくる。


「これは『蛇眼の祭壇』という法具だ。これを使えば……長城壁を作れる」


 周囲の皆の顔が驚きのあまり固まった。

 そりゃそうだよな。

 長城壁はブラディア家が持つ法具で作られるとされているけど詳細は知られていない。

 一説では第五長城壁が作られた際、一夜あけるごとに一デジィ壁が伸びていたらしい。

 大量の工兵を動員する築城をする、戦略上極めて有効な法具が目の前にあるのだ。


「どこでこんなものを手に入れたんですか」


 スズさんはこめかみに指を当てため息をついた。

 王国側にどう説明すればいいのか悩んでいるんだろう、


「以前リュオネとグランドル古城ダンジョンを攻略した時に回収したんだよ。多分古城が建設中に破棄されたせいで残っていたんだと思う」


 エルフはとっくに敵になっているので古城の件は素直に話していいだろう。

 

「団長、これって動くのか?」


 コリーが目を輝かせてきいてきた。

 使うとすれば受け持つのはコリー達工兵隊だ。

 すでに実際に動かすイメージをしているんだろう。


「試したけど、動くことは動いたよ。海中でも使う事ができた。ただ、右眼の鑑定によれば少し壊れているみたいなんだ。だから技術部に直してもらう必要がある」


 眺めながらブツブツいっていたクローリスに話をふるとビクッとしたものの、すぐに拳をぎゅっと握ってうなずいた。


「わ、わかりました。責任重大ですね」


 複製するとまでは行かなくても、自力で修理できるようになれば御の字だ。


「これをつかって軍港と、そこにティルク人が自活できる居留地をつくり、長城壁で囲む予定だ」


 ついでに言えば、砦を含めた長城壁は魔鉱銃を前提にするので形は変わるだろう。この辺りもミンシェンやクローリスに相談だな。


「その様子だと建設候補地も見つけているようですね」


「うん、第一候補はビザーニャの北にある半島の近くだよ。浅くて大きな船が入れない場所なんだ」


 皆の反応から、もう拠点を作るのに反対する人はいなさそうだ。


「課題がないなら早くつくっちゃわない? 王様に知られれば、新しい長城壁をつくれって言われそう」


 エヴァの言葉に皆が笑うけれど、僕は違和感を覚えた。

 そもそも”蛇眼の祭壇”を忘れていた僕はともかく、ブラディア王は長城壁を新しくつくって有利な陣地をつくれたはずだ。

 なんで今までしなかったんだ?


「新しい街なら名前を決めましょう!」


 僕が考えにふけっていると、いつのまにかクローリスが名前を決めようとしていた。

 ここは僕がいない間にシリウスという名前にされていたからな。

 じっくり考えたい所だ。


「やっぱり第二の拠点ならシリウス・ノヴァかのう?」


 話を聞いていたシャスカがぽつりとつぶやく。


「シャスカ、最初から本命っぽい名前をだしたらダメじゃないですかー」


 口をとがらせるクローリス。神をも恐れぬダメだしである。


「そういうものなのか? す、すまぬ、話し合いというのになれておらぬのじゃ」


 始終テンションの高いクローリスを中心に話し合われた。

 が、結局新しい街の名前は”シリウス・ノヴァ”になった。


 うん、やっぱり最初は適当な名前から始めた方がよかったかな。

 良い名前だとおもうけどね。 

 


     ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます


第一章で発掘していた法具の出番がようやく来ました。

主人公や作者が忘れていた事柄をひろっても伏線回収になるでしょうか?


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