第10話【突進する竜種たち】
シリウス・ノヴァ建設予定地に向かって飛び石で空中を走っていると、予定地に向けて何者かがすなけむりがあげて進んでいた。
地上近くに降りて併走して確かめると、正体は魔獣の群れだった。
短い手足で地面をはい進む魔獣はリザードにもみえるけど、尾をのぞいても体長が五ジィくらいある。
ここまで大きいと竜種の可能性もある。
そいつらが八体で群れをつくっているのだ。
身体強化の段階を引き上げ一気に抜き去り、予定地の皆の所に戻る。
「敵襲だ! 大型のリザードらしき魔獣の群れが来ているから皆で対応するぞ!」
一箇所に集まっていた皆がいっせいに武器をとった。
すでに測量と建設計画は終わっていたようだ。
「大きい……! 奴ら竜種じゃないんですか⁉」
ポールが牽制の魔鉱銃で火弾を打ち出すけど、敵の硬い皮膚のせいで魔法が通らない。
「迎え撃とうとするな! ロックウォールで砂浜に追い詰めろ!」
バスコの指示にあわせてコリーが土弾で効果的な位置にロックウォールを作っていく。
一匹、また一匹と進路をずらされて砂浜に追いやられた魔獣は砂に足を取られ歩みが明らかに遅くなった。
「足止めします!」
ミワが経典を開き、短い詠唱を唱え打ち鳴らすように経典をとじると、魔獣全体の動きが遅くなった。
かなり強力な行動阻害の魔法だ。
「よし! 一体ずつやるぞ!」
バスコが
魔獣まで後二歩と言ったところで魔獣が反転する。
「尾が来るぞ!」
警戒と同時にバスコに向かってしなりのある尾がうちこまれた。
「あっぶねぇ!」
かろうじて避けたバスコは二撃目が来る前に敵に肉薄し、前脚を振り上げた敵の脇腹を杖の先端の槍穂で貫く。
転身しながら関節、口、目と確実に弱点をついてバスコは一体目を片付けた。
「あたしらも行くよ!」
衛士隊のデボラ、レイ組、シノ組が各一体に向かう。
団員の奮戦で魔獣は次第に数を減らしていった。
「これで、終わりかな」
鉄槍を魔獣から引き抜いた目の前の魔獣は黒い泥にならなかった。
という事は受肉した魔獣か竜種だな。
さっきであったティランジアの魔物はメドゥーサヘッドだったけど、コイツはなんて名前なんだ?
死体を収納して鑑定しようとした矢先に悲鳴があがる。
見るとレイをはじめとした衛士隊が慌てふためいて何度も死体に銃剣を突き入れていた。
「リュオネ様! こいつら死体が残るんですけど!」
「大丈夫だよレイ。受肉した魔物は死んでも肉体が残るって話したでしょ?」
リュオネの落ち着いた指摘で浮き足立った衛士隊の面々が落ち着いてくる。
確かにそれまでの常識だと、死体が消えないのは息があるってことだから驚くのも無理はないか。
「それにしてもコリー、敵を誘導するためのロックウォールの射撃は見事だったな。あれは工兵ならではの技術なのか?」
「できるよ。俺ほどじゃないけどね。工兵は防衛陣地をつくるから地形や敵の流れには敏感なんだ」
得意げに話すだけあって、コリーが見せた敵の突撃をコントロールするための土弾の使い方は戦場でもかなり有効だ。
これまでの戦闘でもロックウォールは使われてきたけど、それはモートと同じく即席の陣地であって、敵の進路をふさぐように真正面にたててもチャージなどで破壊されてしまって集団戦では足止めにもならなかった。
けれど今回コリーがやったように、直前に斜めにかべを作れば、敵はスピードを殺したくないのでそれを避けるようにすすむ。
タイミングを計って壁を作っていけば敵の重装騎馬隊でもバラバラにして各個撃破できるだろう。
「ザート! 死体を収納して!」
リュオネの叫び声で考えにふけっていた顔を上げると、逃げ惑う衛士隊にカレンさんのワイバーンが突進していた。
即座にリュオネの言わんとした事を理解したけど、それだと間に合わない。
「カレンさんごめん!」
転がっていた死体の一つを収納、がれきの”射出状態”を死体に移してワイバーンの頭上に打ちだした。
それを追うようにワイバーンは首を急旋回させて進路を変えた。
「きゃっ!」
『ヴェント!』
甲高い悲鳴をあげて空中に跳ね上げられたカレンさんを抱えて地面に降り立った。
「あ、ありがとうございます。チャトラがあんなに興奮するなんて……」
僕は手近にあった死体の一つを収納した。
==
レッサードレイクの死骸:
地を這う亜竜であるレッサードレイクの骸。
レッサードレイクはブレスの代わりに吸気しながらかみつく。
==
結構あぶない奴だったんだこいつら。
「今僕たちが倒したのはレッサードレイクという亜竜だったんだ」
「ああ、だから……」
「同族の死体を好んで食べるっていう竜の本能にしたがってチャトラも我を忘れたんだろうね」
目の前ではチャトラと、遅れてきたビーコが並んで食事中だ。
魔力量が上がってるんだけど、これ食べ続けたらチャトラも進化したりしないかな?
そんな事を考えていたら、肩をトントンとされた。
「あー、団長。カレンを下ろした方が良いよ」
気がつけば、ずっとカレンさんを抱えたままだった。
「カレンさんごめん!」
「い、いえいえ! お気になさらず!」
慌てて地面に降りてもらい、お互いに真っ赤になり頭を下げあう。
「それから後ろを見た方が良いよ」
後ろ?
振りかえると、リュオネがしゃがんで膝をかかえたままジト目でこちらを見ていた。
尻尾を脇に抱え込んでいるのは機嫌が悪いときのサインだ。
やってしまった。
カレンさんが小さくて気がつかなかった、というのは言い訳にはならないよな。
それどころか小さくないリュオネには火に油をそそぐことになりかねない。
辺りを見回すといつの間にか皆いなくなっていた。
そうだよね、みんな飛び火とかいやだものね。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます
リュオネは性格的に怒る娘ではないのですが、自己主張はします。
怒ってませんが怒ってますアピールはします。
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