第11話【築城計画(1)】


「皆またせた。さっきみたいに魔獣が来る前に長城壁をつくるぞ」


 リュオネと一緒に法具『蛇神の祭壇』の周りで建設図面を作っていたコリー達の所に向かった。


「団長、もう許してもらえたのか?」


「ええ、なんとか」


 ニヤニヤと笑うデボラさんに渋い顔をして答えた。

 他の団員もどことなく生ぬるい雰囲気を醸し出している。


「さ、気合いを入れて長城壁をつくるぞ! コリー、試運転の調子はどうだ!」


 むずむずする気持ちを振り払うように声を張り上げる。

 けれど、コリーは半笑いで大げさにため息をつき、右手で左側をゆびさした。


「団長達が遊んでいる間にもう終えてるよ」


 みれば少し離れた場所に平たい台座の塔が作られていた。

 ぐぅ、恥ずかしさで周りが見えてなかった。


「ティランジアでもイルヤ神の法具は問題なく使えるみたいだな」


 鑑定によれば『蛇神の祭壇』はイルヤ神という古代神の法具らしい。

 ブラディアから離れても使えるか不安だったけど杞憂だったみたいだ。


「ん、イルヤ?」


 なぜさっききづかなかったのか。

 さっきメドゥーサヘッド達の武器を鑑定したとき、メドゥーサヘッドはイルヤの民だったという内容が記されていた。

 ということは、ティランジアはイルヤ神が治める大地だった可能性が高い。

 法具にとっては里帰りしたようなものだろう。問題がおこるはずがない。


「どうした団長?」


 怪訝な顔をしてこちらを見るコリーに首をふる。

 法具が使えるなら今は問題ない。

 凋落したイルヤの民、というのが気になるけど、それはブラディアに帰ったらシャスカにきいてみよう。


「それじゃ、図面をみせてくれ」


 実はブラディアを発つ前に、新しい城塞の”パターン”はもう考えてある。

 銃がある世界からきたクローリス達、戦略・戦術に精通した参謀のスズさん、築城のプロであるコリー、ポール達がチームを組んで、なにが必要な要素か洗い出してあるのだ。


「これがシリウス・ノヴァの外郭か……」


 目の前の地図にはアルドヴィンの城塞都市やブラディアの長城壁とはまったく違う理屈にもとづいた防衛施設が描かれていた。


「測量の時点で半島を台地部、海岸部、突端部の三種類に分けました。等高線にあるように、大きな岩でできている半島の突端部が一番高くて、砂混じりの土でできている台地から砂浜まで南にむかって緩やかな坂になっています」


 測量をしてくれたポールが横で解説してくれる。


「北側は等高線ではわからないけど、崖でいいのか?」


「うん、高さ三十ジィはある絶壁があった。でも堅い上に足がかりになる場所が多いから少人数にこっそり登られる可能性はあるぞ。ここに長城をつくるってのも手だけど……」


 コリーが地図に書かれた半島北部をゆびでなぞって示す。

 

 半島は場所によるけど、幅は四百から五百ジィある。

 長城を二本つくれば守備兵力が分散される。


「……崖を磨くか」


「え?」


「山岳城塞の正面通路は敵が上りづらいように石畳をつるつるにしておくだろ? 自分達が降りるときは砂をまくけどさ。あれとおなじように崖の側面と上部をつるつるにしておくんだ。カギ縄も引っかからないくらいに」


 法具を使えばそれくらいできるだろう。

 何事も節約が肝心だ。


 その後もいくつかの修正を加えた設計図を渡すと、コリーはやる気に満ちあふれた顔で馬のない馬車のような法具に乗り込んだ。

 ついで、何人かの団員も法具の後ろについた荷台のような場所につかまる。

 土魔法が使える彼らにはコリーのサポートをしてもらうことになっている。


「じゃ、団長いってくるぜ!」


 コリーの動かす法具は馬車ほどの速さで突端部へと向かっていった。


「……ところでザート、壁の材料のの岩なんだけどさ」


「多くねぇか?」


 リュオネとバスコさんが見上げているのは、奇岩地帯の奥地を破壊して集めてきた岩の山だ。

 コリーが乗っていった蛇神の法具は岩をたくさん収納させていったけど、要塞・外郭すべてを作り上げるほどの岩はつめなかった。

 だからいつでも取りに戻ってこれるようにつみあげてあるのだ。


「足りないよりは良いじゃないか。それよりコリーたちが要塞をを作っているあいだに僕たちも仕事をしなきゃ」


 調子に乗って掘りすぎたんだけどそれは言わないでおこう。



     ――◆ 後書き ◆――


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