第17話【盗賊狩り】


 小春風がふくなか、森の側を通る街道を僕たちは馬車で進んでいた。

 僕らがここロター領にいる理由、それは盗賊狩りのためだ。

 

 血殻の収集についてリザさんに報告した際、最近鉄級冒険者の盗賊化が激しいので討伐してほしいと依頼されたのがきっかけだった。

 僕らがアルドヴィンから難民を受け入れ、一部の冒険者が【白狼の聖域】入団を希望して列をなしていた頃、アルドヴィンから中つ人の難民もちらほらと入っていたそうだ。


 彼らは難民として第三十字街に入れない以上、冒険者になるしかない。

 ところが、ロター港でなったばかりの鉄級冒険者の多くが数度ギルドの仕事をした後にギルドに来なくなっていたらしい。


 最初はロター支部の職員もギルドを介さない、港の商会の荷運び人になったのだと思ったようだ。

 けれど、余りに不自然なので職員が、商会に協力してもらい調査をした。

 すると、消息不明になっている冒険者がかなりの数にのぼっている事がわかったのだ。


 船でティランジアにでも行ったのならよかった。

 けれど、最近になってロター領やグランベイ領で盗賊被害が増えてきたそうだ。

 状況からして鉄級冒険者が盗賊になったとギルドは判断した。


 難民や各領からの移民で人口が一気に増えた第三十字街はグランベイやロターの農作物をたくさん買っている。

 その彼らが盗賊の被害にあっているとなれば、責任を感じずにはいられない。

 放置すれば【白狼の聖域】の評判が落ちる可能性だってある。


 そう考え僕らは、盗賊狩りをしているのだ。


「今日は三つくらい盗賊の拠点をつぶせれば良いかな」


 コリーたち工兵隊がつくった道を進む。

 手にもっているのは騎馬偵察隊が作った【白狼の聖域】自慢の地図だ。


「よし、リュオネ達はこの野営地で馬車を守っていてくれ」


「うん、わかったよ」


「こっちにきたら返り討ちにしてやりますよ……っていっても銃が使えないから私の戦力半減してますけどね」


 しょげるクローリスと元気なリュオネ。

 どちらの髪の普段とは違う色だ。

 クローリスが完全再現した”けわいの髪飾り”で耳をかくした団員数人が馬車に残って休憩をする。


 コリーが道路整備をした四つの領では、盗賊を捕らえるのに、今までのように荷馬車のふりをしたり、噂をたよりにしらみつぶしに探すという方法はとる必要がない。


 そもそも道路整備をしたときに、怪しい廃屋、洞窟などは潰してある。

 すると逃げた盗賊はどこに隠れるか。


「あーあ、昼間から酒盛りなんてしやがって」


 皇国組の一番隊から三番隊を率いるバスコさんがため息をついた。


「コリーが快適さにこだわってたからね。おかげで盗賊を探す手間がはぶけてるわけだけど」


 これまで戦時の防衛拠点としてつくった砦を確認して、少なくない数の盗賊を捕らえている。

 元鉄級冒険者しろうとなんてものたりないけど、城攻めの良い予行演習になると、団員に割と人気の仕事だ。


「じゃ、さくっと終わらせるか。行くぞ!」


 バスコさんの押し殺したかけ声とともに三パーティが砦に正面から突入していった。

 間取りは完璧に把握しているのでよほどの強者がいない限り問題ないだろう。

 僕は盗賊に捕らえ逃しがないように見守る役だ。


「わりぃ逃した! 団長そっちに行ったぞ!」


 砦の出口から飛び出した背の低い男がすごい速さで斜面を駆け下りていく。

 やたら速いな! バスコさんがとりにがすわけだ。


『ヴェント!』


 斜面を降りて街道を走り出す男との距離を詰めていく。

 この先は野営地だ。


「チッ!」


 男が悪態をついてこちらに向き直った。

 道の先には馬車の前で武器を構えたリュオネ達がいる。


 男がレイピアを抜いて突進してきた。

 刺突剣のレイピアは切っ先を動かすことが無い。

 切っ先を起点に拳を動かす。


 フェイントを交えた連続突きを小盾で受け流しつつ片手曲刀を取り出した。

 この動き、食い詰め者じゃない。手練れだ。


「へぇ……マジックボックス持ちか。【白狼の聖域】の団長はお前か」


「だったらなんだ」


 一瞬動きを止めた男は無言で口の端をあげると、先ほどとは比較にならない速さとスキルで攻め立ててきた。

 逃亡者の戦い方じゃない。

 急所をねらって一撃死を狙っている。


「お前、アルドヴィンから入ってきたな?」


 一進一退を繰り返しながら会話をこころみるが、相手は無言で剣をくりだしてくる。

 いるとは思ったけど、スパイが盗賊にまぎれて潜伏してたなんてな。

 これはみんなに注意しとかないと。


「シャァ!」


 深く踏み込んだ僕の袈裟切りがスパイの右手を斬る寸前にはぜた。

 いつの間にか左手に握られていたソードブレイカーに絡め取られたためだ。

 折ると同時にレイピアがぐねりと僕の小盾をかいくぐり心臓を貫こうと加速する。


 けれど、その切っ先は僕の身体にとどくことなく、剣身は先ほどの僕の曲刀のように半ばから折れた。


「……マジか」


 レイピアは小盾と足刀ではさんで折った。

 原理はさっきのソードブレイカーと同じだ。


 スパイか……これはエヴァの拷問部屋行きだな。

 割と冗談抜きで同情しながら僕は鋼糸をつかってスパイを縛り上げた。






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます


暖かい寝床を用意して虫が集まったところで寝床ごと燃やす。

金沢兼六園の名物、こも巻きをヒントにしました。


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