第18話【戦闘:銃剣の威力】

 グランベイ港を囲む第三長城壁にのぼると、目に飛び込んできたのは緩やかな丘の上に広がる麦の畑と牧草地だった。


「聞いたとおり、理想の田園、という感じだな」


「ですです。グランベイ領は今のブラディア地方で一番バランスの取れた土地です。適度な起伏の丘陵は植える作物を選びませんし、大都市が近いので酪農や牧畜も盛んなんです」


 丘のふもとをぬうように、地図にある魔素だまりに向かう道を歩く途中、クローリスからグランベイ領について教えてもらっている。

 領地を治める男爵の居館はグランベイにあるけれど、港からあがる収益の殆どは辺境伯のものだから、グランベイ男爵の収入源は、もっぱら内陸の農業にある。


「森にはいれば食べられる野生動物も多くいますし、この領の村は他の地方に比べても裕福です。まだまだ魔素だまりが残っているので、強い魔獣もそれなりにいますけどね」


 確かに、少し離れた所にある集落をみると裕福だ。

 漆喰壁の木造家屋だけど、どれも安普請という感じがしない。

 穀倉地帯の王都西部と同じくらい豊かかもしれないな。


「ひとごとみたいにいうけど、今日はクローリスがメインで戦うんだからな? 気をつけてくれよ?」


「うっ、がんばります」


 今日の目的はクローリスを迎えてのパーティ連携の訓練だ。

 攻撃面で考えた場合、クローリスの銃は攻撃距離はもとより、弾丸で多彩な魔法を発現できるので、戦術の幅が期待できる。

 一発で敵を倒せなくても、戦況を有利にすることができるのだ。


 それにクローリスの銃剣スキルによる近接戦闘は予想以上に強かった。

 ここに来るまで、ゴブリンがいたので戦ってもらったけど、落ち着いてほぼ一撃でたおしていた。


 一方防御面で考えた場合、クローリスはパーティの中では弱点になる。

 それなりに戦えるとはいえ、いきなり強敵と戦った時、僕とリオンに並べるほどクローリスは強くない。

 だから、僕とリオンは今までと違って、クローリスを守る陣形で戦う必要がある。


「いろんなパターンを用意したから、期待してね!」


 久しぶりの討伐だからか、リオンは張り切っているみたいだ。

 僕も試したい連携はあるけれど、リオンのメニューをこなすだけで今日は終わりそうだな……


「天然の鬼がいます……」


 クローリスのため息を聞きながら前を見ると、黒豚が見えた。柵の外にいるんだから、野生化した奴かな。


 振り向くと、クローリスはうなずいて弓と同じ膝打ちの姿勢になった。

 左膝の赤い防具を地面につけ、ポーションバッグを流用した弾丸入れから魔力を込めていない通常弾丸を取り出し、流れるような動作で装填し、照準を合わせた。


「いきます」


——バスッ


 黒豚が首を支点に一瞬からだを浮かせ、鳴き声も上げずに硬直して転がった。

 痙攣していた豚の身体がだらりとする。

 一拍おいてからクローリスが息をつく。


「銃ってすごいよな。弓とは段違いの速さだ」


「あんな遠くによく当たるねぇ。弓でもそこまできれいに当てる人は少ないよ?」


 周囲を警戒しながら黒豚に向かって歩いていきながら二人で感心していると、クローリスがしきりに照れる。


「いえいえ、銃剣スキルに命中率を上げる効果もあるみたいです」


 銃剣スキルは槍と同じ近接スキルという訳でもないらしい。

 黒豚を収納していると、リオンが顎に手を当ててさっそく銃対策を考えていた。


「……敵にした場合、目で追えないから矢切りは無理だし、かわすのも難しいよね……私ならクレイで土塁をつくりながら近づくかな」


「高レベルの魔法障壁を張れば突進して近距離戦に持ち込めるな」


「リオンの戦術は元の世界でも有効でしたね。ザートの魔法ごり押し戦法をしてくる敵もいそうですから、魔法世界で銃無双は難しそうですね……」


 ごり押しって、障壁魔法や魔道具は立派な戦術なんだけどな。

 

「あ、ブッシュホーンだ。山羊なのに森にいるんだね」


 リオンが指さす隣の丘の茂みの前に、山羊の魔獣であるブッシュホーンがこっちをじっとみていた。


「狙える? 使うなら火魔法の弾丸がいいけど」


 振りかえった時にはもうクローリスは膝打ちの姿勢になって弾丸をまさぐっていた。

 慣れるのはやいな!


「やってみます。外した場合はお願いしますよ?」


「安心して、土魔法でうまくそっちに向かわせるから」


 魔獣をけしかけるのに安心とは……。安心という言葉の意味が分からなくなるな。


「うー、私のSPが切れそうなら遠慮なく助けてくださいね」


 釈然としない顔をしながら弾丸をこめたクローリスが銃を構えた。

 ブッシュホーンまでの距離は三十ジィといったところだ。


 1……2……3……


「いきます」


——パァン!


 弾はあたったけれど、倒れるには至らなかったみたいだ。

 照準を定めるまで三秒か。十分早いけど、とっさに撃つにはもう少し余裕が必要かもしれない。

 と、それはそれとして逃がしちゃまずいな。


『ファイアアロー・エクェス』


 ブッシュホーンの進む先に連続する火の矢を突き立て、こちらに追い立てる。


「よし、クローリスいったよ! 着剣!」


 リオンのロックウォールにより誘導されたブッシュホーンがクローリスめがけて突進する。

 巨大な角が頭部の上半分を覆っている。角が向かっていなくても、あの硬い頭で衝突されればただでは済まないだろう。SPは、突進一発なら持つか。


「はやいこわいはやい!」


 一瞬で着剣した割に大騒ぎするクローリスが銃剣を右に構えながら左に移動していく。


——ザシュッ!


 ブッシュホーンの前を横切るように、右前に踏み込んで切り上げたクローリスの銃剣がブッシュホーンの喉を切り裂く。

 つんのめり地面を滑るブッシュホーンが黒い泥に変わっていき、僕の足下に凝血石が転がって止まった。

 真夏の日差しのなか、一瞬の静寂が生まれる。


「やりました! 銅級レベルの魔獣を一太刀です!」


 周囲の敵を確認する余裕まである。

 とりあえず、発砲後、敵に突っ込まれた場合は大丈夫みたいだな。

 大きく息を吐き、やり遂げた感のある実に良い笑顔で銃剣をかかげるクローリス。


「やったね! じゃあ次のパターンいこうか!」


 負けずに、こちらにおわす教官も、実に良い笑顔で次の課題を提示した。

 鬼か!




    ――◆ 後書き ◆――


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