第17話【銃剣とロングソードとバックラー】


 銃の機関部の方にめどがついたので、午後は銃剣の外側に取り組むことにした。

 弾丸の解析・複製作業をしているリオンとクローリスに一言いって、僕はギルドにあるもう一つの工房に移動した。


 重い外開きのドアを開けると、広い石造りの半地下の空間があらわれた。

 設置された複数の魔道具に凝血石を入れて起動する。

 危険な毒がたまらないように風が起こる。

 必要な水が得られる水桶に水が張られる。

 おき火程度だった炉の炎が赤々と広がる。


「さて、準備はできた。本当はクローリスに頼みたいところだけど、一回くらいはやっておかないとな」


 買っておいたインゴットを使い、書庫の合成能力で銃身とおなじ配合の合金をつくる。

 そして合金をベースに銃の各部品を複製していき、銃を一丁をくみ上げた。


 これをベースにして銃剣を作る。

 僕は書庫からクローリスに描いてもらった長巻付き銃剣のイメージ図を取り出してみた。


「ええと……銃身と銃床の先端にホウライ刀の鞘を渡して、折りたたみナイフみたいに出るようにすればいいのか。銃口をまたぐはどうすればいいんだ?」


 やたら精巧なイメージ図だけど、肝心の刀身の固定方法がぼんやりとしている。


「銃身の外側にレールを張り出して、溝に沿わせてスライド反転させる構造をつくればいいか」


 炉の前に座り、ホウライ刀の根元を打ち延ばし、銃口にはめるための円筒をつくった。

 さらに銃口周りにも細工をほどこし、刀がついた円筒を前にスライドさせ、銃口の前でクルリと回転させて再び銃口にはめる方法で、刀身を銃身に固定した。

 長さや角度はイメージ図に合わせているけど、後はクローリス次第だろう。




 半地下の工房の窓から、石壁や石畳をはねかえって届いた黄昏色の光が射し込んでいる。

 弱々しいその光の中で道具の洗浄などをしていると、工房のドアが開く音がした。


「ザートおわった? なかなか来ないからこっちからきたよ」


 振りかえるとリオンとクローリスが入ってきた。


「ごめん、ちょっとのめり込んでたよ。これどうかな?」


 二人の前にできあがった試作品の銃剣を見せるとクローリスが目を輝かせて両手で受け取った。


「ふ、おぁ……、これは格好いいですねぇ……」


 自分のイメージ通りのようで満足しているっぽい。よしよし。


「ギミックの所が曖昧だったけど、こっちで勝手につくったぞ」


 ホウライ刀を一瞬で抜刀して銃口に付けるとまた歓声があがって気持ちいい。

 そうだろう、このギミックはちょっと自分でも自信があったんだ。


「早く試したいです! 今からでも試し打ちに行きませんか?」


「機関部と弾丸の量産ができてないんだ。実証実験は明日にしよう……そういえば紋様ってどうなった?」


 はしゃいで銃剣で構えを採っているクローリスからリオンに向き直ると、リオンも何かやりとげたような顔をしていた。これは期待していいか?


「解析できたよ。紋様も間違った部分を修正した石版を用意してあるから、あとはザートが”血殻”を石版で加工して、各属性の魔鉱をはめてくれれば弾丸が作れるよ」


 この様子なら渡しても大丈夫そうだな。


「早いな……それじゃ、これはリオンの分」


「えっ?」


 書庫から一本のロングソードを取り出して渡すと、リオンは戸惑いの声をあげた。


「リオンのロングソードの使い方は王国流じゃないだろ? 一応、そっちが使いやすいように柄とつばを再加工して見たんだけど、どうかな? 良ければ前の一本を店に返すよ」


 昼食の買い出しの時にウーツ工房まで行って買ったものをさっき加工しておいたものだ。

 スキル不発の件の後、リオンが元気になるものは何か考えて、考えついたものがこれだった。


 スキルの事は知らないけど、僕は戦って、改めてリオンは強いと思った。

 王国流の剣術じゃない武術も洗練されていて、スキル取得にとても努力したんだろうと思う。


 だからロングソードをリオンの武術にふさわしいように改造して贈った。

 不発のスキルだって、ロングソードがだめでもまた他を探せば良い。

 僕がつくっても良い。だから元気出せよ、と。

 

 でも、今考えると、なんか脳筋バカみたいな発想だな。

 やっぱり新しい画材とかのほうが喜んだだろうか。


「うん、使いやすい。ありがとう!」


 リオンが今日一番の笑顔を見せてくれた。

 となりではクローリスも笑っている。

 

「良かった、じゃあ帰ろうか。二人とも、鞘を用意するまで僕が預かるよ」


 左手を前に出し、バックラーの上に大楯を出す。

 二人に物を入れてもらうときのポーズだ。


「お、ちょっとまってください。これって良くないですか?」


 クローリスが射し込もうとした銃剣をふと止めて、バックラーの上に掲げた。

 続けてリオンの改造ロングソードを引き寄せて交差させる。


「パーティの紋章って事? じゃあこれを絵にしてみるよ!」


 なるほど、パーティの旗とかに良いかもね。

 でもね、それだと僕のメイン武器バックラーになるじゃない?

 僕だけ逃げ回る役みたいじゃない?

 魔術士ポジションのくせに杖を持たない僕が悪いのか。


 新しい武器が手に入ってテンションが上がる二人にそんな野暮な事は言い出せず、僕は黙って帰る支度を再開した。





    ――◆ 後書き ◆――


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