第40話【謎解き(上)ビンの中身】


 荷運びをする冒険者達が増え、人の往来がふたたびにぎやかになった。

 ギルドのテラスから見る港は、昼のシエスタを終えて再び動き始めるようだ。


 見上げた空はいつの間にか高くなっていて、潮風が運ぶ香りも、日を追うごとに弱くなっている気がする。

 生まれて初めて海沿いで過ごしているので大したことは言えないけど、もうすぐ季節が変わるのかもしれない。

 僕らプラントハンターも、いつのまにか位階が銅級三位に上がってたしね。

 アンジェラさんいわく、沈没船処理の功績が大きかったみたいだ。

 

「クロウ、まーだー?」


「まってくださいよ。ビンにされた封印がややこしくて……なんで皇国製の封印具なんてつかってるんでしょうか、もう!」


 後ろではクローリスが、ロター港で拾ったビンを開けようと悪戦苦闘している。


 今日は簡単なポーションや素材加工などの生産系依頼をアルバトロスとこなしていた。

 テラスで雑談しながら休憩しているうちに巻紙の入ったビンの話になった。

 オルミナさんが『中身はぜったい宝の地図よ!』と興奮したので、この場で開けてみることになった次第だ。


 二人が騒いでいる声を聞きながら、僕とリオンは海を眺めている。


—— クラン設立もいいですが、姫様がマガエシを使えれば、選択肢は増えます。


 昨日、去り際にスズさんが念を押すように言った言葉を思い返す。


 確かに、リオンがマガエシを使える牙狩りの資格を得れば、皇国と王国とで、同盟維持の可能性が生まれるし、僕らが作るクランへのティルク人の信頼度も増すだろう。


 隣で水平線を眺めながら遠い目をして飲み物を飲んでいるリオンをチラリとみる。


「そういえばスズさんは?」


「うん、今日もこっちに顔をだすって言ってたけど、まだ来てないね」


 生返事をするリオンにそうか、とだけ言って目を戻す。

 マガエシの件はリオンにとって相当なプレッシャーだ。

 表情がまたくもってしまった事が歯がゆくてしかたがない。


——パキュ


「やった、開いた!」


「あきました!」


 こちらの憂いもかまわずに、間抜けな音がした直後、後ろで歓声があがった。

 ビンの封印具がようやく解除できたらしい。


「なんだ、どうしたー?」


 地下で金属を扱う作業をしていたショーンとデニスも戻ってきて輪に加わる。

 ビンの事を話すと二人も興味がわいたみたいだ。


「宝の地図だったら一緒に行こうぜ」

「ワシも、こういうロマンは嫌いじゃない」


 正直、ビンの事は忘れていたけど、僕だって嫌いじゃない。

 クローリスの対面に移動してビンから紙片を取り出す様子を固唾をのんで見守る。

 

 さきほどまでアンニュイな雰囲気を漂わせていたリオンも、僕の隣で目を大きく開き、テーブルの巻かれた紙に釘付けだ。

 結局みんなロマンを求める冒険者ってことだ。


 けれど、みんなが期待する中、クローリスの手によって開かれた紙に書かれていたのは地図ではなく殴り書きのような文字だった。


「『バフォス港の西三デジィにて、我は鞘とともに沈む』……って、なにこれ? 遺書?」





    ――◆ ◇ ◆――


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