第58話 照れるヒゲ面(ザート視点)

(ザート視点)


「では本番でもやれるのじゃな」


 マコラの上でシャスカの問いに頷いた。

 本番とは言うまでもなくザハークとの決戦だ。


 あのシベリウスのヴァジュラでさえ殺せなかったザハークを倒すのは容易ではない。

 けれど味方になったサロメの話では、使える血殻が増えても、ザハーク自身は強くなっていないらしい。

 しかもサロメが血殻の供給を制限するため、過去に見た戦い以上の強さは発揮できないらしい。


 ザハークと戦う前にサロメを味方に引き込んで本当に良かった。

 おかげでシベリウスほどの攻撃を振るえなくても、おそらくさっき試した方法でザハークを殺せる。


 ただし、それは僕がザハークに全力で立ち向かえた場合なら、という前提がつく。

 つまり、僕抜きのガンナー軍で竜の群れを相手にしなければならないのだ。


 後ろを振り返って、地上にいる竜種の布陣を見下ろす。


 小山のようなアルマジロの亜竜、グリプタムトゥスの隣に猿の亜竜のディアピテクスがいる。

 あのアルマジロ竜は足は遅いかわりにやたらと硬い。魔鉱銃で倒すのは現実的じゃない。


 その隣には猿が亜竜になったディアピテクスがいる。

 オーガみたいに石製の棍棒を持っているけど、当然、膂力は比較にならない。

 それにあいつの熱風のブレスは厄介な事に目に見えない。

 必ず叫び声と同時に吐くから気をつけていれば避けられるけど、遠くまで届くから密集していると避けきれない。

 

 後はそいつらを取り囲む様に十匹前後のラピドレイクが群れている。

 ドレイクと名前が付いているけど、それは加速して突進する点が似ているだけで、あいつらは獣竜種だ。

 エラを持った頭の大きい熊という表現が一番しっくりくる。

 

 これら三種による亜竜がナーガヤシャに操られ隊をつくり、さらにそれらが無数に並び陣形を作っている。

 こうしてみるとクローリスやミンシェンの意見を参考につくったガンナー軍の混合兵種と似ているみたいだ。

 おそらく銃を持つゲルニキア軍の入れ知恵でこんな編成にしたんだろう。

 ここからじゃ見えないけど、もしかしたら指揮しているのはゲルニキア軍のエルフかも知れないな。


 やはり正面から戦える相手じゃない。

 アンギウムは竜種の攻撃も想定して造られているけど、今回みたいな相互に連携した大群の相手は想定していない。

 ザハーク撃破という最終目標があるせいで戦えない事に歯がゆさがつのる。



「わるい団長、上のでかい鳥どもを三匹ばかり逃がしちまった」


 下を見て攻略法を考えていると上空からバシルが降りてきて隣に並んだ。

 そういえば死体を回収していたか。視界を浄眼に変えて法陣を確認する。


・フェダタイル(死骸):

 鳥竜の中でも最大級の大きさを誇る。風のブレスで機動力を高めた強力な突進をするために、弾力性に富んだ銀色の羽根と強力な生体防壁をもっている。基原生物が少ないため個体数は著しく少ない。


「いや、大丈夫。あれはフェダタイルというらしいけど、数は極端に少ないらしい。ザハーク軍にとっては虎の子だろうから、逃げた以上再び戦場に出ることはないはずだ」


 倒した瞬間に回収しておいたフェダタイルの死骸の鑑定結果を見ながらバシルに伝える。


「それをきいてほっとしたぜ。瞬殺した団長にはわからねぇだろうが自分でもよく生き残ったもんだ」


 そういってバシバシと叩いてキビラを労うバシルは明らかに疲労している。普段の飄々とした軽口もでてこない。


「あれは不意打ちだったから、空中戦をしていたら僕でもそうとう苦労したはずだ」


 うん、出会いは最悪だったけど、やっぱりバシルは空ではビーコにつぐ戦力だ。

 地上だってリュオネやスズさん、バスコ達兵種長がいる。

 竜の群れを前にして少し不安に思ってしまったけど、皆なら大丈夫だろう。


「ありがとうバシル、おかげて助かった」

 

 バシルとキビラがいてくれて良かった、と思って労ったんだけど、バシル、なんだよその顔?


「……まあ、褒められて悪い気はしねえけど、褒美は金より休暇にしてくれよ。なんていったってウチの職場はブラックだからな」


 そう言い残すと、先に戻るといってバシルは前に行ってしまった。


「団長、安心してください。バシルのあれは照れ隠しです」


「だのう。あのヒゲも可愛いところがあるではないか」


「ブラックっていう捨て台詞は本音だろうけどな」


 キビラを見送る僕に皆が笑いながら声をかけてきた。

 うん、バシルに照れられてもなあ。


「そうか、それならいいけどさ。……ところで、うちってやっぱりブラックなのかな?」


 皆の顔を見ると目が笑っていなかったので、察した。

 目に見えないものは名前を付けると意味が与えられて強化される。

 皆の心の中にあった、職場がキツいという意識が職場にブラックという名前を与えた事で強化されてしまったのだ。

 つまり何が言いたいかというと、ブラックという言葉を広めたクローリスが悪い。



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