第57話 鳥竜をしとめる(シャスカ視点)
「して、戦況はどうなっておる?」
未だ立つ事はできないためジョアンに説明をもとめる。
「良くはねぇな。さっきの反撃で敵の大半は倒せたが、俺達をおそった大銀鳥がまだ何匹も残っている。俺達は今そいつらに追われている所だ」
「よもやとは思うが、我らしか残っておらぬのか?」
「安心しろ」
ジョアンが指さす上空ではキビラが大銀鳥と戦っていた。一瞬不安に思ったが杞憂だったらしい。
身を起こして前を見ると味方の群れが飛んでいた。少し下に目を移すと砂漠が見える。
だいぶ低空を飛んでいるのう。
「うわ……とと」
鞍の上に立とうとするとマコラの体が左右に揺れたので慌てて手を突く。
「バシルが上の敵を押さえて、俺達は殿として追尾してくる大銀鳥を牽制しているんだ」
そういうとジョアンは後ろに向かって片膝立ちになり、味方のワイバーンに襲いかかろうとした大銀鳥に向けてジョアンが魔鉱砲を発砲した。
が、爆炎を切り裂いて出てきた銀色の鳥竜と、その首に下半身を巻き付けている蛇体の魔物はまったくの無傷。
「ちっ、やっぱり駄目か。やつらは生体障壁が強い上に魔力察知能力も高い。半端な攻撃はきかねぇし、強力な魔弾はかわされちまうんだ」
今度は我らに迫ってきた真後ろの大銀鳥のくちばしをボリジオがマコラを急旋回させてかわす。
「さっき襲ってきた大銀鳥は急降下後、地上近くで羽ばたいていたので上位火弾で倒す事ができました。が、警戒したのか、残りの敵はこうして背後から追尾する形に攻撃を切り替えてきたのです」
バイザーをあげて後ろを振りかえったボリジオが言葉をつぐ。
なるほど、だから上位火弾を連射できる我らが殿をしておるという事か。
「状況はのみこめたか?」
「うむ。我はそれをザートに伝えれば良いのじゃな」
その通り、と片頬をつりあげるジョアンに答えながら通心を使いザートに状況を伝える。
我らは攻め手に欠いている。奴ならなにか策を持ち合わせているやもしれぬ。
『……なるほど。シャスカ達は今どこに向かっているんだ?』
ザートに通心で訊かれた事をそのままボリジオに伝えると、ボリジオは空と周囲の地形を見渡した。
「我らはアンギウムの南で敵の飛竜の群れと遭遇、戦いながらさらに南下しました。今は陸上部隊と合流するために反転北上、海岸線に沿ってアンギウムに向かっている所です」
『ならこの先で敵が待ち受けている可能性が高い。敵に猿の獣竜種がいるはずだ。あいつが投げる石は今シャスカ達が飛んでいる高さに余裕で届く』
ザートの通心の内容を伝えるとボリジオは苦い顔をした。
「敵の軍勢を発見した際、猿の獣竜種が確かに一隊を作るほどいました。なるほど、二十ジィの高さまで攻撃できるとは想定していませんでした。さすが、討伐マニュアルを作るために何度も奴等と戦っている団長ですね」
「大銀鳥は俺達を地面に這わせて罠に追い込むための猟犬だったってわけか」
後ろを向いて大銀鳥を見ていたジョアンが苦笑する。
確かに、ただの竜の群れと侮っていたかもしれぬ。
思えば乗っているのは魔物でも、指揮しているのはゲルニキア教国のエルフ。
策くらい弄してくるか。
ため息をついているとザートからの追加の文がきた。
『今進路を変更すると敵に悟られるから現状を保ってくれ。前方に敵が見えたら一斉に右に避けて進むんだ』
『右? 内陸に向かえというのか?』
海に逃れるのならわかるが内陸を進めば他の敵が待ち受けておるやも知れぬのだぞ?
「シャスカ様、前方地上に竜種が隊列をくんでいます!」
ぬぅ、このタイミングか。ザートに理由を訊ねている時間はないな。
「ボリジオ! 進路を右に取れ!」
「了解、進路右!」
ボリジオが即座に信号弾を装填した魔鉱拳銃を発射すると、長く尾を曳く光が敵の隊列を大きくそれるように右へと伸びていく。
一拍おいて竜騎兵隊が一斉にその方向へと進路を変えた。
『ザート、すでに敵影が見えておったゆえ右に転じたぞ。なんぞ策があるのであろうな』
通心で問いかけてみるが返事がかえってこない。
む、自分で指示しておいてなんじゃ、気になるではないか。
『おいザート、返事を』
通心に追加の文面を書いていると、唐突に大銀鳥の方から魔力の気配を感じ顔をあげた。
一瞬目にうつったのは、真上に現れた紫の法陣から伸びるいくつもの棒に一様に斜めに胸を貫かれた大銀鳥たちの姿。
その場に縫い止められ断末魔をあげていた鳥たちは、続いて轟音とともに激しく振動した棒により身体を四散させた。
急な展開に頭が追いつかずにいると、飛び散ってきた肉片がべしゃりと身体についたので我に返った。
「……せっかくの戦装束が台無しではないか、のうザート」
「説明せずに倒して悪かった……けど予想以上に早くて助かったよ」
顔をしかめて嫌味を言いかけたが、マコラに飛び乗ってきたザートはそのまま膝をついてしまった。
不意打ちの際に消耗したか。これは軽口をいう場面ではないのう。
「倒したのはいいけどよ、大丈夫か?」
顔を上げられないほど息が上がっているザートに近づいたジョアンが心配そうに声をかける。
「大丈夫。けどアレを右眼に収納し続けるのはだめだ。ビーコ達と別れて敵の右翼側に隠れている間、なんども敵に打ち込みそうになったよ」
アレ、というのはさきほど大銀鳥を串刺しにした長さ二十ジィを超える長い棒の群れの事だ。
右眼にものや魔法を収納していると、それだけで経路を使用しつづけている事になる。
経路は次第に強く太くなっていくが、一気に強力な力を収納し続けると、やはり疲弊する。
しかしザートは弱音をはきつつも、その声色は明るい。手応えはつかんだという事か。
「では本番でもやれるのじゃな」
我の声にザートは獰猛に瞳を輝かせながらうなずいた。
【後書き】
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