第14話【昇格:銅級六位】


 茫然自失としたリオンを連れて宿に戻ったのは、日が暮れる直前だった。


——少し、一人にさせてくれないかな。


 自分の部屋と同じ間取りのリビングにロングソードを置き、リオンをカウチソファに座らせると、彼女の口からぽつりとそんな願いがもれた。


 つけたばかりの魔道具の灯りにぼんやりリオンの表情が照らし出される。

 リオンは無理をしているとわかるほど血の気が失せているにも関わらず、微笑んでいた。


 今まで知らなかったリオンの姿に内心焦りを覚えながらも、わかったとうなずく。


「なにか必要な事があったら何でもいいから僕かクローリスを頼ってくれ。明日は午後から報告をしにギルドに行かなきゃならない。昼食の時間になったら呼びに来るから準備をしておいてくれ」


 さっきクローリスがいっていた、ギルドへの申し開きもする必要があるし、明日は二度目の依頼振り分けの日だ。弱っているリオンには申し訳ないけど、行かなければならない。


 コンコン、とノックする音と共にクローリスがドアを押しのけて入ってきた。


「リオン、食堂から晩ご飯もらってきたから食べてください。あと飲み物も好きな物を選んでくださいね」


「ん、ありがと」


 クローリスがトレイから食事をローテーブルに並べおわるのを待って二人でリオンの部屋を出た。



「リオン、大丈夫そうですか?」


「わからないな。明日様子をみて、また考えよう」


 そういってクローリスを食堂へとうながした。


 リオンがロングソードのスキルをもっていたのは確かだ。

 でも、今日の戦いではは他の武器の技術がまじっていた。

 海岸で見せた様子からすると、リオンがロングソードを求めていたのは、特殊スキル発動の武器の代わりとして求めていたんじゃないだろうか。


 その日の夕食はあまり味を感じずに、気づけば食べ終わっていた。


   ――◆◇◆――


 翌日、ギルドの会議室でおこなわれた、ウーツ工房での一件についての申し開きは意外と短時間に終わった。

 それどころか、なぜか位階が銅級六位に上がった事を告げられた。


「クローリスの生産能力もそうですが、ザートさん、リオンさん二人の戦闘を見せつけられた冒険者達に推薦されたんですよ。我々としても能力のある冒険者には早く上位限定のクエストを処理できるようになってもらいたいですからね」


 にこやかに、”これから面倒な依頼を押しつける”宣言をされてしまった。

 ギルドマスターのレーマさんはクローリスがいるせいか、僕達に関しては本音で話すようにしたらしい。


「レーマさん、そろそろ依頼振り分けの時間なので、ここを解放してもいいですか?」


「ああ、もう時間でしたね。ではそうして下さい」


 レーマさんと相談していると、依頼票をもった受付嬢と共に何組かのパーティが会議室にはいってきた。


 グランベイを拠点としている冒険者パーティは百をゆうに超えているけれど、ここに来るパーティは一部だ。

 休暇をとっているパーティ、遠征をしているパーティはもちろんいない。

 そして、生産系パーティが僕達の他にほとんどいないのだ。


 前はそこそこいたけれど、運悪く先日の海難事故で大幅に数を減らしてしまった。

 そこで特定の商会が生産職を囲い込むケースが増えてしまい、散発的な依頼を受ける生産系パーティがさらにいなくなってしまったのだ。

 さ、なるべく良い依頼をとらなくちゃな。


 会合が終わって皆が部屋を出て行く中、クローリスとリオンが僕のジレを引っ張ってきた。


「レーマさんが、私達に生産系の依頼しか回さなかったじゃないですか。あれってわざとですよね?」


「うん。さっきの申し開きの後にレーマさんに頼んでおいたんだ。説明せずにいたのはわるかったよ」


 今回は位階が上がった事もあり、それなりに討伐依頼も回してもらえるはずだったけど、生産系だけ回して欲しいと伝えていたのだ。

 レーマさんの側も、だぶついている生産系の依頼を優先してさばけるので話は簡単にまとまった。


「ザート、私のことなら心配いらないよ。ようやく本来の武器も手に入れたんだから、討伐系の依頼だって余裕でこなせる」


 リオンがちょっと怒った様子で問いつめてくる。

 確かに討伐系依頼を避けたのはリオンが不安だったという事もあるけど、理由はそれだけじゃない。

 

「確かに、リオンならできると思う。でも、今ここで優先すべき事があるんじゃないか?」


「すべき事?」


「銃の解析と、弾の量産だよ」


 




    ――◆ 後書き ◆――


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