第13話【ザートVSリオン(2)】
リオンが回復した後、クローリスに会計を任せて、僕らはざわめきだした周りの冒険者達の目を避けるようにその場を後にした。
店が用意していた高級治癒ポーションの効果は高く、動かなかったリオンの左腕も宿に戻る頃には違和感なく治っていた。
「戻りましたー」
日課の書庫への低位魔法の収納をしていると、くたびれたクローリスの声がした。
ドアを開けると、たくさんの荷物が部屋に転がり込んできた。
僕に荷物を預けると、クローリスは小柄な身体をふらつかせながらソファにたどりつき、そのままダイブした。
「あああー、疲れましたよー」
「悪かったな。色々頼んじゃって。試合の後に目立つのを避けたかったから」
クローリスに預けたパーティの財布を受け取り、代わりに冷たいハーブティーの入ったグラスを渡す。
荷物の中身はウーツ工房の武器とフルト工房の防具だ。
「今更おそい気がしますけどね。ザートのチート能力には剣術も追加しておきますよ……それはそうと、リオンはどこです?」
「隣の部屋のベッドで寝てもらっているよ。ポーションで傷は回復してるけど、ちょっといつもの調子じゃないな」
「ザートに負けたからですか?」
「……多分違うけど、様子を見に行こうか」
声をかけてから間仕切りを開けると、リオンはベッドに座っていた。
表情は寝かせたときとかわらず、ぼうっとした様子で、悔しいとか恨んでいるとか、そういう負の感情はないように見える。
「リオン、具合はどうですか?」
「うん、身体の方は問題ないみたい。やっぱり高位治癒ポーションってすごいね」
左手をぐっと握りながら笑顔を浮かべる。
「それでも痛かったけどね。それと悔しかった」
こっちを見て軽くにらんでくるので、安心してしまった。
そういうのは正直に言ってくれた方がいい。
リオンも僕の様子を見て表情を和らげてくれた。
「悪かったよ。でも、あんなスキルを出されたらヤバいって焦ったんだからな。だす振り、でも勘弁してくれ」
「確かに、ザートが本気になるかな、と思って発動準備までやろうとしたけどね」
小さくつぶやくと、どことなく不安そうに笑った。
「二人とも笑ってますけど、ギルドから呼び出しくらってますからね。明日みんなで決闘じゃないって事情説明に行かなきゃならないんですから」
何でだ? あそこは試合用のスペースだから私闘にならないって説明されてたけど……
二人で顔を見合わせると、クローリスがため息をついた。
「自覚のないチート達ですね。ものには限度ってものがあるんです。二人の試合は武器を試すレベルを明らかに超えてましたから、リングの周りは大騒ぎだったんですからね。店員もまわりの冒険者も止めようとしてたんですよ? 結局無理でしたけど」
そうか。周りが歓声でも上げてるのかと思ってたけど、やめろって言ってたのか……
「ねぇ、その事情説明に行く前に、ちょっと試したいことがあるんだ」
それまで黙っていたリオンが、どこか焦っているような笑みを浮かべていた。
「試したい事ってなんです?」
クローリスがよく分かっていないのか、首をかしげている。
「ここじゃちょっとできないから、海岸まで行こう」
――◆◇◆――
リオンについていき、たどりついたのは南岬の磯の上だった。
港からは影になって見えない、所どころに穴が空いているつるつるした平たい場所だ。
海のない地方で育った身としては色々見て回りたくなるけど、今はリオンの”試すこと”の方が先だ。
「じゃあ、いくよ」
リオンが海に向かってロングソードを構える。
——ズン——
工房のリングで感じた悪寒が再び襲ってくる。
他のスキルとは異質な、格の違う生き物に威圧をかけられたような錯覚におちいる。
目の前にいるのは確かにリオンなのに、その後ろ姿から目を離せない。
隣にいるクローリスが座り込むのをなんとかこらえているのが不思議なくらいだ。
けれど、一段階威圧が強くなり、一瞬刀身が不可思議な光を放ったと思った瞬間、それまであった威圧感が消え去ってしまった。
ロングソードが落ちる音とともに、リオンがふらつき、首を傾け膝から崩れ落ちた。
「リオン!」
慌ててかけよると、リオンは肩で息をしながら、水平線の向こうを見るように呆然としていた。
「……発動しない。惜しいところまでいくのに、やっぱりロングソードでもだめだった」
その表情は長い旅路の果てに見つけた財宝が崩れ落ちた旅人のような、驚きと徒労感を伴った悔しさをにじませていた。
――◆ 後書き ◆――
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