第12話【ザートVSリオン(1)】

 ウーツ工房は武器屋、というより武器倉庫といっていいくらい広い空間に武器が並べられていた。

 広いスペースもあって、周りの人を気にすることなく振れそうだ。

 冒険者もけっこういて、買うというより趣味で通っていそうな人もいる。

 正直買わなくても一日が潰せるだろう。


「とっとと目的のものを買おう。時間がいくら合っても足りない」


「確かに誘惑が多いね。それにしても地図が必要な店なんて初めてだよ」


 「3ー5」と書かれている棚がホウライ刀の置かれている棚らしい。

 この場合は入り口から見て左から3つ目、手前から5つ目の棚という意味だ。

 どれだけ武器がならんでいるんだ。


 粗製のホウライ刀はすぐに決まった。

 どうせ加工するときに調整するんだから、一ジィくらいのものをサクッと選んだ。

 さて、ロングソードはどうかな。


「リオン、選べそうか?」


「うん。とりあえずメジャーな造り方三グループはそろっていた。鋳造と鍛造と鋳造鍛錬」

 

「リオンのスキルに合うのは、鍛造成型か?」


 鉄塊を叩いて伸ばして剣の形に成型するのは時間はかかるけれど鋭い刃を付ける事ができる。

最初の鉄の質さえ間違えなければ一般に出回るものでは最良のものが作れるらしい。


「うーん、対人ならそれがベストかもしれないけど、魔獣を相手にするからね。鋳造鍛錬があるからこれにしよう」


 リオンが手に取ったのは傾斜もない、綺麗な十字つばのロングソードだった。

 鋳造鍛錬は他の二つに比べて少しマイナーな作刀方法だ。鋳造成型した刀身をその姿のまま叩いて鍛錬していく。

 値段も十万ディナと、鍛造よりは手頃だ。


「じゃあそれにするとして……リオン、あれ、気にならないか?」


 僕が指さしたのは十ジィ四方のロープで囲まれた空間だ。

 そのうちの一つで槍使いとラウンドシールドを持った戦斧使いが戦っている。

 数人が囲んでみているけど、決闘という感じじゃない。


「すいません、ここってどういう施設なんですか?」


「ここでは買う前に実戦形式で武器を試すことができるんですよ」


 店員さんの話では、あの中は痛覚軽減とSP回復が付与される結界になっているらしい。

 専門の店員が武器を傷付けないように付与を施し、万一の時も高位ポーションが用意されている。

 安全に配慮したサービス込みで一時間五千ディナで使えるという。


「良いね。ちょっとやってみようよ」


 リングの方を眺めて、リオンは軽く目を細めて好戦的な笑みを浮かべた。

 さっそく説明してくれた店員さんに希望を伝えて準備をしてもらう。

 リオンのロングソードに対して、僕が使うのはバックラーと使い慣れたショートソードだ。


「あの、リオンのスパーリングなら店員に頼んだ方が良くないですか?」


 武器に付与魔法をかけてもらっていると、クローリスが心配そうにきいてきた。

 そういえばクローリスの前ではまだ剣を抜いていなかったか。


「リオン、僕だと実力不足かな?」


「さあ? 試してみないとわからないよ」


 お互いにやる気は十分だ。今更店員に任せるなんてもったいない。

 リングのロープの内側に入って二人で軽く身体を慣らす。


「そろそろいいでしょうか……では、はじめっ!」


 店員の合図で試し合いが始まった。

 

 初手はリオンの右腰だめの諸手突きだ。

 落ち着いて右に流し、上段から切り下ろしで反撃する。

 リオンが鍔元で受けてそのまま下段に流してからくるりと柄を回して右腰だめの体勢にもどる。

 ちょっと特徴があるな。

 

 打ち合いは次第に速くなる。僕は身体強化を使い、リオンも身体強化に加えてスキルを使い始める。


『強打!』


 厚手のグローブをつけた左手で逆手に鍔元を握りこんだリオンが素手のフックのように左から右へとポンメルで殴りつけてくる。

 

 バックラーで上に刷り上げ、左下から剣を持っている左手を切り上げようとしたら、十字つばで刀身を押さえ込まれた。


(あぶな!)


 ショートソードを押さえ込んだ方とは逆のつばを持ち手にしたリオンが、がらあきになった僕の身体の中心に剣先を突き下ろす。

 ギリギリで左肘をひねり込み、突きを右にそらすことができた。


 王国でも柄を戦斧のように使う事はあるけれど、リオンが使っているのは王国のロングソード剣術じゃない。

 多分、刃がなくても十分戦う事が出来る武術だ。それこそ十字型であれば棒でだって——


「やっぱりすごいねザートは! 私はもう身体強化が限界だよ!」


 普段では考えられない獰猛な笑みを浮かべたリオンがロングソードを構え直す。

 限界といいつつまだなにかする気だろう。


 そう思った瞬間、ひどい悪寒を感じた。


 なんだこれ、”スキル”なのか?

 スキルはどれだけ希少であっても”自然で起きうる事”の再現だ。

 それは中位でも高位でも変わらない。


 これは、違う。その上のスキルだ。

 放たれたらただじゃすまない。


『ヴェント・ディケム!』


 高速で飛び込み、リオンの右側から柄を掴み、体当たりをして強引にロングソードを奪い取った。


 リオンの身体がそのまま結界の壁にぶつかる。

 クローリスか誰かの悲鳴が聞こえるなか、ロングソードを放り出して崩れ落ちるリオンをうけとめた。

 手加減なしの奪刀撃ちなので、ポーションが必要かもしれない。


「ザー、ト。ごめん、平気……?」


「ああ、大丈夫、全然平気だ。こっちこそ悪かった」


 自分の身体よりけがをさせたかの方が怖いんだろう。

 リオンの身体がおびえたように震えていたので、安心させるように笑いかける。

 さっきのスキルが発動してたら多分終わってたけどね、とか軽口を言える感じじゃないな。


「良かった……ほんと、ごめん……」


「大丈夫。未遂だよ未遂」


 僕は安心して座り込むリオンに、駆け寄ってきた店員から受け取ったポーションを差し出した。




    ――◆ 後書き ◆――


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