第15話【チートが二人】


 北の空にむかって切られている天窓は青一色で、ながめているとまぶしくはないはずなのに目がくらんでくる。

 ギルド最上階の軽作業用工房は風と水の魔道具で換気がおこなわれるので実に快適だ。

 依頼の振り分けをされた次の日から早速、僕らプラントハンターは、ギルドの工房を貸し切りにして生産系依頼処理と銃の解析を始めた。


「うーん、機関部は魔方陣を描いた銀貨大のジオードガラスを……何枚も重ねて立体魔方陣を作っているのか……」


 まず僕がしているのは銃を複製するための構造理解だ。

 とりあえずバルド教の僧兵がもっていた銃をすべて分解してみた。


 結果、銃の機関部にそれぞれ違う立体魔方陣をつかっていることがわかった。

 規格が統一されていないことから、僧兵の銃は試作品と思われる。

 おそらくバルド教はまだ銃を量産できていない。


 けれどいつかバルド教は銃を大量に投入して冒険者を駆逐しようとするだろう。

 冒険者の狩人を目指す僕らとしては見過ごすわけにはいかない。

 いつかは対策を考える必要があるだろう。


「どうです? 私の知っている銃と中身は似ていますか?」


 クローリスが整備中の魔道具を片手にやってきた。


「手元に弾丸用のフタがある筒で、小さな棒を引けば弾がでるという仕組みは一緒だった」


「じゃあそれ以外に違う所があるんですか?」


「クローリスの世界の銃は弾丸の方に推進用の薬があったみたいだけど、こっちの銃は立体魔方陣に魔力を送って弾丸を飛ばしているらしい」


 クローリスがこちらに目を合わせずに曖昧にうなずいている。

 その顔はわかっているのかいないのかどっちなんだ?


 彼女にはすでに伝えているけど、プラントハンターは狩人をめざしている。

 普通の生産系パーティとして生活していくわけではないので、彼女にも強くなってもらわなくてはならない。幸い彼女も乗り気だ。


 けれど、彼女が戦力になるには”銃剣”という武器が不可欠だ。

 もちろん、シド港で手に入れた銃をそのまま銃剣にしてもいいけど、スペアをつくれない武器を主武器にするのは危険だから、複製をする必要がある。

 複製した上で刀剣を取り付けて銃剣にし、クローリスに装備させ、戦力の上昇を図る。


 とりあえず銃本体については立体魔方陣を書庫の鑑定にかけて地道に解析していくつもりだ。

 書庫で鑑定した内容をノートに写して考察する。

 僕はスキルがないけれど、知識による解析と設計図および試作品の作成ができる。

 

 クローリスは魔道具”作成”のスキルをもっているけれど、こちらの世界に来て日が浅いため、知識に関しては引き出しが少ない。

 応用も余り出来ず、アレンジ程度が限界だ。

 逆に言えば、設計図があればあっという間に均質で精巧な製品を作れる。


 僕が作った設計図をもとにクローリスが銃を複製し、弾を量産する。

 という予定なんだけど……


「弾の解析もどうしたもんかな……」


「弾の現物はないの?」


 書庫にはけっこう大楯で受け止めた弾丸があるけれど、ここで外に出せば壁にぶつかって魔法が発現するだけだ。

 それらは後回しにするしかない。


「手元にあるのは発砲前の銃からとりだせた一発だけなんだ」


 今僕が手にしているのは先端に灼炎石のついた円筒型の凝血石だ。おそらく血殻を加工してから何らかの方法で魔力をこめ直したんだろう。


 銃の実用のためには、弾も解析し、量産しなければならない。

 クローリスの話では、銃の強さの秘密は銃だけではなく弾にもあるという。

 確かに、シド港の戦いでは銃から複数の属性の魔法が打ち出されていた。


「横に模様が描かれてますね」


「灼炎石は加工されてないから、この模様が火魔法の種類を決めているんだろうな。この模様がなにかわからないとどうしようもない……」


 そんなことでクローリスと頭を悩ませていると、リオンがやってきた。


「冷風のスクロールがけっこうできたから休憩に来たよ。どうしたの眉間にしわをよせて?」


 魔道具作成のスキルを持っていなかったリオンだけど、元々絵を描いていたからか、スクロールを作っているうちについさっきスキルを手に入れた。

 もう作成したスクロールは納品できる。


 つまりプラントハンターは、すでに完全な生産型パーティと名乗れるレベルということだ。狩人をめざしているのにね。


 まあそれはおいといて、


「この弾の模様が火魔法をあらわしているはずなんだけど、法則が分からないんだ。何か思いついたらおしえてくれないか?」


 しばらく弾丸を上から下からみてうなっていたリオンだけど、急にテーブルの前に立った。


『クレイ!』


 リオンがおもむろに粘土を机の上に広げはじめた。

 そしてそのうえに弾丸を乗せ横に転がした。


「ああっ! 古代バビロニアの円筒印章だ! なんで思い出さなかったかな私!」


「クローリスもこの模様の意味がわかるのか?」


 知識には自信があったので、なんだか普通にショックだ。


「ごめん、粘土にコロコロするところまでしかわかりません」


 てへっと頭を傾けるクローリス。こいつじゃダメだ。やっぱりリオンじゃないと。


「リオン、この模様はどういう意味なんだ?」


「うん、劣化コピーだけど、これは滅亡したと言われるアルバ文明時代の魔法文字だよ」


 胸をはって誇らしげにうなずくリオン先生。

 アルバ魔法文明は、今の魔法体系の前の者と言われる、失われた古代文明の一つだ。

 発掘された法具の大半がこの時代の地層から出土されたと言われている。


「たしかに、それなら納得できるけど、よくわかったなリオン」


「ふふっ、役に立てて嬉しいよ。魔法文字は知ってるから、他の弾丸もあれば法則性がわかって色々な魔法の弾丸がつくれそうだね」


 そうなのか。それなら書庫の大楯で受け止めた弾丸をどうにかしてとりださなきゃな。

 

「パーティメンバーの二人がチートだなんてすごいじゃないですか! 異世界人としての私の立場がないじゃないですかーっ!」


 二人で次の展望に期待を膨らませていると、クローリスが粘土の余りにたいして拳を打ち下ろしていた。

 クローリス、暴れてもいいけど、褒めるのか怒るのかどっちかにしてくれ。 





    ――◆ 後書き ◆――


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