第17話【ザートのあかんとこ】


「ご足労いただきありがとうございました。結果は三日後にこちらに張り出します」

 

 一礼して出て行く面接者を見送り、ため息をついて椅子の背にもたれた。

 今の人で午前中の面接は終わりだ。

 食事をしてから午後の面接が始まる。


 今日僕は王都となったブラディアのギルドで一室を貸し切り、面接を行っている。

 何の面接か、といえばティルク人保護活動で動いてもらう非戦闘員の採用面接だ。


 先日僕ら”白狼の聖域”はブラディア王からティルク人保護活動の依頼を受けた。

 内容は、良くも悪くも僕達の予想を裏切るものだった。

 

『予算の範囲内で、第三十字街を中心にティルク人の居住区を作れ』


 依頼を簡単にまとめるとこういう内容だった。

 国となったブラディアにおいて、王はティルク系難民を新たな国民としてみている。

 バルド教が言うような神が与えた奴隷などではない。


 かといって過度な優遇もしない。

 第一・第二長城外のような魔獣のいない肥沃な農地ではない、必要最低限かつ、”管理可能な”土地に住まわせろ、というのが王命だ。

 これは実質的な都市建設になる。

 さすがに皇国組でも手に余るため、事務職員の採用をすることになったのだ。


「ザート、ランチを買ってきましたよー」


「あ、ありがと。じゃあ吹き抜けで食べようか」


 バスケットにパンや副菜をいれたクローリスがドアからのぞいてきたので書類をまとめて外にでる。

 クローリスも最近はだいぶ余裕がでてきたようだ。


「午前中はいひ人材はいわしたか? はっふ」


 熱々のブレッドボウルグラタンを口にしながらクローリスが面接の首尾をきいてきた。

 

「ああ、基本的に王や六爵の下で働いていた事務方さん達だったからね。能力の方は見てない」


「お、じゃあ人物重視というやつですか? 美男美女ばっかりそろえたり」


 半目でこちらを見てにやけるクローリス。

 お前はリザさんの下なにを学んできたんだ。


「しないよ。僕やティルク人を見下す人をはじいてから、”第三十字街が王国に攻め落とされたときどうする?”ってきいただけだ」


 ブッシュクックの肉を堅焼きパンの器から取り出して頬張る。あっつい。


「あー、前に言ってた”覚悟”ですか」


 クローリスがちょっと遠い目をする。


 僕は近いうちに始まる独立戦争について楽観視はしていない。

 王国は仮にもアルバ大陸の覇者だ。

 高位スキルを苦も無く使いこなす魔術学院の出身者、法具を複製する魔法考古学研究所、といった”学府”の面々がいる。

 彼らの装備を練度の高い南方軍や領軍に与えればかなりの脅威になる。


「戦うでも逃げるでもいいんだ。即答した人は戦争の覚悟が出来ていると考えて、優先的に採用した」


 王都ブラディアは地形的にくびれた場所に位置するから、守るのに有利ではある。

 でもそこが抜かれた場合、王国軍はまず長城を通って港をめざすだろう。

 ルートは直接ロターをめざすか、第二十字街からグランベイをめざすか、そして、第三十字街からグランベイをめざすか、だ。

 この面接をうけるのに、戦争のイメージを持てない人は採用できない。


「まぁ念のため、だからね。後は本当に人物重視だよ」


 若干空気が重くなったので話題をかえよう。


「そういえば今日の髪色は見たことがないな。また魔道具作成の練度があがったのか?」


 パンの器を食べるかどうか迷っていたクローリスが軽く目を見開き、サイドポニーテールのうなじがみえるようにちかづけてきた。

 悔しいが少しだけドキリとしてしまう。


「ふふ、そうですよ。細かいグラデーションが作れるようになったのです。紅葉したはっぱをイメージしてみました。大人かわいいくないですか?」


 得意げに語るクローリスは着ている服も茶色や灰色といった天然色であわせてきている。


「かわいいとおもうよ。自分のスキルを目一杯楽しめるのはクローリスの良い所だな」


 そういってパンの欠片を口にほおりこむ。

 好きこそものの上手なれ、という言葉があるように、特に生産系のスキルはその行動が好きであるほど身につきやすいという話がある。

 だからクローリスのようにスキルを応用して、常に上をめざす姿は僕にとって好ましい。


 一つもスキルをもたない自分の事を頭のすみに追いやって、書庫からモスマトンの柔らか煮をとりだして二つの皿にとりわける。


「そういう顔をされると、なんや照れるわ……」


 顔を上げると上目遣いでこちらを見るクローリスと目が合った。

 なんとなくこそばゆい沈黙がおりてきた。

 こういうのはクローリスらしくないというか、落ち着かない。


 なにか違う話題はないかと視線を巡らせると、クローリスのケープが前に見たものと色違いなことに気がついた。


「もしかして服も色を変えられるようになったのか?」


「そ、そうなん、そうなんよー! これで服をいくらでもイロチにできるんよ!」


 向こうも話題に困っていたのか、慌てた様子でくいついてきた。

 ケープを指でつまんでパタパタするクローリスだったけど、僕の頭にあるのは違うことだ。


「その機能、マントにつければ森に潜む時に目くらましになるな……よし、魔鉱銃と一緒にその魔道具も実用化させよう」


 拠点が落ちたときは散発的に奇襲して敵を疲弊ひへいさせる必要がある。目立たない装備を着て魔鉱銃で不意打ちするのはかなり有効だろう。


 思いがけず良い戦術が使えるようになった。

 こっちも楽しい気分になっていると、気がつけばクローリスのテンションがなぜか急に落ちていた。


「ウチ、ザートのそういうとこアカンと思うわ」


 背を丸めたクローリスはため息をつき、自棄気味にモスマトンにかぶりついた。

 そういうとこってどういうとこ?






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


クローリスがなんとなくOLっぽくなってもすけど、ザートもクローリスも高校生くらいですからね。念のため。


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