第29話【浄眼獲得】
僕が周囲を警戒し、リュオネが三人の魔人を見失わないように追いかける。
こうした尾行でフォクステールの株を三十ほど通り過ぎると、リュオネが引いていた僕の手をぐっとにぎった。
「あいつら、地下にもぐっていくよ……」
近くの株に身をかくして見ると、平野に唐突に現れた土山の影に魔人達は消えていった。
さて、どうするか。
魔人を五体も見つけるのは異常だ。
魔人は見つければ討伐かギルドに報告すべきもので放置して良い存在ではない。
けれど、目の前の土山も気になる。
見た所掘り返したばかりの土が積もってできたようだ。
魔人が掘ったのだとすると、なんのために掘ったのだろう。
「あれ……何かな?」
大きく回りこんでみると、魔人は浅い穴の中から首だけだして、何かをもくもくと口にしていた。
「何かを掘り出して食べているように見えるな」
正確には何かをかんで吐き出している。
相手が背中を向けている今なら不意打ちができるな。
「リュオネ、銃が通じるか二人で試してみよう。十ジィ高位水弾 アイスボルトで」
さっきは魔法の発現前に魔力を感知されたけど、魔弾の速さなら通じるだろうか?
僕も小盾の中から普通の魔鉱銃を取り出してリュオネと同じ魔弾をこめた。
三体の魔人は魔力に反応したけど、かわす前に手前で発現したアイスボルトに全身を貫かれた。
「赤字だけど、銃が魔人に有効って事はわかったな」
高位の魔弾には大型の凝血石に相当する魔素を必要とする。
それでも複数の魔人を倒せる銃は有用だ。
そこに落ちていたものを見てリュオネが眉をひそめた。
「血殻と凝血石だね……ザート、これみて」
リュオネが指さした凝血石には穴が二つ開けられていた。
隣に落ちている血殻には穴があいていないようだ。
「魔人が牙を突き立てて、魔素を注いでいる?」
まるで魔人が仲間を増やすときみたいだ。
仮説だけど、魔人は人間に牙を突き立て魔素を注入する事で、仲間を増やすという主張がある。
「なんらかの意図で凝血石を”つくって”いたのかな」
リュオネも不思議そうにしている。
「わからない。でも、この土の下には何かがあるかもしれない」
大楯で土をざらっと収納し、発掘品を一つ手の平に出してみせる。
古代アルバ文明の陶磁器の破片だった。
――◆◇◆――
思った通り、魔人が血殻にむらがっていた場所の下には第一の地下祭壇と同じ門があった。
門についた箱に精霊の右眼を差し入れて門をひらく。
以前と違い、いきなり神像が座っている広い空間に出た。
青白い壁に囲まれた空間に変異したエルフはいない。
あれはアルバの遺跡にはいないとわかっていてもほっとしてしまう。
神像を見上げ、ゆっくりと神像の右眼を正面の箱に入れていく。
神像の目にブルーモーメントの光が宿ったところで完全に手を離すと、神像の右眼は箱の中でまた溶けてしまった。
二度目のことなので落ち着いてタブレットを出して”血殻の柱”が増えるのを見ながら終わるのをじっと待つ。
『内部の血殻を補充しました』
『内部に規定量の血殻と魔素を確認しました。神像の右眼を
箱の中に神像の右眼が再び現れるけど、形の変化はないみたいだ。
浄眼式、ってなんだろう?
問いかけても答えは前回同様かえってこなかった。
箱の中にある神像の右眼を取り出しながらリュオネに振り向いた瞬間、視界が青い光に染まった。
「ザート? どうしたの?」
目の前で心配するリュオネの姿も青に染まっている。
それにリュオネのへそのあたりに白い炎のようなゆらめきがみえる。
これが浄眼になったという事か?
「うん、法具が浄眼式というものに変わったせいで……右の視界が青くなったみたいだ。神像の
大楯、タブレットは今まで通り使えて、青い視界と白い炎の見え方を調節できることがわかった。
でも肝心の浄眼が何に使えるのかわからない。
法具としての機能が落ちたわけではないから、様子見という事にしておこう。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
前回に引き続き魔人の話でした。
次回以降、戦闘回が続く予定です。
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