第41話【ハイエルフと戦う事について】
「関節の動きに違和感はありませんか? じゃあその状態を記憶させるので少しそのままでいて下さいね」
冒険者ギルド第三十字街支部の会議室で、技術部のミンシェンとクローリスが集まった人々の間をせわしなく駆け回っている。
「なるべく早くにたのむぜ。新しい得物を触りたくてたまらねぇからな」
金級冒険者パーティ【カンナビス】のアルマンの目がさっきから銃架にかけられた魔鉱銃から離れない。
「真面目にして下さい。このリッカ=レプリカはただの甲冑ではなく、貴方たちが高濃度の魔素に犯されるのを防ぐ命綱なんです。作戦中に魔人になりたいんですか?」
具足の魔方陣に文字を書き加える手を止め、ミンシェンがアルマンをにらむ。
「お、おう……悪かったよ」
三白眼気味のミンシェンに下からにらまれ、アルマンが姿勢を正しておとなしくなる。
今この部屋には前回の異界門調査に引き続き回生作戦に参加する【カンナビス】【ネフラ】が集まっている。
うちの兵種長らも参加したがっていたけど、お目付役のギルベルトさんが僕たちの兵種長らではなく、金級パーティ二組を指名したのだ。
表だっては言えないけれど、皇国軍のコアメンバーが全滅するリスクを回避できたので僕達としてはありがたい。
一方、ブラディア王国軍が魔鉱銃の納品枠を譲ってくれた事もあって二パーティの士気は高い。
ギルベルトさんの采配には感謝しなきゃな。
「はい、これで皆さんの着ている具足は使用できます。登録の際に決めていただいた『コトダマ』を使ってみてください」
ミンシェンが促すと同時に八人の冒険者が先を争うようにつぶやくと、全員の具足が消えた。
問題なく装備できたようだ。
アルマンなど喜色満面といった表情で何度も装備したり解除したりしている。
どれだけベテランになっても新しい装備は心躍るということだろう。
「作戦への参加を決めてもらう時に話した通り、やむをえず対象の魔人ジョンを討伐した際、大量の魔素が放出されます。それに対象が魔人である以上、魔素を放出する何らかの方法を持っている可能性があります。そうなった時は、さっきミンシェンが言った通り具足が命綱になります。それを狙う勢力もいますので、くれぐれも扱いに注意してください」
勢力とは当然アルドヴィン王国のスパイだ。
ブラディアから彼らを完全に駆逐できると思うほど楽観はしていない。
「じゃあ次は魔鉱銃ですね! 数種類用意してますので、ご自身の今使っている武器との相性をみて決めてください」
銃架に群がる八名に対してクローリスが魔弾の種類も含めて必死に説明している。
カンナビスのメンバーは盾持ちは接近しても撃てる拳銃を、長剣使いは銃剣を、槍使いのアルマンは最初は銃剣をいじっていたけど、結局拳銃をナイフの様に使うつもりのようだ。
遊びと実戦は別という事だろうか。
「なあザート、ちょっと思い出したんだが」
拳銃に練習用の魔弾を装填しながらアルマンさんがこっちを向いた。
「万が一でも、封印が解けちまったら、やっぱり異界門事変の時みたいになるのか?」
アルマンさんは多数の領軍と上位冒険者が死亡した異界門事変の惨状を知っているのだ。
確認したいのは当然だろう。
他の参加者もいつの間にかこちらを向いている。
「異界門跡地調査の後、現地調査をコトガネ様にしてもらった。異界門をくぐった先は魔素が異常に濃くて、岩山の坂を下りた先が森林になっているらしい。魔獣魔物はすぐには来ないかもしれないけど、異常がわかれば、異界のハイエルフが来る可能性はある」
【ネフラ】のミランダさんが恐る恐るといった感じできいてくる。
「あの時コトガネ様を追ってきた兵士達でしょ? あれって、本当にハイエルフなの?」
深くはせんさくしないけど、金髪に近い明赤色の髪をした彼女はエルフに近い上流階級出身のはずだ。
そんな彼女にとってハイエルフは高貴で不可侵な存在で、あのような容貌でボロボロになった服をまとう魔物ではないんだろう。
「……はい。僕はリュオネとシルトと一緒にハイエルフと戦いました。その際に目の前でハイエルフはあの姿になったんです。間違いはありません」
僕はその経緯についてはあえて触れずに結果だけ言った。
魔素を抜けるなら注入もできると、ここにいる人達ならわかっている。
あえて口に出すまでもない。
でも、ハイエルフときいたミランダさんは必要以上に怯えてしまっているみたいだ。
彼らと戦う機会なんてないし、前回の調査であの集団をみるまで考えもしなかったんだろう。
「ほら、大丈夫よ。いざとなれば私たち竜騎兵が皆を連れて脱出するんだからあんまり暗い想像をしない」
手伝ってもらったオルミナさんがミランダさんの背中を軽くたたく。
よかった、こういう役割は僕の立場ではできない。
「目的を達成し次第、全員竜騎兵隊の竜にのって離脱する予定です。僕たちも王国から異界門事変並みの脅威をふせげ、なんて依頼は受けていません。万一大量の敵が現れても勝ち目がなければ逃げます」
「その通り。あくまで目的は封印の鍵の確保です。敵がいて封印ができなければ一旦撤退し、王国軍に救援要請をしてください」
撤退してもよいという言葉をギルベルトさんが口にした事で、ようやくミランダさんの緊張が解けたみたいだ。
ギルベルトさんとオルミナさんには後で感謝の言葉を伝えなきゃな。
――◆ 後書き ◆――
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