第64話【調査報告3:沼の巨人の正体】


 今度はこちらが驚かされた。


「子爵は冒険者だったんですか!?」


 冒険者から国持ち貴族になりたい僕としては聞き逃せない話だった。

 こんなに身近にいたなんて、ぜひくわしく話をききたい。


「ザート君落ち着いて。リオンちゃんが驚いてるでしょう」


 リズさんの指摘で少し冷静になる。

 そうだった。リズさんには僕の将来設計をきいてもらっているからいいんだけど、リオンにはまだ話していなかった。


「すいません。古城のボスの件が先ですよね」


 気を取り直し、改めて子爵の執務室まで向かう。

 焦る必要は無いんだ。この件が終わったら子爵に話をきける時間をもらえるかきいてみよう。


 リズさんが扉をノックすると、落ち着いた雰囲気のメイドさんがあらわれた。


「サティ、ウルヴァストン様に急いで報告したいことがあるの、とりついでもらえる?」


 うなずいたサティさんが一度扉を閉める。前はリズさんがそのまま入っていたけど、普段はサティさんが秘書をしているのかな。


「問題ないそうです。どうぞおはいりください」


 部屋では子爵が立ち上がり窓の外を見上げていた。


「ギルドの方が騒がしいから、何か起きたとは思っていたけど、湖水地方の件だったか」


 振り返った子爵はこの話を受けた時とは違って渋面をつくっていた。


 ソファに座り、リズさんがさっき僕らがした説明を要約して話してくれた。


「それで、彼らはひときわ大きい沼の巨人を倒した結果、魔境から抜け出せた、というのですが……」


 リズさんがそこまで言った後を言いよどむ。


「……信じられないから、あれをもって私の所に来た、という所か」


 子爵の視線の先には凝血石をのせた鑑定機があった。


「経緯は分かった。では鑑定をしよう」


 子爵は立ち上がり執務机の上に置かれた鑑定機を操作した。

 ジョアンの書庫のような光る板に文字が浮かび上がる。


……

鑑定結果

・凝血石(大)

固有名『グレンデールの魂』

……


「グレンデールか……」


 意味深な子爵の言葉の後、執務室が静寂に包まれた。


 僕とリオンにはこの固有名の意味がわからない。

 だから、その辺りに一番詳しいであろう子爵が口を開くのを待つほかなかった。


 子爵は長いため息をついてから、無言でソファをすすめてきた。長い話になるんだろう。


「確かに、状況と凝血石の鑑定結果から、古城は魔境になっていたと推定した。君たちには踏破者および解放者として報奨金がでる。位階も、急には上げられないが、最大限早く上げよう」


 本来なら飛び上がるほど良い話であるのに、子爵の沈んだ雰囲気から素直に喜べない。


「今回の件は他言無用に願いたい。それは我々ギルドと、君たち個人がある勢力を敵に回さないために必要な事だからだ。これからその理由について説明する」

 

 きな臭い話になってきた。ある勢力って、貴族がらみだろうか?

 

「まずグレンデールが誰かについて話そうか。この辺り一帯が壁で囲われた時、辺境伯はある狩人を配下の寄子として領主に推薦した。その男の名前がグレンデールだ」








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