第3話【領都ブラディア】

「さすがはアルドヴィン王国最大の魔力生産拠点だなぁ」


 両側を石にはさまれたゆるい坂を登っていく。

 防衛拠点としても一流らしく、施設もこれまでで一番立派に見えた。

 坂を登り切ると、今度はうって変わって木造の家が並んでいて驚いた。


 僕の故郷や王都にあった魔術中等学院は石造りの家がほとんどだった。

 木だけでできた家は王都からここに来るまで通ったような集落にしかないとおもっていた。


 けれど、近づいてみれば貧しいから木で家を建てているわけじゃないことがわかる。

 屋根につまれるスレートは素焼きではなく水につよい釉薬が塗られ、漆喰は丁寧に修繕されている。外に露出している柱やアーチもくるい無く屋根を支え、一部には彫刻さえ施されている。


「すごいな、ここは目抜き通りとはいえ、普通の市民街のはずなのに」


 街ゆく人々は上流から下流まで様々だ。新市街区だから中下流が多いかな。


「おにーさん。うちの店で休んでいきませんか?」


 建物に感心して立ち止まっていると、カフェの前で呼び込みをしていた獣人のウェイトレスに声をかけられた。

 族名はわからないけどイタチ系だろうか? 周りをちょろちょろと回られて逃げ出すタイミングがつかめない。


「ごめんね。これから冒険者ギルドで登録しなきゃいけないんだ」


 さっき言われたとおり、道草をくわずにいかなきゃ。

 

「え、そうなの? その服装だからよそから来た銅級あたりの冒険者かと思った。まだ登録してないなら急いでいかなきゃ。広場にでたら壁を左だからね!」

 

 ぱっと離れたウェイトレスは道を教えてくれた。


 銅級になったら来てねー、と笑顔で見送られる。

 現金だけど、貧乏人に愛想良くしても客にはなってくれないからな。

 それでも親切に道を教えてくれたし、十分親切だ。


「それにしても、銅級の服装か……」


 広場に出てあらためて考える。

 隊商にいたときはなにも言われなかったけど、確かにこの広場の中でも僕の格好は浮いている。 

 一々間違えられるのも気まずいし、ギルドにいく前に服を代えておくのがいいかもな。


 広場を横切って急ぎ足で歩きながら店先の看板を見ていく。


 「料理屋、屋台、肉屋……ギルドの近くならあると思うんだよな……あった」

 

 古着がたくさんつるされている店に入り、今来ている服と同じ種類でなるべくくたびれたものを探す。


 ジレ、シャツ、乗馬ズボン……ブーツはサイズを選んでいる時間は無いか。

 腰にポーチをいくつもつけたマルチベルトも時間が惜しいから今度だ。


 今着ているものを下取りに出して中古の服を二セット買う。銀貨三枚が戻ってきた。

 

 腰のバッグに銀貨を入れる時、胸元に目をやる。

 首に下げている袋の中はマザーからもらった金貨だ。命に関わる時じゃない限り使えないな。

 

 バックラーの入ったくたびれたバックパックを担いで出て行こうとすると、服屋に呼び止められた。


「流れ者ならこれもまとわなきゃな。野宿してこなかったのがわかっちまうぞ」


 手には暑くなる季節には不似合いな厚手のマントがあった。

 なるほど、これなら流れ者らしい。


 僕のような奴をこれまでたくさん見てきたんだろう。

 どうも、と礼を言いながら受け取るとおやじさんは背を向けて仕事にもどってしまった。


「金はいらねぇよ。じゃ、がんばんな」


 親切な服屋を出て今度こそギルドに向かう。


 王国にある冒険者ギルド支部でもっとも発言力があるのは、ブラディア冒険者ギルド支部だ。

 王国の冒険者ギルド総本部は王都にあるけれど、あれは国の行政府との窓口でしかない。

 だから実質ブラディア支部が本部のようなものらしい。

 それにしても、だ。


「でかすぎでしょ、これ」


 あらためて正面に立って呆然としてしまった。城壁に直角に接する長い階段。

 その階段と融合するように、二つの建物がそびえ立っていた。





    ――◆ 後書き ◆――


お読みいただき、ありがとうございます。


★評価をぜひお願いします、作者のテンションがあがります!


【(恐縮ですが)スマホでの★の入れ方】

カクヨムアプリの作品目次ページで、目次のとなりのレビューをタップ!

+マークがでるので、押すと★が入れられます。


右側の「レビューを書く」をタップすると感想を書ける場所がでます。

「イイネ!」の一言だけでも書いていただけると嬉しいです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る