第2話【辺境伯領】
日ごとに強くなる春の終わりの日差しを避け、隊商は森の中を進む。
先をいく馬の蹄や人の足がふみつけたせいで、すっかり青草の匂いが身体に染みついた気がする。
けれどそれも終わりだ。
あの森が途切れる先、光の穴の向こうに目的地が見えてくるはずだ。
「おぉ……」
ため息が自然と喉を震わせる。
森を抜けると突如として太陽に照らされ波うつ草原が広がり、視界の先には長い長い城壁が拡がっていた。
辺境伯領ブラディア。
かつてジョアン叔父もいた冒険者の都。
今日からあそこが僕の生きる場所になる。
――◆◇◆――
辺境伯領の領都であるブラディアに入るため城門前に並び順番をまつ。
城壁は辺境伯領だけあって質実剛健だ。掘の深さを除いても十五ジィ(※ジィ=メートル)はあるだろう。
道中で聞いた話によれば、ブラディアは領都を中心にして北東に五重の城壁が拡がる領地だという。
辺境伯の居城を起点にすると、周囲を貴族街が、さらに商業地区である旧市街区が囲んでいる。
そこから南東に向かって一般市民が住む新市街が広がる。
城壁に囲まれたここまでの街が領都としてのブラディアだ。
しかし辺境伯領としてのブラディアを特徴付けるのはやはり五重の城壁だ。これは——。
「おい、背が高いの、お前の番だぞ」
まずい、ぼーっとしてた。後ろから道中の顔見知りにつつかれて前を見ると検問所の兵士が眉間にしわを寄せている。
「すいません。僕はザートといいます。冒険者になるために来ました」
族名、家名と一緒に本名も捨てようとしたけど、さすがに言い間違えたらまずいので本名はザートという略称にしておいた。
ブラディアに来たのはここが冒険者として生きるのに最適だからだ。
辺境伯領は隣国バーゼル帝国に接している。
魔獣が多数生息する未開拓の大森林地帯が領地の大半という、魔獣を討伐する冒険者が集まる土地だ。
ここなら基礎スキルしか持たない自分でも生きていくくらいはできるはずだ。
「そうか。男、鳶色の短髪、同色の目、背は……一・七? ジィくらいか。細いな。外見は中つ人(※人間)でいいか。年齢は?」
「十六になります」
兵士二人がそろって僕の特徴を紙に書き付けていき、二枚をずらして重ね、割り印を押す。
話しかけていたひげの兵士がそのうち一枚を突き出してきた。
「この紙を今日中に冒険者ギルドに持って行って市民登録しろ。そろそろ帰ってきた冒険者で混み合う時間だ。行くなら道草をくわずにいくんだぞ」
次、という声を背にして、紙の裏に書いてある地図を頼りに冒険者ギルドに向かった。
――◆ 後書き ◆――
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