第42話【リオンの武器について】
飛び込んできたリオンは、僕が五体満足なことがわかったのか、崩れるように近くの椅子に座り込んでしまった。
「よかった、無事だったんだね。遠征が終わって宿に戻ったらビビがいなくてさ。二人でキッケル遺跡に行って事故に遭ったっておかみさんがいうからとびだしてきたんだ」
テーブルに長い手を投げ出してのびをするリオンに苦笑をする。
「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫だよ」
フィオさんから受け取ったコップに水を入れて渡す。
水差しをカウンターに戻しに行くと、フィオさんと目が合った。
なるほど、はやく紹介しろということですね。
「エンツォさん、フィオさん。彼女は友人のリオンです。冒険者の同期で、たまに一緒に依頼をうけてます。それからリオン、この人達はこの宿のオーナー夫妻だ」
お互いに自己紹介をする三人。
今更だけど、エンツォはマスターの本名だ。つい忘れそうになるけど。
「よろしくリオンちゃん、お昼ご飯がまだならうちで食べていかない? 今から他のお店にいってもランチの時間終わってるんじゃないかしら」
「そうですね。お願いします」
フィオさんの提案にリオンが即答した。
きっとすぐに街に着くからと、朝食抜きで宿に戻ったんだろう。
そこからコロウ亭に走ってきたなら何もたべていないはずだ。
「メインはモスマトンとパシアナ鳥のどっちがいい?」
「モスマトンでおねがいします!」
即決か。リオンらしいな。
リオンの元気なオーダーに、フィオさんは顔をほころばせながら厨房の女の子にオーダーをしにいった。
料理がくるまで、リオンがいつもしている依頼の話を聞く。
日帰りなら薬草の森で採取か、草原でボアなどのハンティング。
遠征なら一日で行ける湖水地方の手前の村に滞在して、採取か害獣駆除をしているらしい。
依頼はほとんど他の冒険者パーティと合同で受けているという。
他人の事情に首はつっこまないけど、リオンの実力でいうと、ちょっと物足りない依頼なんじゃないか?
「おいザート、ちょっと酒瓶入れ替えるの手伝ってくれ」
隣で話を聞いていたマスターがカウンターに誘うのでとりあえずついていく。
「なんです?」
よく出る蒸留酒の瓶をカウンターの奥から出すのを手伝いながらここに呼んだ理由を聞く。
「あの娘はソロ志望だと言うわりに初心者パーティの助っ人をしているようだが、実力がないのか?」
作業をする手は止めず、マスターがストレートに疑問をぶつけてきた。
なるほど、さすが面倒見の良さに定評のあるマスターだ。
リオンの発言と現状にギャップを感じて、なにか問題があると心配しているんだろう。
「本来の得物が手に入ればソロでやっていく実力はあると思います」
ゴブリンで共闘した時にわかっていたけど、移動、索敵、戦闘時の判断など、単独で行う能力をリオンは一通り備えている。
足りないのは純粋な戦闘力だ。
「ザートはその得物に心当たりがあるようだが」
「ええ、十中八九ロングソードです」
リオンと組んだ時のフレイルさばきには両手剣、しかも正規に習った剣術の跡が見られた。
だから両手剣のスキルを持っているはずだ。
スキルは発動させればその人が行える最良の動きを再現できる。
スキルを使わずに同じ動きをしても、そのキレには雲泥の差がある。
ただし、スキルにはけっこう融通が利かないところがある。
同じスキルが使えなくても、無難に槍やショートソードにしておけば良いのにロングソードに似たツーハンドフレイルをわざわざつかっている。
「スキルが使えないのは痛いな……戦闘訓練をしていたならこの辺りの敵は倒せるだろうが、すぐに伸び悩むだろう。ロングソードを手に入れるのは必須になるだろうが、簡単に買える武器じゃないし、薬草摘みじゃ無理だ。」
マスターが渋い顔をして予測を口にするが、僕もそう思う。
リオンだってその辺りは理解しているんだろう。
そもそもロングソードは冒険者が使うものじゃない。
各地の方面軍に所属する士官としての騎士や、ブラディア以外の魔素だまりに常駐する騎士団が振るうもので、本来は対人に威力を発揮する武器だ。
騎士の名誉を象徴する武器でもあるので、値段は非常に高いらしい。
冒険者でロングソードに憧れる人は多いけど、実際手にしている人は騎士から冒険者になったような例外を除いて皆無といっていい。
「何にせよ、金だな。一つアテがあるから、後は彼女が乗るか、だな」
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