第45話【砲弾の収納〜リオンの目覚め】


 戦艦とリヴァイアサンの間に割って入った直後、展開した大楯越しに相手を見る。

 上を向いたリヴァイアサンの口から、生き物には似つかわしくない直線的な棒状のものが伸びたと思ったら顔ごと棒をこちらに向けた。


——あれは、まずい。


 中央に空いた穴から、瞬時にそれが筒であり、巨大な銃であることを理解した瞬間、大楯に全魔力を注いだ。


 縦横十五ジィでは足りない、もっと広く。

 あらゆるものを収納するように、隠蔽にかける余力もすべて大楯の維持に回した。

 ブルーモーメントの光が、真昼にもかかわらずはっきりと脈打つ。


——カッ


 大楯越しに銃口が光が見えたのと同時に大楯の光が一瞬強まり、戻った。

 続く轟音に思わず耳を塞いだ。


 リヴァイアサンはクローリスの魔鉱銃の何十倍もの長さだ。

 発射時の音もケタ違いにでかいらしい。

 ただ助かったのは、発射後リヴァイアサンの動きが止まったことだ。

 連射はできないみたいだ。


 でもまたいつ動きだすかわからない。

 なんの攻撃をされたのか急いで確認する。


==

・魔鉱砲の砲弾

==


 書庫には銃弾らしきものが確かに収納されている。

 これが攻撃の正体か。

 多分”銃”の大きいものを”砲”というのだろう。

 後でクローリスにきこう。


 でも、強力な攻撃を収納したせいで魔砂の消費が激しい。

 防げるといっても限度がある。


「ザート!」


 振りかえると甲板上でリオン達が白い魔獣に囲まれていた。

 マーマン、ソードロブスター、ウェトゼーレ。

 どれもリヴァイアサンと同じく白い個体だ。


「こ、のっ!」


 クローリスが銃の引き金を引く。

 ソードロブスターに命中するけど、やはり火魔法の煌めきが一瞬光っただけで魔法は吸収された。


「クローリス! 魔法はだめだ。銃なら通常弾を使え!」


 周囲の敵を古城のがれきで海に吹き飛ばし、リヴァイアサンを視界に捕らえつつアルバトロスとリオン達がいる船尾楼に降りた。

 

「ザート、空から駆け下りたり馬鹿でかい障壁を展開したり、なんだそりゃ?」


 アルバトロスの面々が呆れた様子できいてくる。


「僕の奥の手です。それより、少しの間船尾楼に敵をあげないように防いでください。目的の物をリオンに使ってもらいます」


 三刃の鞘を取り出した瞬間、みんなの顔が喜色に満ちた。


「よしわかった!」


 リオンをのぞく全員が二手に分かれて階段や船縁にあがってくる魔獣をたたき落とし始める。

 振りかえると、リオンはロングソードを抱えて僕の手にある三刃の鞘を見つめていた。

 口を引き結び、グローブがきしむほど強く手を握っている。

 でもそれは不安からじゃなかった。


「これが三刃の鞘……思い出したよ。父様のロングソードにあったものだ」


 リオンの目は力強く輝き、確信に満ちている。


「うん。書庫にもその名前が表示されたから間違いない」


 しっかりとした手つきで鞘を受け取ったリオンはロングソードを鞘に納めた。

 鞘は吸い付くように刀身を包み、動かなくなった。

 

「ショーン! 準備できたから魔獣を一体通してくれ!」


「あいよ!」


 ハルバードで引っかけられ、ソードロブスターが一体こちらに転がってくる。


 いよいよか。

 リオンが同郷の人達のために、冒険者になって放浪してまで求めてきたスキルをようやく見る事ができるのか。


 リオンが瞑目し、眼前にかかげた翠色の鞘は光を帯びると同時に透けていく。

 光が拍動するたびに透け、まるでジョアンの書庫の大楯のように刀身と一体となった。


「いくよ」


 目を見開くと同時にロングソードを右腰だめに構えたリオンは、ソードロブスターに鋭い突きを放った。

 刃が白い甲殻をあっさりと貫く。

 そして、魔獣の身体が翠色に染まったと思った瞬間、魔獣だったものは白い砂となり刀身から滑り落ちていった。


 剣を下ろしたリオンの全身は覇気に満ち、金色にも見えるリナルグリーンの瞳は未来を見据えている。

 この一瞬はきっと僕の記憶にあざやかに刻まれた。

 それほどにこの光景は美しかった。





    ――◆ ◇ ◆――


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