第21話【居残り残業とサプライズ】


 長城の法具を狙った襲撃事件の後、王城の解体は三倍の速さで進んだ。

 なぜなら僕が所有している法具二台も現場に投入されたからだ。


 あの事件の後、僕はすべての事情を陛下に説明した。

 まず蛇神の祭壇をグランドル古城で手に入れた事を話し、クランの魔導技師であるミンシェンが修理して使える様になった事、その前提があったから、ギルベルトさん救助のための陽動として法具を攻撃した事を伝えた。

 その結果、


『それなら工兵隊を手伝ってもらえるかしら?』


 僕は女王陛下に報告が遅れた件を許される代わりに王都を要塞化する作業に従事する事になった。

 それで今、蛇神の法具に乗り込んでいるわけだ。


「団長ー、なんで俺まで呼び出されたんだよ?」


「それはコリーが法具にカギをかけていたからだろう」


 まだ納得いっていない様子のコリーに対して理由を告げる。

 ちなみにこれで三度目だ。

 もう一台あるからと黙認していたけど、他人に乗せたくないからといって法具にカギをかけるってどうなんだ? 法具を愛しすぎじゃないか?


 馬車型の法具、蛇神の祭壇に乗り城の解体を終えた僕とコリーは、かつて冒険者ギルド本部がはいっていた双子の塔に向かった。


「ガンナー様!」


 大階段に座って話し合っていた、生き残りの工兵隊二十名とギルベルトさんが一斉に立ち上がった。


「なにかあったんですか?」


「え、ええ。おかげさまで王城を溶かすのは終わりましたが、要塞の築城には塔を中心に百ジィを更地にする必要があるんです。けれど襲撃事件で本来の指揮官を含め工兵隊の半数以上がいなくなってしまったので……」


 なるほど、事件のせいで予定が狂い、長城の法具では加工が難しい木造の建物をくずすはずだった工兵の絶対数が足りないということか。

 けど、それに関しては僕が神像の右眼で収納すればいい。


「ギルベルトさん、僕が法具で木造の建物を収納していくので、石造りの建物を解体していってください」


「は……わかりました。ありがとうございます」


 僕の法具の能力を知っているギルベルトさんは、一礼すると工兵隊に手早く指示していった。


「真面目だなーギルベルトさん」


「だな。大尉に昇進したし、本来なら女王陛下に従ってグランベイに入っているはずなのに嫌な顔一つみせないんだから」


 ギルベルトさんがあの場で指揮をとっていたのは、本来の指揮官が不意打ちで倒されてしまった所に駆けつけたからだった。

 工兵隊本隊から代理の士官が来るまでそのままギルベルトさんが工兵隊を率いているのだ。

 

「じゃあコリー、ギルベルトさん達と一緒に僕の後をついてきてくれ」


「へーい」


 法具を収納した僕は、双子の塔の左に伸びた大通りを進んだ。

 木造家屋が並ぶ通りは、このブラディアについて始めて見た景色だ。

 今は皆避難して誰一人残っている者はいない。

 最初に道を教えてくれた女の子や古着屋のお爺さんは無事疎開できただろうか。


「それじゃ皆さん、始めるのでついてきてください」


 僕は右眼を浄眼にして視界の大楯の枠に建物群をおさめ、ズイと進めていく。

 みるみるうちに消えていく建物に後から驚嘆の声が聞こえてくる。

 足を進めるごとに、誰かの日常の跡が消えていく。

 でも大事なのは建物じゃない、中にいる人々の今の暮らしだ。


 支配者が変わっても庶民はしたたかに暮らすというけれど、今回の独立戦争のきっかけになったアルドヴィンのブラディア明け渡し令はブラディアの富をまるごとアルドヴィン王が得るという意図があった。

 この土地にとどまって循環していた富を吸い上げられればブラディアの庶民は生活できない。


 そんな事をかんがえているうちに更地ができあがったので、長城の法具をつかって設計図通りに外枠を長城でつくっていく。

 できあがった長城は巨大な銃である砲の存在を考慮して、普通の長城より二倍ほど厚くした。

 さらに長城はいくつもの角を備えたシリウス・ノヴァと同様の星形になっている。

 けれど、この要塞の主力は地上にはない。


「まさか双子の塔を砲台にする事になるとは思いませんでしたよ」


 口調をいつもの調子にもどし、ため息をつくギルベルトさんと一緒に壁を厚くした双子の塔の屋上から遠くをながめる。

 みえるのは草地とその先に広がる森だ。

 あの森は見晴らしを良くするために取り払ってしまうらしい。

 その先は平原だから、かなり遠方まで見渡す事ができるだろう。


「高い所から打ち下ろせば飛距離が伸びる。相手の砲が届く前にこちらの砲で破壊するというのは理にかなっていますよ」


 双子の塔を砲台にするというのはギルベルトさんの案だ。

 一般兵力ならここで足止めできるだろう。


「銃の専門家にそういってもらえると私も安心します。さ、後は双子の塔の横に広がる第一長城壁を強化するだけなので、ザート君は第三新、ゴホッ、ゴホッ……失礼、第三十字街にお帰りください」


 大丈夫かな? 土煙を吸い過ぎたとかならいいけど。


「そうですか。では迎えも来ていますので、失礼します」


 敬礼するギルベルトさんにうなずくと、塔の端に待機していたビーコに乗り、僕は王都ブラディアあらためブラディア要塞を後にした。



「? なんか第三十字街に人があふれてないか?」


 上空から十字街の通りを見るとかなり人通りがある。

 それになにか雰囲気がちがう。

 数日空けただけなのにこうも変わるだろうか?


「あはは、まあ下に行けばわかるわよ。皆ガンナー伯爵の凱旋を待ってたんだから」


 オルミナさんが苦笑いしながらビーコを着地させる。

 む、なにかサプライズ的なものかな?

 いや、でも街ぐるみでサプライズされるほど僕はえらくはないぞ? まだ領地だって決まってないんだし。


 オルミナさん達に急かされながら一階のホールに入る。

 そこには、


「あ! ガンナー伯爵おかえりなさい!」


 カウンターのいつものメンバーに囲まれてウルフェルのジョッキを掲げるリザさん——女王陛下の姿があった。


「な、へい——⁉」


「ここでは今まで通りリザとよんでください。それから第三十字街は女王エリザベス一世が入城したことにより名前が変わったんです!」


 え、リザさん、というか女王陛下、この街に住むの?

 有無をいわさぬ圧力と急展開について行けない僕はリュオネに渡されたジョッキを持ち呆然としていた。

 

「ようこそ第三新ブラディアに! あらためて、ガンナー伯爵に乾杯‼」


「「「ガンナー伯爵に!」」」


 ああ、そういうことか。

 十字街中央塔があんなに立派に作られていたのも、王様が入るから、というのなら納得がいく。

 カウンターからジョッキが波のように掲げられていく様をみて、僕は呆れつつ自棄気味な感謝の言葉とともにジョッキのウルフェルを一気飲みした。





    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


ということで、女王の拠点は結局第三十字街になりました。

第三新ブラディアの説明は次回に。。


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