第49話【リオンの涙】


 一瞬だけど、確かに僕の目の前には大楯を突き破ろうとする巨大な砲弾が見えた。

 魔素か質量か他の何かか、一度に収納できるものにもやはり限界があるのか。

 かろうじて収納した砲弾の代わりに現れたのは、首をもたげかけたリヴァイアサンの苦悶の表情だった。


 リオンのマガエシがリヴァイアサンの身体を貫いたのだろう。

 さっきのソードロブスターのように、リヴァイアサンの身体が翠色にひかりながら砂になっていく。


 その中に、巨大な赤黒い塊がいくつもあるのがみえた。

 サイモンはともかく、グレンデールも凝血石はおとしているからリヴァイアサンも持っているとはおもったけど、複数なのはなぜだろうか。

 

「考えても仕方ない、迎えに行くついでにしまっていくか」


 エアバレルの濃縮凝血石でふたたび余裕ができたので、加速しながら凝血石も、翠色の光もまとめて回収していく。

 行けども行けども続く光は、リオンが切り開いていった道だ。


 父であるミツハ少佐の志をついで、異界門事変の痕跡が残るブラディアの地で冒険者となり、皇国の駐留軍が撤退する時になっても、なお皇族の義務としてこの地の臣民を助けようとしてきた。


 偶然に助けられた所もあったけれど、スキルを手に入れ、実質牙狩りになれたのは彼女が諦めなかったからだ。

 そして、これはパーティの、クランの活動の始まりにすぎない。

 リオンが切り開く光の道がこれからも続いていく事を願いつつ、僕は視界の先にいるリオンを見上げた。


 こちらを見下ろすリオンは剣をだき、銀髪をはためかせながらエアバレルを外す。

 両手を差し出すその表情は一つの仕事を成し遂げた喜びに満ちて、今までで一番の笑顔だ。

 

『ゲイル!』


 落下する身体を下からの突風で一瞬浮かせ、そのまま右手で肩をひきよせ、左手で膝をすくい上げた。

 一瞬驚いたリオンだったけど、そのまま身体を小さくして腕の中に収まった。


「お待たせ」


「待ってないよ」


 右腕の中のリオンは先ほどとは表情を変え、ぐっと眉根を寄せ、口元をぎゅっと結んでこちらを上目遣いに見ていた。

 その表情は怒っているようにも、何かをがまんしているようにも見えていた。

 その表情を見て、つい目元がゆるみ、無意識に言葉が口をついて出た。


「頑張ったな。これで父さんと同じ牙狩りになれたな」


 口にしてから少佐の事を父さんといって良かったのか考えていると、意表をつかれたように見開かれた目は潤み、リナルグリーンの瞳は輝きを一層強くさせた。


「っ! 頑張ったよ私!」


 リオンが遠慮のない力で首にひしとしがみついて、僕の肩越しに海に向かって大声で泣き声を上げている。

 泣かせてしまったけど、多分悪い涙ではないと思う。

 笑っていても泣いていても、結局彼女には素直でいてくれるのが僕は一番嬉しい。

 だから、今は心のままに泣いてくれていて安心している。


 もっとも、この涙を他の人にも見せたいか、といえば見せたくはない。

 だから、こちらに近づいてくる皆の待つ船には少しだけゆっくり戻ることにしよう。

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