第07話【旅路の始まり】
館の北側の庭園には風に揺れるウジャトに加え、竜の足の様にも見えるウロコヤシや幹に白い玉をつけるミルクドロップといったティランジア産の植物を植えている。
出来たばかりのその庭園の前にはシリウス・ノヴァに残る団員の皆が顔をそろえていた。
皆これからティランジアの沿岸を開拓していく僕ら【プラントハンター】の見送りに来ていた。
「名残惜しいですけどしばしの別れです」
「いや、しばしって、どうせ竜騎兵隊のワイバーンに乗って行き来すんだろ。新しい港を作る時には俺も行くし」
「はぁ、コリーは情緒がないですね。ここから狩人伯領の拡大が始まるんですよ? 旅立ちは感動的にしなきゃ絵にならないじゃないですか」
コリーの指摘に対してクローリスがやれやれと頭をふる。
得意げな態度が腹立つけど、言っていることは間違っていない。腹立つけど。
「しかしザート達三人にデボラと、連絡役にカレンか。もう少し連れて行っても良かったんじゃないか?」
サミズという着丈の長い詰襟を着たジョアン叔父が腕を組んで眉にしわを寄せる。
シャスカとフリージアさんもどことなく心配そうな顔をしている。
「大丈夫ですって。この辺りの魔物は俺たちも初見ですけど事前に調査して大体の魔物、魔獣は把握していますから」
報告書の写しを掲げてショーンがニカリと笑った。
竜使いはティランジア出身だから今回の調査では里帰りをしたりして文字通り羽を伸ばせたみたいだ。
「そういう訳だから安心してよ。ジョンさん達は神殿にいる事になるだろうけど、ローテーションを組んで皆にも参加してもらうから」
「我も行きたいのになぜ留守番をせねばならんのじゃ!」
フリージアさんに抱えられたシャスカが駄々をこね出した。
頬を膨らませてフリージアさんと僕を交互ににらみつけてくる。
「ジョンさんとフリージアさんは僕達の中で屈指の戦力だ。二人にはシャスカを守る役目があるけれど、まだ盤石じゃないシリウス・ノヴァの防衛も担ってもらいたい。そういうわけだからシャスカもここにいなくちゃいけない」
「我はついでなのか⁉」
予想以上に自分の重要度が低いことにショックを受けたのか、シャスカが悲鳴をあげる。
「だ、大丈夫だよシャスカ。港ができる度に、ここみたいに神殿を聖別する必要があるんだから」
「む、そうか。別荘が増える度に移動するのであれば、それまでここでゆっくりして力を蓄えるかの」
シャスカ自身の話では、アルバ神の力はシャスカが神となった時にはだいぶ弱くなっていたらしい。
これは凝血石だけの問題ではなく制している土地と関係があるようだ。
現在アルバ神をはっきりと信仰しているのはブラディアだけだ。
シャスカの実在をしらないティランジアの民は形骸化した信仰した持っていないのでシャスカの力にはなっていないらしい。
「準備できたよ」
竜神の祭壇に馬をつなげたデボラがひらりと御者席に飛び乗った。
自力で走ることもできるけど、遅いので馬に引かせることにした。
これなら長城を作りながらでもそれなりの速さで進む事ができる。
回廊のアーチを抜けた先にはコリーがつくった道が崖沿いにずっと続いている。
しばらくはそこを進んで、終わりから少し内陸に入った所を進む予定だ。
「それじゃ、行ってくるよ」
「我がバーバルと戦うためにもティランジアの征服をよろしく頼むぞ!」
「征服じゃなくて布教だからな⁉ 土地は使っていない所に植民するし、ティランジア人の皆とは共存したいんだから!」
無邪気に物騒な事をいう神さまに釘をさしながら祭壇に乗り込み、僕らはシリウス・ノヴァを後にした。
――◆ 後書き ◆――
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