第22話【クローリス、けんかを買う】


——カッ!

————ギャリ、キィン!


 試験員のホウライ刀がアタシの刀の打ち込みを鎬で受ける。

 今アタシは実技の模擬戦をしている。

 必須ではないけど、提出した書類を確認してもらっている時間をつぶすにはちょうどいい。


 ふつう、アルバ大陸の刀剣は受ける時は刃で受ける。

 これは刀剣の性質上それがベストだからだ。


 アルバの刀剣のほとんどは鎬が無い。

 だから下手に斜めに受けようものなら剣で一番硬く、もろい刃が大きくまくれてしまう。

 そうなった刀剣はバランスを失い、刀身が折れる原因となる。

 ホウライ刀のように鎬で受けるのではなく刃で受け、相手の剣を破壊する。これがアルバの刀剣の受けでは最適解だ。

 


 けれど私の故国は別の解を持っている。

 それが両刃の小型短剣である鏢をのこぎりの様に並べてつくった刀、連刃刀れんじんとうだ。

 刃こぼれしても代えがきく、相手の刃をからめる、のこぎりのように削れるなど利点が多くある。

 欠点もないわけではないけど、縞模様が虎に似るので、私のように虎獣人が愛用する。

 

「——それまで!」


 ホウライ刀とアタシの連刃刀がからみ合った所で終了の合図がだされた。

 さて、けっこう有利に押し込んでいたと思ったけど、どう評価されたか……


 向こうではミワが相手に対してお辞儀をしている。

 模擬戦の途中でチラッと見た感じではミワも優位に進めていた。

 それにしても、いつもお辞儀をしている奴だな。


 ホールに臨時で設けられた窓口で書類手続きを済ませた。

 後はオーガーの討伐が要件だけど、アタシとミワはすでに銀級なので面接が通れば入団できるはずだ。

 アタシもミワも、模擬戦ではクラン職員相手にけっこう押し込めたし、なにげにクラン内で私達って上位に食い込めるかも? 軍人だっていうからビビりすぎだったかも知れない。


 機嫌良く書類の完成を待っていると、ホールに怒号が響いた。


「俺たちはティルク人だぞ! なんで第三長城外で活動出来ねぇんだよ」


 五人の冒険者が書類窓口の職員に詰め寄っていた。

 あ、あいつらバイターにいた下っ端じゃないか。

 かんべんしてくれ。せっかく上機嫌だったってのに。


「さっきもいいましたが、冒険者ギルドが鉄級冒険者の第三長城外での活動を認めないからですよ。この原則はウチでも変わりません。ウチはティルク人保護を目的としていますが、ティルク人優遇策はとっていません。居住区への入居のみは優遇されますが、他は中つ人と同じです。中つ人でも私のようにクランにも入れます」


 職員が辛抱強く説明している。

 あの職員、さっきミワに話しかけてきた明黄色した髪の子じゃないか?


 職員の説明している内容はクランの規約にもある。

 冒険者でも鉄級冒険者はクランに入れず、一般人と同じ扱いになる。

 つまり第二長城外でしか活動ができないし、十字街のギルド支部も利用できない。


 それが騒いでいる奴らには我慢できないらしい。


「じゃあ皇国軍人がいきなり銅級になったのはどう説明つけるんだよ!」


「彼らは一般人とは違い様々な訓練を受けていますので例外ですし、銅級中級相当と認めるためのクラン内試験も受けています」


 ねめつけるような姿勢で、蛇獣人がテーブルに手をつき、長い首を職員にのばして口を開いた。


「”彼ら”だぁ……じゃあお前は軍人じゃなくて実力で銅級になったってのかよ」


「軍人ではないですが、私もパーティ内で銅級相当と認められたクチですね」


 彼女の格好は周りの職員のような統一されたホウライ国の服ではない。

 受付嬢がきるような普段着だし、テーブルに松葉杖のようなものを立てかけている。

 生産職で銅級にあがったようにみえるけど……だいじょうぶか?


 あっさりとした職員の回答に対して、取り囲んでいた鉄級冒険者が静かに色めき立った。


「へえ……じゃあアンタは銅級相当の腕前なんだろうなぁ? ちょっとそこで俺たちに稽古つけてくれよ」


 やっぱりそうなるよな……

 ああいうバカが生産職の銅級をあおるのは見慣れた光景とはいえかんに障る。

 割って入ってぶん殴ってやろう。


 けれど、遠巻きに見物している人達を割って前にでると、予想外の展開になっていた。


「いいですよ。稽古になるかはわかりませんが、腕はみせられます」




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


まさかのクローリス絡まれ回です。


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