第28話【難民第一陣:リオンの演説】

「さきほど第二小隊・第五小隊が王都のクランハウスに到着しました」


 クローリスの部屋で新型の魔弾について話していると、スズさんが来て、皇国軍の小隊が難民を連れ王都に到着したと報告をされた。


 ついに来たか。

 アルドヴィンからの脱出を希望するティルク人を保護するにはアルドヴィンの各地を網羅する必要がある。

 そこで皇国軍は大隊を三つに分け、各地を巡ってブラディアに着くようにした。

 今回到着した第二小隊と第五小隊の組は王国北部の鉱山が多い地域をまわって来たはずだ。 


「よし、いよいよティルク民保護の本番だな」


「うん、行こう!」


 屋上に着くと、既にオルミナさん達がビーコに鞍をつけていた。

 さすがスズさんだ。手際がいい。

 ただ、以前から気になっているのは移動手段だ。


 スズさんは”先ほど”まで王都のクランハウスにいた。

 にもかかわらず”今”、この第三十字街に報告に来ている。

 下手すればビーコより早く移動している事になる。


 ビーコの背中の上でスズさんの移動方法についてきいてみたけど、


『クランリーダーの法具と同じです』


 と冷酷な目で返された。

 ゴメンナサイ。


    ――◆ ◇ ◆――


 クランハウスの建物の入り口から直進すれば練兵場となっている中庭にでる。

 中には既に小隊と難民が入っているらしく、入り口までざわめきが聞こえてくる。

 僕達は難民に向けて話しかける必要があるため、横の階段から二階に上がった。

 すると、階段を登りきったところで、暗紫色の髪をした弓使いの女性と、軽戦士風の出で立ちをした、明赤色の髪の男性に敬礼でむかえられた。


「リュオネ殿下、お久しゅうございます。第二小隊、はせ参じました」


「同じく、第五小隊、令旨にもとづき、皇国人民およびティルクの民を護送して参りました」


 どうもこの二人が小隊長らしい。


「ジャンヌ、コリー。正式な軍令ではないにもかかわらず、私の願いに応じてくれてありがとう。道中につらいことはなかったか?」


 候主モードのリオンが二人に微笑むと小隊長の二人は否定の言葉とともに尻尾をゆらしている。

 さすがのカリスマである。

 軽戦士はなんとなくやんちゃそうなのにな。


 などと考えていたら弓使いの女の人から胡乱な目を向けられた。


「で、この人が殿下を差し置いてクランリーダーになった男ですか」


 軽戦士風の男も格好を崩して様子を見ているけれど、好意的な雰囲気ではない。

 スズさんやっぱり僕の事嫌いでしょ。

 僕がクランリーダーになった経緯とか、悪意を持って説明してるでしょ。


「はじめまして。クランリーダーのザートだ。パーティでリーダーをしていた流れからクランリーダーになった。僕は中つ人だけど、ティルクの民を助けたいという志は彼女と同じくしている。よろしく」


 僕の言葉をひきついでリオンも口を開いた。


「彼は優秀な戦士であり魔法使いで、人格の面でもリーダーにふさわしい人物だ。私のパートナーである彼の言葉は私の言葉だと思ってクランで活動してほしい」


「パ、パート……」


 目の前の二人が驚愕の表情を浮かべて僕を改めて見る。スズさんもだ。

 リオンさん、この三人、パートナーを恋人か夫婦って意味に受け取ってるっぽいんだけど。

 そしてあなた自身もどんなつもりでその言葉を発しているのか教えてくれない?


「——!」


 リオンの手がそっと僕の手の平に重ねられる。

 突然の行動に驚いたけど、皆の手前平静をよそおう。

 なるほど、そういう意味ですか、そういう意味ですね……どういう意味?

 頭の中が混乱してくる。


「……ゴホン! とにかく集まっている人々に、殿下にはお言葉をかけていただきます。民が混乱するため、クランリーダーは後ろにひかえていてください」


 非常に不本意そうにスズさんが話を切り上げ先導していく。

 

「(さっきのはね、ああ言わないとみんなが命令をきかなさそうだったから、だよ)」


「(ああ、そういう……うん大丈夫)」


 どうやら場を切り抜けるためにあんな事をしたらしい。

 ちょっとだけ残念に思っていたら、小隊長達の後ろで隣を歩くリオンが頬を赤らめていた。

 眺めていたらチラリと上目遣いをされたので、僕の心は期待と落胆と安堵あんどで大変なことになってしまった。


 その後もなにかごにょごにょ言っていたリオンだったけど、それもあいさつをするための窓が近づくにつれておさまった。

 そう、切り替えていこう。

 ここからは一挙手一投足が、不安を抱える難民の僕らへの印象を左右する。


「殿下、この位置からお言葉をお願いいたします」


 開け放たれた窓の中心にリオンが立ち、その隣を空けられたので僕も一歩下がって立つ。

 二階の窓から見えるのは様々な種族のティルク人だった。

 そして多くが子供と年寄りだ。


 スズさんが驚くことのないように、と移動中に教えてくれたとおりだ。

 北部地帯は労働に耐えられる人口を根こそぎ刈り取ったのかもしれない。


「皇国の民、そしてティルク諸国の方々。私はホウライ皇国の候主であり、冒険者クラン【白狼の聖域】のサブリーダーであるリュオネ・ミツハ=アシハラだ」


 群衆のほぼ全員は初めてリオンの姿をみるのだろう。

 子供が跳ねて手を振り、横で拝んでいる年寄りに叱られたりしている。


「まず、皇国と王国の軍事同盟がやぶれた事により、皆が奴隷狩りの脅威にさらされた事を深く憂う。私と、元皇国駐留軍は皆を脅威から守るため準備をしてきた。その結果、ブラディア王より、皆を奴隷のように扱うことはないとの約束と、一時居留するための土地、そして戦争が終わるまで、皆が離散しないよう保護してほしいと依頼をいただいた」


 皆から喜びを表すどよめきがおきる。


「私はクラン【白狼の聖域】に皇国駐留軍を組み入れ、ブラディア国の内陸部に用意した居住区にて皆を守る事を誓う。最後に、ここにいる皆が道中一人も欠ける事無くブラディア国に入ることが出来た事を喜ばしく思う。【白狼の聖域】は君たちを歓迎する!」


 演説を締めくくった後、甲高い歓声と拍手がクランハウスの中庭に響いた。




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


リオンがちょっと攻めた感じですけれど、まだ攻め切れてませんね。

手を握るだけで真っ赤って……



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