第28話【オクタヴィアとの戦闘訓練】
「ガンナー卿、だと?」
「うそだろ、全然弱かったじゃねぇか」
「馬鹿、さっきまで本気じゃなかったんだろ」
僕の正体をオクタヴィアさんが大声で説明してくれたお陰で周りは騒然となっている。
それにしても、僕がレナトゥスの刃で出した刃のすぐ後からポーションを出したのを一発で言い当てたオクタヴィアさんはさすがだ。
「さて、そこで座り込んでいるお前、自分が何をしたのか言ってみろ」
オクタヴィアさんの朗らかだった声が急激に冷えていく。
冷たい声のせいか、ポーションがきいて痛みがなくなったせいか、先ほどまでのたうっていた若い部隊長が起き上がって震えている。
「申し訳ありません。ガンナー伯爵に無礼な事をいたしました」
「その無礼な事とは。具体的に」
オクタヴィアさんは杖刀というロングソードほどある片刃直刀を、文字通り杖代わりにして重ねて問う。
「はっ、知らずとは言え、弱い、などと侮辱的な言葉を使いました」
「なるほどわかった」
そこじゃないんだよなあ。僕と皇国人が怒っているのは。
チラリとみるとオクタヴィアさんが神妙な顔でうなずいた。
「貴様は降格の上、処分が決まるまで営倉の中だ」
「なっ! 降格⁉ 私は隊でも指折りの実力を持っております!」
まるで意味がわからないという顔をして若い部隊長が驚いている。
その様子にオクタヴィアさんがうんざりしたようにため息をついた。
「周りをみろ。皇国軍の軍人は、お前がミツハ殿下を愚弄したのでお前をたたきのめしたがっている。ガンナー卿は彼らの代表としてお前をたたきのめしただけだ。お前に弱いと侮られたことなんてなんとも思っちゃいない」
いえ、普通に気分も悪かったので私怨もありましたけど、とは言えない雰囲気だ。僕は空気が読める人間なのだ。
「途中から他の者は場の変化を感じて口をつぐんだ。場の空気が読めん奴は戦場の空気も読めん。まだ言われたいか?」
オクタヴィアさんの言葉にうつむく元部隊長をさっき駆け寄っていた同僚が連れ出していく。
僕はその後ろ姿を鬱々とした気持ちで眺めていた。
本当に余計な事をしてくれたよ。
普通に訓練して終えたかったのに。
「ガンナー卿、先ほどは我が軍の兵士が失礼を働いた。殿下、卿、そして【白狼の聖域】全員に謝らせてほしい。その上で、この後の訓練を卿としたい。どうだ?」
はいそうですよね、貴方の熱い視線は出会った時から感じてましたよ。
もちろん個人的な好意の視線じゃなくて戦ってみたいっていう戦闘狂の視線をな!
オクタヴィアさんの申し出に南方諸侯軍の兵士達が盛り上がり、皇国軍兵士も競うように雄叫びを上げる。
退路はすでに断たれている。やるしかないか。
僕が承知すると、あっというまに人垣が十ジィほどの円をつくった。
「皆、悪いが少なくとも二十、いや三十ジィまで拡がってくれ」
オクタヴィアさんが指示通りに兵士が後退すると、その中にリュオネをはじめとするウチの幹部達と南部諸侯やその武官の姿が見えた。
「団長ー頑張って下さーい!」
「油断すんなよー!」
「閣下、即死だけはしないでください。ミワの術でも回復しきれません」
めいめい勝手なこといっているけど、スズさん言い方が怖いよ!
「準備ができたら言ってくれ。私はいつでもいいからさ」
そういってオクタヴィアさんは杖刀の柄に身をもたせた。
一瞬挑発かとも思える姿勢だけど、あらかじめきいていた彼女の経歴のほとんどは戦場での戦績で埋め尽くされている。
まさに常在戦場を地で行っている人だ。
姿勢なんてなんの気休めにもならないだろう。
「では、お願いします」
僕も訓練用の刀ではなく、ミンシェンが打った漆黒の大太刀を上段にかまえた。
通常のホウライ刀では長大な杖刀を受けとめきれないと踏んでのことだ。
「卿が広めた魔鉱銃は使わないのか?」
オクタヴィアさんが朱色の髪を揺らし、不思議そうに首をかしげる。
「時と場合によりますよ。魔法はアリでいきますか?」
「ああ、そうでなくては。オロクシウスをも一撃で沈める卿の魔法を是非みせてくれ!」
あれは法具の力で僕の魔法じゃないんだけどな。
「まずは小手調べと行こうか!」
赤色の瞳を輝かせオクタヴィアさんが打撃武器にもなる杖刀を鞘をつけたまま上段にかまえ打ち込んできた。
――◆ 後書き ◆――
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