第32話【逃亡するクラン】
倉庫をでると、先ほどまでしなかったはずの
そこかしこの建物から聞こえるうめき声を無視し、音が聞こえる方へと向かう。
「ザート、中央広場のらせん階段が開けられてる!」
走りながらリュオネが拳銃でさし示した。
中央広場のらせん階段はどの出城にも備え付けられている非常用の脱出路だ。
あそこから音が漏れ出した、ということは、この下で戦闘が行われているのか。
「脱出した人達は……左か!」
彼らから話をききたい。
下の戦闘に加わるか判断するための材料が欲しい。
ここに務める一般人だって元冒険者だ。
何が起きたかはわかるだろう。
「ザート、あの人達、冒険者だ!」
身体強化をして逃げる一団の背中に近づくにしたがい、彼らが何者かわかってきた。
最後尾でエルフの誇りである輝く金髪を振り乱して走る男は以前グランベイであった金級冒険者のシャールだ。
「リュオネ、気をつけていこう、あいつらは【雪原の灯台】だ」
雪原の灯台との確執はリュオネも知っている。
同時に警戒もする。彼らは仮にも金級パーティだ。
逃げるなんて何があったんだ?
「待ってくれ! 応援に来たから話をきかせてくれ!」
僕の声にシャールを含めた多く者がほっとしたように歩をゆるめた。
しかし振りかえった瞬間、むけられた顔のすべてが憤怒の形相へと変わった。
「二人だけで応援だと!」
「おい、銀髪の女は皇国のトップじゃないのか?」
「グレーブさんは皇国人の野郎に殺されたんだ!」
なんだ? 二人だけで応援と言えない、というのはいいとしても、皇国人をなんでうらんでるんだ?
「簡単でいい。事情を説明してくれないか? ここにくるまでに何体かの魔人を倒した。魔人はまだ出城の下にいるんだろう? 何体いたんだ?」
一方的になじられて不愉快だけど、まずは話をきかなくては。
それなのに相手は先ほどまでいきりたっていたのに、いきなり黙りこくってしまった。
「お前達、ここは俺達に任せて拠点まで知らせに行くんだ。すぐに追いつく」
シャールが沈黙しながらもいらだちをむける獣人やエルフをなだめて先に行かせた。
残ったのはルギとよばれていた小柄な男とシャール、そしてシャールに抱きかかえられたフレイという魔術士だ。さっき死んだと言われていたグレーブという獣人がパーティの最後の一人だろう。
「さて、ザートだったな。位階を駆け上がりクランまで作り上げ、二人で魔人を倒すとは、やはり能力を隠していたか」
どこか憎々しげにシャールが口にするけど、今は気にしている時じゃない。
「厳しい戦いは人を成長させますからね。それで、なにがあったんですか?」
「遠征に行っていた【重厚な顎門】の精鋭が複数の皇国人の魔人に追われて逃げてきた。門番の判断ミスで長城大門を閉めるのが遅れ魔人の侵入を許してしまったのだ」
襲ってきた魔神が元皇国人だったという事か。
理不尽だとはおもうけど、さっきのリュオネに向けられた悪意の意味はわかった。
「その後出城にいた【重厚な顎門】の残りと【雪原の灯台】のメンバーで対応したが、皇国の魔人が強力で倒すどころか魔人が増えてしまう始末だ。満身創痍の我らでは対処できないと判断し、第五山岳砦に撤退して援軍を呼ぶことにした。お前達も応援に入るというなら、無理をせずたたかうんだぞ」
シャールの語った内容は妥当な内容で、明らかにおかしいところはない。
でも何かがおかしい。
ではな、きびすを返したシャールの背中にリュオネが声をかけた。
「まってください、出城の下ではまだ戦っている人は誰ですか?」
そう、剣戟の音はまだひびいていた。
複数魔人がいたなら、まだ戦っている人達がいるはずだ。
【重厚な顎門】の残党か?
確認しようとしたが、それは唐突な激高によってさえぎられた。
「うるせえんだよホウライ人どもが! グレーブは死んでフレイは意識が戻らねぇ! 全部お前等ホウライ人がしゃしゃったせいだ!」
ルギが心底いらだった様子でリュオネを血走った目でにらみつけた。
ここにも違和感がある。
他人の発言をさえぎる怒りは経験上、後ろめたい気持ちを隠している時のものだ。
ルギがこの態度ならシャールも同様だ。
何を隠しているのか知らないけど、正直には話してくれないだろう。
「リュオネ、ここは一旦引こう。それより時間がおしい。出城の様子を見に行った方が良い」
「そうしてくれると助かる。フレイを最高位の治癒術が使える者に見せなくてはならない。今度こそ行くぞ」
シャールはそう言い残し、山岳砦の方角に走り去っていった。
「ザート、誰が戦っているかはわからないけど、何体魔人が残っていると思う?」
中央出城に走りながらリュオネが訊いてきた。
「難しいな。シャールの口調では皇国人の魔人は多数ではないようだった。人数でいえば、新たに魔人にされたものの方が多いはずだ。中央出城にいる冒険者は少数だから、実質【重厚な顎門】と【雪原の灯台】で対応したんだろう。二つとも中規模のクランのはずだから、逃走した集団の人数と戦闘の跡から考えると、残っているのは十から三十というところだと思う」
魔人が三十体。
自分の口から出た想定に寒気がする。
長城で正面だけから接近されるような状況でも五体が安全に倒しえる限界だった。
もし位置取りを間違え、全方位から三十体の魔人に攻撃されたならさすがに不覚を取るかも知れない。
「皇国の魔人は残っているかな?」
「そこがわからないんだよな。【白狼の聖域】のメンバーが第五長城外にでるのはありえない。ミワのように元から冒険者をしていたホウライ人も殆どがクランに合流したはず」
そこまでいって残った可能性に思い当たった。
皇国人が第五長城外で魔人になった事件。
でもそんな長時間、魔人で居続けることが可能だろうか?
「ザートが想像している通りだと思うよ。まだ倒されていないなら、出城にいるのはたぶん異界門事変の時に魔人になった皇国の軍人だよ」
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます!
コズウェイに入ってからザート達が戦っていた魔人は新しく魔人になったもの、以前から魔人だったもの両方がいます。
次回は戦闘回です。
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