第12話【真竜ビーコのやらかし】


 涼しくなった風が頬の側を通り過ぎていく。

 気づけば夏の気配はグランベイとともに遠のいて、眼下に広がるロターやグランドルの牧草を風が通り抜ける乾いた音が、秋の近づきを感じさせた。


「ザートいってらっしゃい。何か変わったものがあったら拾ってきてね」


 コトガネ様と修行をするため残ったリオンの見送りを受けながら、僕はアルバトロスのメンバーと一緒に第三十字街を飛び立った。


   ――◆◇◆――


 クラン結成後、一度皆で馬車を仕立てて領都に向かった。

 出向することに最後まで抵抗していたクローリスだったけれど、リザさんの顔をみて観念したらしい。


 死んだ目をしてバスコ小隊の登録作業をこなしていった。

 ところでドナドナってなんだろう。

 後二百七十名くらい頑張ってくれ、と言ったら暴れだしたのでリザさんの手で研修室はんせいべやに連れて行かれた。


 リザさんに案内され、領都の拠点も見ておいた。

 新市街と旧市街の境目にあり、座学のために残るバスコ小隊の宿舎や一般冒険者にたいする窓口として使うことになりそうだ。

 スズさんはどんな方法をとったのか、既に冒険者登録をすませていたけれど、スタッフのスカウトをするために残った。



 他にもいくつかイベントはあったけど、領都でした事はそんなところだ。

 そしてリオンを第三十字街で降ろし、今に至る。


   ――◆◇◆――


「ここから先はバーベン領よ。デニス、地図の作成お願いね」


「まかせい」


 最後尾のデニスが後ろ向きになって画板の地図にマッピングをはじめた。

 これは普段からしていて、高速で空を飛行する竜使いは、自分達が通ったルートを記録しないと迷ってしまうらしい。


 今回僕らがバーベンに来た理由は魔素だまりでの魔砂の採取だ。

 リヴァイアサンとの戦いで消費してしまった僕は、書庫に魔砂を補充しなければ魔法の蓄積ができない。

 “落城の岩”も残り少ないし、身体強化による近接戦闘だけでは心許ない。

 パーティの活動で討伐する魔獣も強力になっていくだろうし、このあたりで一気に魔砂を貯蔵しておこうというわけだ。


 魔素だまりに行くにはもう一つ理由がある。

 それは【白狼の聖域】入団テストにおけるルートの確保だ。

 【白狼の聖域】は入団にあたって実力を見ていると周囲にアピールする必要がある。

 そのため、”オーガーの討伐”をクラン入団するための課題とした。


 しかし、オーガーの住む場所はバーベン領の中央付近の森になり、どの街からも遠い。

 そのため、たどり着くまでにいくつもの魔素だまりを超えねばならず、ブッシュホーンやオークなどと戦わないとオーガーまでたどり着けない。


 そこでオーガーの巣までの最短ルートを開拓することにした。

 既に知られている大きな魔素だまりを避けるルートを作成し、そこに重なる魔素だまりを空中から特定、僕が書庫で魔砂をすくい取り、魔素だまりをまるごと消してしまう。

 数ヶ月単位の時間がたてばまた魔素はまた湧いてくるので他の冒険者の迷惑にもならないだろう。


「お、オークが出てきよったぞ」


 魔獣をあぶり出すためにショーンと僕が下に魔獣よけを投げていると、デニスから声があがった。


「よし、じゃあここから“落城の岩”を落としてオークをせん滅させるよ」


「あ、ちょっとまって、それやらせてくれない?」


 オルミナさんからの予想外の申し出だ。


「ビーコが何か自信満々なのよ。ブレスを吐きたいみたい」


 確かに、真竜にはブレスがあったな。今のうちにためしておこうか。


「じゃあお願いして良いかな」


 そうこうしているうちに下は魔獣よけであぶり出されたオーク達で一杯になっていた。

 こちらを向き、キーキー鳴いて動き回っている。


「りょーかい。ビーコ、あなたのブレスでオークを片付けて!」


 オルミナさんが叫ぶと同時にビーコはオークの前で止まり、ホバリングをはじめた。

 オークに対して斜めをむいてくれるのはビーコなりの配慮だろうか。

 同時にビーコの身体から重低音が伝わってくる。

 ビーコが空中の微量の魔素をすごい勢いで吸い込んでいるのがわかる。

 風と水、両方の属性を持つビーコのブレスはどんなものなのか……


「——————」


 あれ?

 ビーコが口をあけ、何かを吐き出しているけれど、何も出ていないように見える。

 けれど、効果は現れていたようだ。


「ッ、オークの足が止まってく!?」


 よく見ると、ショーンの叫んだとおり、ビーコが口をあけた直後からオークの歩みが遅くなり、立ち止まってしまった。

 下からは悲鳴とも困惑ともつかない叫び声があがっている。


「もう一発だって! みんなつかまって!」


 オルミナさんの叫ぶのと同時に、身体を水平にしたビーコからすごい勢いで氷の塊が打ち出されていった。


 扇状に展開した氷の塊は動けないオーク達の身体を一瞬で吹き飛ばしていった。


 赤い花のように凍った肉片が散った氷原に近づくけど、嫌な予感がしたので地面を大楯ですくって鑑定してみる。


==

【ツンドラ】

風水竜の極冷ブレスにより凍った土。立つと足下から凍る。


==


 ビーコォ!


「皆降りないで。これヤバい奴」


 ちょっと前に採っておいたボアの生肉を投げ落とすと、ゴトンと音がした。

 その上に岩を落としてみるとパキィィィンといい音がして肉が砕け散った。

 ここに降りたらさっきのオークの二の舞になってしまう。


「「「…………」」」


 空中から周囲のツンドラを大楯でごっそりと切り取り、まともな土が露出した所でようやく降りた。


「うぉさっむ! さっむぅ!」


 皆が悲鳴を上げるなか、大急ぎで原因のツンドラと、ついでにオークの凝血石と魔砂を収納していった。

 もどるとオルミナさんがビーコの顔を両側から押さえていた。


「ビーコすごいねー、強くなったねぇ! でもホントはやり過ぎちゃったってわかってるでしょ? 目をそらしてないでこっち向きなさい? ね、ビーコ?」


 ビーコは目だけをあさっての方向に向けている。

 まあ、次からは氷弾だけ吐いてくれるだろう。

 恐ろしい子に育ってしまったな、ビーコ。




    ――◆ 後書き ◆――


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ファミ通文庫大賞しめきり直前ということで、なにとぞよろしくお願いします!

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