第19話【アウェイ】
あの後リズさんに今からでも空いていそうな宿を教えてもらった。
そして着いたのがここ「子鹿亭」である。
「そりゃ空いてるよね……」
宿に入ると花とハーブと石けんの香りが出迎えてくれた。
子鹿亭は女性や女性がパーティにいる冒険者のための宿だった。
「いらっしゃいませ。あら、あなたお一人?」
おっとりとしたふくよかなおばさんが対応してくれたけど、男一人なのは珍しいのだろう。小首をかしげていた。
「あ、一人です。宿を取るのが遅くなってしまって、ギルドのリズさんにここを紹介してもらいました」
「あらまあ、それは災難でしたね。でも大丈夫よ。ここは男の人もいるから」
こういう場合も慣れているんだろう。
此方がどこに困っているかも察してくれている。
普通女の園に男が一人なんて、さらし者も良いところだ。
仮に何も知らない男がスケベ心を出して入っても、そいつは一晩で逃げ出すだろう。
「ビビ、この子をご案内さしあげて」
食堂で仕事をしていたらしい十二歳ほどの少女が小走りでやってきた。
「ビビです。お部屋までご案内します」
う、目がなんか怖い。やっぱりアウェイだ。
案内されたのはどこか小作りな部屋だった。
しばらく書庫の中身を整理していたけど、おなかがすいてきた。
「うーん、この分だとご飯の量も少ないのかなぁ」
そんなことを考えながら食堂に入ると、いくつもの女性の視線にさらされた。
でもここで引いちゃいけない。
堂々としてないとやましい事を考えているんじゃないかとか疑われるからね。
あ、男発見。
座った席の斜め向こうのテーブルに水色の髪をした男がいた。同じパーティらしき女性達がいるけれど、視線があった瞬間、お互い大変ですねという目をしてきた。
うん、確かに大変だよ、でも僕ソロだから。アウェイ感でいったら金級だから。そこんところ間違えないでね?
「はい注文は?」
ビビがメニューボードを突き出しながらこっちをにらんでいた。
「あ、おなかにたまるもので」
「はぁ? だったら黒パン十個持ってくるけどいいの?」
「よくないです。こっちのBコースでお願いします」
うぅ、アウェイだ……
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