第53話【提督捕縛計画】
「着く頃には日が落ちてるだろうけど、後少しでビザーニャだからねー」
僕達が乗るビーコとサティさんのワイバーンの視界には、ティランジアの星が見える空と暗くなりつつある大地が広がっている。
ちょっと早いけどビーコの背中の照明を付けるか。
他のワイバーンや船にみつかってはまずいので最低限の明るさに調整する。
「よかったー、私夜の海って苦手なんですよ。どんな魔物がいるかわからないじゃないですか」
「サハギンの集落は夜になると光るからわかるぞ、ほれ」
デニスに促されてクローリスと一緒に下をのぞくと、暗い海の中にぼんやりと光る場所があった。
本格的な夜になればもっとはっきり見えるだろう。
「うわぁ、海中の夜景なんてロマンチックですねー」
「苦手じゃなかったの……」
はしゃぐクローリスにスズさんがため息をついたり、それなりに和やかな空の旅であったけれど、その中にあって未だになれていない人がいる。
「ところでカトリ少佐殿はここに来る途中、アデーンの海中ダンジョンは見ましたか?」
「え、ええ。沈みかけた遺跡の下から光と一緒に魔素が立ち上る妖しくも美しい風景でした」
時々スズさんがロジーナさんを気遣ってか話かけているけど、ロジーナさんが階級が上なのにやたら恐縮しているため話が続かない。
スズさんがこわい、というのもあるだろうけど、原因は他にある。
「ムツ様、やはり私がやらねばならないのでしょうか」
「はい。後日の裁判の事を考えると、副官である貴女が直接カスガ王から拘束するのが一番確実です。サティの報告の通りならばカスガ王のしようとしている事は極刑に値しますので遠慮は要りません」
有無を言わせないムツ大使の返事にロジーナさんはさらに耳を伏せてしまった。
ここに来る途中、旗艦に立ち寄って拾ってからずっとこの調子だ。
ちょっとかわいそうだけど仕方ない。
大使が言った通り、ロジーナさんには提督から委任を受けている形ではない、正式な皇国艦隊の指揮権を得てもらわなくてはならないのだ。
「一応確認ですが、ロターに残してきた皇国艦隊にカスガ提督に絶対忠誠を誓っている兵はいませんか?」
アルドヴィンにはまだ戦艦は残されているし、海軍基地が稼働しているので、戦艦を新造する事もできる。
まだまだ皇国艦隊には手伝ってもらわなくてはならないから、皇国海軍が仲間割れをして機能不全になられては困るのだ。
「その点はご安心ください。残してきた艦は皆私も含めて非ヨウメイ派の艦です。今帰国中の艦はすべてヨウメイ派ですが」
あ、なんかロジーナさんの瞳に暗い影が差した気がする。
自陣の船には貿易で甘い汁をすわせ、自陣にいない船に危険な任務を押しつけるとは、あくどいやり口だ。
「なるほど。では遠慮無く戦って良さそうですね」
「魔弾はほとんど風弾でそろえてるのでぬかりはないです!」
「ビザーニャには皇国の藩国であるリキウ国の船が常駐しています。ヨウメイとは商売敵のような関係なので拘束した船員の護送も喜んでしてくれるでしょう」
何か三人が物騒な事を言っている。
確かに武力で制圧する事にはなるだろう。
でもそれは最後の段階だ。
「いっとくけど、方針は軟禁されているリュオネの所にいって確認して決めるんだからな? 潜入なんだから静かにするんだぞ?」
「なんで私だけ⁉」
逆になぜいけると思ったんだ。
全部風弾にするってうるさすぎるだろう。火弾はともかく、低位土弾とか水弾とか応用が利くものを用意して欲しかった。
「この隠密用の弾帯を使ってくれ。今持ってるのは預かっておくから」
背負い櫃から弾帯を取り出してクローリスに渡す。
この背負い櫃はジョアン叔父が出発の時に神像の右眼から取り出して渡してくれたものだ。
リッカ=レプリカの予備のシリンダーや凝血柱など非常時の装備が入っている。
こうしてアルバトロスの装備もあわせて整えながらビザーニャまでの時間を過ごした。
「オルミナさん! このワイバーンを隠れ家に降ろしますので一度ビザーニャは跳び越えます。ついてきてください!」
暗闇からサティさんの声が聞こえてきた。
立ち上がり前方を見ると、すっかり夜の景色にかわったビザーニャの街が見えてきた。
「サティ様お帰りなさい!」
久しぶりに見る崩れかけた塔の廃墟から女の子が出てきた。
「ただいまサシェ。この子ともう一体の水をお願いね」
「わ、真竜ですかー。私初めてみたかも」
暗い色の髪をショートカットにした女の子が珍しそうにビーコを見る。
この子も第八なのだろうか。
「あ、そういえば今街に行ってるんですけど、兵種長がいますよ」
「そうですか。今まで連絡ばかりで姿を見せずにいましたが、どこに行っていたのか問い詰めねばなりませんね」
サシェの何気ない言葉にスズさんの目が闇の中で光った。
――◆ 後書き ◆――
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