第54話【リュオネの家族】


「スズさん、第八の兵種長というのはアルンという名前だったよね?」


 隠れ家のテーブルで休憩を取りながらスズさんに問いかける。

 第八から上がる情報はスズさんから聞いていたので余り気にしなかったけれど、名前だけは聞いていた。これから会うならどんな人かきいておきたい。


「ええ、アルンはリュオネ殿下の異母姉にあたる方です。なんというか非常に自由な方で、家督は継がずとも皇族であるにも関わらず遠方から指示できる独自魔法を使えるのを良いことに兵種長でありながら好き勝手を……いえ、失礼」


 スズさんが気まずそうに咳払いをした。

 うん、スズさんがだいぶ手を焼いている事はわかったよ。


「サシェ、兵種長がビザーニャに来た理由について知っているか?」


 諜報が専門の第八の兵種長がマロウのいるビザーニャに偶然立ち寄っているとは思えない。

 恐らくマロウの計略に何らかの形で関係しているのだろう。

 早めに連携を取っておきたい。


「いいえまだ聞いていません。昨日の夜ふらっと来たんです。しばらく滞在するからって言っていたんですけど、今朝に出て行ってから全然帰ってこないんですよね」


 暖炉で温めた軽食を並べながら話すサシェの口振りからは兵種長を心配する様子は見られない。

 信頼されている、ってことでいいのか?


「何か変わった様子はありましたか?」


「ホウライ国の商人らしい人と一緒に来てましたよ。知らない人でしたけど、ここを見せるくらいですからただの商人ではないと思います」


 サティの問いかけに意外な話が出てきた。


「商人……、気にはなりますが情報が足りませんね。団長達が殿下と打ち合わせをしている間に街でアルンが行きそうな場所を当たってみましょう」


 ため息をつきつつスズさんが軽食を手早く食べていく。

 澱みない、一切無駄のない動きであっという間に空になった皿を見て、サシェが目を丸くしている。

 どうやらスズさんの大食いは第八にあまり知られていないらしいな。



「あれ、人が戦ってないです?」


 リュオネが軟禁されている船までビーコに乗って向かう途中、空の上から下を眺めていたクローリスが地上を指さした。


「たしかに複数人が三人を襲っています。魔法の位階からしても手練れのようですね。目立たないように火魔法は使っていないようです。……あ」


「え?」


 夜目の利くサティさんが下の様子を解説してくれていたけれど、唐突にそれまでの声とは違った、なにか残念な声をだした。


「団長、大変遺憾ですが下で戦っているのはウチの兵種長です」


 諜報員が追われるとかバカじゃないの、という呟きは聞かなかったことにしよう。


「それじゃ、加勢しよう。どうせ探して話を聞く予定だったし。あ、でも敵を逃がすと厄介だからビーコから下りて取り囲む感じで」


「はーい、それじゃ降りるわよ」


 すでに降りる場所を見つけていたオルミナさんがビーコに伝える。

 戦っている一団からは死角になっている場所に降りてからぐるりと取り囲んで包囲を狭めていく。


 隣にいるサティさんにうなずくと、サティさんは戦っている一団に鋭く呼びかけた。


「番号ゼロ! 味方が包囲しているから離れて!」


 黒い人影が三つ、素早く反応して他の者から距離を取る。

 相手は十人くらいか。


「クレイ!」


 地面を操作して土から白い砂を押し出した。

 一応少しずつ体内魔素が流れる経路は回復しているみたいだ。


 月の光に照らされる白い砂の上に、砂で足を取られた人影がはっきりと見えた。


「帝国兵か⁉」


 シルエットは以前に見た帝国兵の装備だ。


「団長! 彼らを生け捕りにして下さい!」


 三人と合流していたサティさんの声に応じて指示を出す。


「分かった! かかれ!」


 再び剣戟の音が闇に聞こえる中、一人、僕めがけて走り込んできた。

 得物はサーベルだ。

 帝国兵の標準装備より長い。両手で持つタイプだ。

 服装が違う所をみても、恐らく一団のリーダーだろう。


 横薙ぎに振るわれたサーベルを下がって避けると、たたみかけるように連続して切り込んできた。

 斬撃は鋭く、踏み込みにためらいがない。


 深く受ければ手首を返されて突き込まれる。

 浅くはじき、敵のリズムを崩すのを優先する。

 

 大ぶりの袈裟切りを下からすくい上げそのまま足を切る、と見せかけて一気に敵の顎まで切り上げるが、浅い。


「退かせないよ」


 不利を悟った敵が撤退の合図を出そうとした一瞬をついて魔鉱拳銃で風弾を抜き撃ちに放った。

 不意打ちで頭を大きくのけぞらせた敵の手からサーベルをたたき落とし、そのまま柄で腹を殴る。

 素早くビーコの背から持ってきた拘束の魔道具をかけると、暴れていた敵は観念したのかおとなしくなった。


「皆、逃がしていないか」


 男を引き起こして最初の砂場まで連れて行くと、方々からそれぞれ捕まえた敵をつれた人達が集まってくる。

 ロジーナさんちょっと待って、引きずってるその二人って意識ないの?


「じゃあ、事情をきこうか。いや、その前に初めましてかな?」


 サティさんと一緒に歩いてきた三人に向かって言う。

 彼らの誰かが第八の兵種長だろう。

 暗くてよく見えないけれど、一人はさっき僕が戦った男と同じような軍服をきた女性。変装した皇国人か、帝国軍人でも状況から一応仲間と考えて良いんだろう。

 次はゆったりとした白い服をまとった女性。僕より頭一つ分背が低いかな。

 最後は同じような服装をしたミンシェンくらいの小柄な女の子だ。

 皆髪色が暗色をしている。


「ごめん、誰ががアルンなんだ?」


 情けないけどサティさんに助けを求める。

 リュオネのきょうだいなんだから一瞬で分かるとおもったのに、暗いせいかよく分からない。そもそもケワイの髪飾りのように変装用の魔道具をつかっているだろうし。

 三人の中から小柄な子が呆れたような声をだした。


「おいおい、義弟よ。私をみわけられないんじゃ大事な妹を任せられないぞ?」


 笑った女の子が頭に手をやると、見るまに髪色が月の光に輝く銀髪になった。


「初めまして、【白狼の聖域】団長殿。アルン=ミツハ、ただいま任務より帰還いたしました」






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


ようやくというか、ずっと行方不明だった第八のリーダーを出しました。

人となりは次回以降に明らかになります。


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