第08話【スクロール作成】
カウンターでのやりとりを終えた僕らは、ギルド別棟に向かった。
目的は、スクロールや魔道具を加工する工房スペースを借りるためだ。
昨日のポーションと同じようにバルコニーで作業をしてもいいけれど、今日は風が強いから、屋内で作業することにしたのだ。
「お、ここだ」
グランベイ支部では軽作業を天井階で、鍛冶など重作業を遮音された地下階でするように工房スペースがつくられている。
最上階の北に面した工房スペースは、天窓もきられていて使いやすそうだ。
今は他に人がいないので実質貸し切り状態になっている。
「ザート、魔方陣の作成なら私ができる事ってないんじゃないかな?」
「いや、リオンとクローリスにも手伝ってもらうよ。コツを教えるから椅子に座って」
二人には魔術用筆記具のインクとペンを渡し、拳くらいの厚さのジオードガラスでできた模写台を挟んだ反対側に座ってもらう。
まずは洗浄魔法のスクロールをつくってもらおう。
紋様集から洗浄魔法の紋様紙を二枚抜き出し、ジオードガラスの模写台にのせる。
そこにさらに羊皮紙をのせる。
「図柄を移すなら透けないと困るんじゃないの?」
リオンの質問ももっともだ。
たしかに、絵を描いたり刺繍の下絵をうつすなら透かす必要がある。
羊皮紙は薄いけれど、光を透かすかといえば微妙な所だ。
けれど、魔方陣の場合ちょっと理屈が違うんだよ。
「いや、スクロールの場合はこれでいいんだ。移すのは模様じゃなくて魔力の経路だから……あ」
学院時代に覚えた教授法って、魔力循環を意識させるために手をつなぐんだった!
僕が実習で教わったのがお爺さん先生だったから、全然意識してなかった。
「どうしたのザート?」
正面に座っているリオンが怪訝な顔で見上げてくる。
今からでもやめようっていおうか? いや、それこそ気まずいだろう。
魔力循環が意識できている人なら手を取る必要もないわけだし。
「大丈夫。ちょっと実演するからペンを借りるよ」
リオンの魔術用筆記具を取り出して、ペンをインクに浸す。
ペンは各属性の鉱物を混ぜたジオードガラスを溶かし、束にしてねじり、ペン先をつくったものだ。
二人の注目をあびつつ、模写台に添えた左手とペンを持つ右手の間で魔力を循環させる。
羊皮紙にペンを近づけると、ペン先がすいよせられるように動く。
「……たしかにペンが勝手に動いてるね」
「なるほどなるほど」
二人にペンに触れてもらって動きを確認してもらった。
「左手から魔力を放出して右手のペン先から吸うイメージで。はい実践!」
「「できません」」
三秒で諦められた。勢いでいけるかな、と思ったけどだめか……
「じゃあリオン。僕の拳に手を乗せて。これから魔力循環するから感覚をつかんで」
僕は左手を台に添え、右拳をなんでもないふりをしてリオンの左手の前に出した。
「うん、わかった」
そういうとリオンはあっさり左手で僕の拳をつかんでくれた。さすがイケメン。躊躇がない。
「じゃあ、いくよ」
目を半目にして魔力循環を始める。二人分の魔力を動かすから結構集中しなきゃな。
ペン先をみるとためらいなく動いているのがわかる。
よし、上手くいってるみたいだ。
「おや二人とも、顔があかいですよー?」
クローリスのからかうような言葉につられて思わず目線を上げると、ペン先に集中しているようで全然できていないリオンの真っ赤な顔があった。
ペン先は動いているのでこちらから魔力循環を止めるわけにはいかない。
くっ、さっきまで意識せずにいられたのに。クローリスめ、余計なことを……
ようやく描き上げると、二人同時に手をはなす。
気まずさが半端ない。
「もぅ、クローリス! こんどはそっちがやるんだからね!」
「ぷぷ、私はリオンみたいにウブじゃないから平気ですよー!」
リオンの抗議にも余裕のクローリスだったけど、結果は……
「なんか、あたたかかった……」
はい、真っ赤でした。
お爺さん先生、もう少し若者同士でも平気な教え方をして欲しかったよ……
――◆ 後書き ◆――
※第八話は長いため二分割しました。
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