第26話【銃量産計画】
第三十字街の北側、バーベン領に接した難民居住区は、生産職を集めるつもりで町割りをしている。
とはいっても、移住者の中で工房を構えたいというのは今のところ一人しかいないんだけど……
「ウィールドさん、来ましたよー」
真新しい鍛冶場に運び込まれた木箱をたどって奥に向かうと、炉に火を入れたウィールドさんが振りかえった。
「おう、ザートか。それと……誰だったか?」
ウィールドさんに名前を覚えられたのは進歩だけど、デニスはまだらしい。ドワーフ同士というのは関係ないんだな。
「ワシはデニスだ。同胞の名前まで忘れるのか。聞いたとおり変人だな」
デニスが呆れながら工作台に向かっていく。
僕と作業を終えたウィールドさんもそれに続いて備え付けの椅子に座った。
「それで、今日は何のクランの集まりだったか。俺はクランに入った事がないから流れがわからん」
僕は返事の代わりにオリジナルの銃と、撃ち出す弾の大きさなどを変えた数種類の試作銃を書庫から取り出し、作業台にのせた。
書庫はもう他人に隠さない。
クランもできあがったし、位階は銀級にあがったし、他人に奪われない抑止力は十分にあると判断したからだ。
「これはバルド教の幹部から奪った法具で、弓よりも段違いに早い弾を撃ち出せます。これの話をしに来ました」
続けて、弾頭に魔鉱石をつけた血殻で作った弾丸を取り出す。
「銃は当たれば魔法が発現する”魔弾”を射出できます。うちのクランではこれを運用して組織としての戦力を底上げしたいんです」
魔法障壁など対魔法の手段があるけれど、遠距離から多様な魔法を打ち分けられるというのは十分な脅威だ。
是非とも改良して量産したい。
「クローリスが持ってた奴だな。あいつは来ないのか?」
おい、ウィールドさん、クローリスの名前はもう覚えたのか。
武器がからむと記憶力があがるのか。
「来る予定だったんですけどね。昨日到着早々ひどい飲み方をしたせいで二日酔いになっていたんで休ませました。魔道具の開発はクローリスが責任者なので、次回以降は彼女から話をきいてください」
そういって、途中に銃の試射をはさみつつ、作れる範囲について議論した。
僕がコンセプトを伝えて、三人で実現方法を考える。
クローリスから異世界での銃の使い方はきいている。
彼女は異世界では学生だったので、知識はかなりふわっとしていたけど、参考にはなった。
「砲という大きな銃を作る時の合金の配合もやっかいだが、やはり機関部の立体魔方陣の作成に時間がかかるな。そもそもワシは専門外だ」
「うむ、どの形の銃や砲を作るにしても、性能のいい立体魔方陣が作れなければ意味が無い」
形や機能についてはだいたい決まってきたけど、肝心の機関部がどうしても壁になる。
「うーん、クロウがどんどん新しい魔方陣をつくっているから、帰ったらきいてみましょう。彼女が手順を確立してくれれば分業も出来るはずです」
でも今は機嫌が悪いんだよな。
遠征途中の村で買って書庫にしまってあるバーベンのデザートチーズやグランベイの果物を持っていこう。
今クラン内の生産職はクローリス、ウィールドさん、デニス、それにバスコ小隊の四人だ。
バスコさんの話では今こちらに向かっている第五小隊に鍛冶スキル持ちが多いらしい。
量産については彼らと、新規加入の冒険者、難民の人達に期待している。
「魔弾はどうするんだ? 俺は刀ばかり打ってきた金属鍛冶だぞ」
「鍛冶スキルではなく、下位土魔法のクレイが使える難民の人達に仕事として依頼します。この”血殻”という石材と魔鉱を加工して、リオンが用意した魔法文字の見本を元に刻んでもらいます」
ウィールドさんが渡しておいた血殻のブロックを手に持って眺めたり叩いたりしている。
「凝血石のカラを固めたから血殻か……カラなんて裏口につんでおけば孤児が勝手に持って行ったから気にもしなかったぞ」
これは僕も知らなかったけど、血殻はバルド教の聖堂に持って行けば小銭に代えてくれる。
ちりも積もれば山となるという言葉通り、バルド教はチリを集めて生活している孤児を使って血殻をかき集めていたらしい。
「この材料が大量に必要なんだろう? 必要な量はたまっているのか?」
デニスの指摘は的を射ている。
僕もかなりの量を書庫にしまっているけど、バルド教が持っているであろう血殻はそれを余裕で上回っていると予想できる。
例え再利用したとしても、瞬間的な火力で打ち負けては意味が無い。
「そうなんですよね……手に入れるあては、あとは古戦場、ですかね……」
冒険者になりたての頃、モルじいさんに言われたことを思い出しつぶやくと、ウィールドさんが予想外のことをいいだした。
「それなら異界門事変の跡地に行くか? あそこは凝血石を大量に使い捨ててたからな」
大森林の奥に広がる異界門事変の跡地か。
なるほど、確かにそうだ。
アルバトロスやリオンにとっては因縁がある場所だけど、一度行く必要があるかもしれない。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本作を気に入っていただけたら、★評価、フォロー、♥応援をぜひお願いします!
【スマホでの★の入れ方】
カクヨムアプリの作品目次ページで、目次のとなりのレビューをタップ!
+マークがでるので、押すと★が入れられます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます